授与式
激闘からほんの数分経ちカズマの体力が少しだけ回復した頃、チャンピオンベルトの授与式が行われた。
リング上にはカズマと国王だけがおり、リング下で大会に参加した選手達が授与式を見守っていた。
司会進行は引き続きマネッティアが行った。
「それでは優勝者であるバンドーカズマ選手は前へ」
カズマが国王の前へ一歩踏み出し、膝をついた。授与式は国王がリングに立つ事から会場は先程と打って変わって静かで厳かな空気になっている。
国王は御付きの者からチャンピオンベルトを受け取りカズマの前へ出した。
「此度の試合は見事であった。これからもこのベルトに恥じぬ様に努める様に」
カズマは膝を着きながら両手を前に出した。国王はその手にチャンピオンベルトを置いた。会場から拍手が送られた。
気を利かせた国王は早々にリングから降りた。それを見たカズマは立ち上がりチャンピオンベルトを頭上に掲げた。会場からは更に歓声が沸き起こった。
マネッティアはその感動的な場面を実況した。
「今カズマ選手が栄光のチャンピオンベルトを掲げております!会場からもそして激闘を演じ惜しくも敗れ去った選手からも拍手が送られております!今私達は歴史的瞬間を目の当たりにしております!この王国プロレスの記念すべき日は永遠に語り継がれるでしょう!」
マネッティアは涙ぐみながら実況している。
そんな感動的な場面の中カズマだけがある事に気付いた。カズマの表情が一瞬悲しげになった。
「おい!ボルガン!」
カズマがリング下にいるボルガンに声を掛けた。
「あ?なんだ?」
「受け取ってくれ!」
カズマはチャンピオンベルトをボルガンに投げてよこした。その行動に会場が驚愕した。誰もカズマの意図が分からなかった。ただ数人、ボルガン、ストロンガー、マネッティア等カズマと関わりの深い者を除いては。
「おい!カズマまさか!」
リング下のストロンガーがカズマに向かって叫んだ。
「ああ、時間みたいだ」
カズマはそう一言漏らすとカズマの足元からゆらゆらと白い煙が立ち込めて来た。
「そんなカズマさん!」
エルロンは涙目になりながらエプロンに駆け寄った。
「すまねえなエルロン。だけどお前なら大丈夫だ。胸を張って戦え。ベアル、バフェットもよろしく頼む。訓練所を任せた。」
その言葉にベアルとバフェットは頷いた。
カズマはストロンガーの方を向いた。
「ストロンガー、いい試合だった。楽しかったぜ」
「俺もだ」
ストロンガーは笑っているがその目には涙が浮かんでいた。
「それからマネッティア!」
カズマは実況席にいるマネッティアを呼んだ。
「はい!カズマさん!」
「ありがとうな、これからもプロレスを盛り上げてくれ」
「はい!」
マネッティアの顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。
カズマは改めてボルガンを呼んだ。
「ボルガン!」
「まだなんかあるのか?」
「お前が暫定チャンピオンだ。それに相応しい戦いをしろよ」
「仕方ねーな」
ボルガンは面倒臭がりつつもカズマと約束した。
最後にカズマは会場を見渡した。カズマの周りの白い煙はどんどんと増えていく。
「じゃあな!これからもプロレスを楽しんでくれ!」
カズマは会場に呼び掛けた。会場からは啜り泣く声や感謝の言葉などそれぞれが己の感情のままに声を出している。
「ありがとう!」「カズマ!行くな!」「帰って来てくれ!」
カズマへの声は次第にまとまり一つの掛け声となって会場にこだました。
「カーズーマ!カーズーマ!カーズーマ!カーズーマ!」
地鳴りの様なカズマコールが会場に響き渡る。その声を聞きカズマは満足そうに笑った。
カズマを取り巻く煙が遂にカズマを覆い姿をすっぽりと隠してしまった。そして会場に一つ風が吹くとその煙は跡形も無く掻き消えてしまった。煙の中にはカズマはいない。無人のリングがそこにあるだけであった。
それでもカズマコールは鳴り止まない。誰もが叫び続ける。何処か遠い世界にも届く様な大声でカズマコールをし続けた。
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