剛腕のベアル対破壊神ボルガン

ベアルは一回戦の最終出番であった。

 いつもの様にヘルウォーリーアーズのコスチュームに身を包み今か今かと出番を待っている。

 ベアルの後ろにはカズマ、エルロンが見送りに来ている。

「何心配しとんじゃ。子供じゃないんじゃぞ」

「え、でもベアルさんの相手は……」

「はっは!まぁ勝てんじゃろな。だが簡単に負けるつもりもない。一泡吹かせてやるわい」

「そうだ、全力出して来いベアル」

「おうよ!それにファンの前で恥ずかしい試合は見せられんからな」

「ベアルさんにもファンがいたんですね」

「いるわい!ドワーフの中では人気者じゃぞ」

 笑いながら三人の穏やかな談笑はマネッティアの実況によって終わりを告げた。

「さあ!本日行われる一回戦もこれで最後となります!」

 マネッティアの実況に会場は騒ぎ出した。

「お、じゃあ行ってくるわい!」

 そう言い残してベアルはズンズンと進んで行った。会場には入場曲「ヘカトンケイル」が流れ始めた。

「その馬鹿力で闘技場で暴れ回っている荒くれ者!今日もやってやるぜ男の生き様を!見せてやるぞ男の戦いを!ヘルウォーリアーズの特効隊長!怪力のベアル!」

 ベアルの入場が入場すると野太い声援が飛んできた。それに合わせてベアルも吠える。

「うおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 ベアルの咆哮に更に野太い野郎どもの声援が飛ぶ。

 ベアルはやる気を激らせながらリングへと向かう。リングにドシンと上がるとまた一つ叫んだ。

「流石地獄の軍団!今にも暴れ出しそうです。ただ今回の相手は簡単じゃないぞ!」

 会場に入場曲「ボルケーノ」が流れた。それはゆっくりと重厚で全てのものを飲み込む様なそんな威圧的な曲である。

「さあ!来てしまった!遂にこの時が!」

 入場口からボルガンが現れた。ボルガンは黒のショートパンツというシンプルなコスチュームを身にまとい、ゆっくりと歩いてくる。

「王都予選では全ての対戦対手を瞬殺してきた悪鬼!戦いの中に身を置き続ける生まれながらの戦闘狂!最強を求めて今日も男は戦いの舞台に上がる!破壊神!ボルガン!」

 ボルガンの登場に会場は更に盛り上がる。花道の観客ま伸ばしているが、ボルガンは目もくれずリングに向かってゆっくりと歩いた。

 ボルガンがリングに上がるとベアルと向き合った。その身長差は歴然で子供と大人程の差があった。

「お互い無言で向き合っております!戦士の戦いに言葉などいりません!一回戦最終試合!開始であります!」

 開始のゴングが鳴り響いた。その瞬間ボルガンはベアルに向かって蹴りを入れた。

「ビッグブーツ!間髪入れずにボルガンがベアルの顔面に蹴りを入れた!」

「ボルガン選手はこれで殆どの選手を沈めてきました、恐ろしい蹴りです」

 ベアルは突き飛ばされたがなんとか持ち堪えた。ベアルの身体を難なく突き飛ばせる、それだけでボルガンの蹴りの威力が分かる。

「流石ドワーフ」

「舐めるなよ、小僧」

 ボルガンは笑うと同時に駆け出した。そして肩を突き出してベアルに激突した。

「ショルダータックルだ!今度は身体ごと行った!ベアルがコーナーポストまで飛んで行ったぞ!何て威力だ!」

「ボルガン選手、容赦ないですね」

 ベアルはコーナーポストに当たったおかげで何とか止まる事が出来た。ボルガンは追撃をしてこない。それが彼の矜持なのかそれとも余裕なのか分からないが、ベアルはこれはチャンスと思いボルガンに向かって走り出した。

「ベアルのスピアーが突き刺さる!これはボルガンもたまら……」

「待ってください!ボルガン選手動いていません!」

「本当です!微動だにしていません!何て身体だ!」

 ボルガンはベアルの背中から腕を回して持ち上げた。ベアルは逆さ吊りの状態で手足をバタつかせて抵抗しているがボルガンは意に介さない。そしてそのままボルガンはベアルをリングに叩きつけた。

「パワーボムだ!力任せにベアルを叩きつけた!これを喰らって生きていられるのか!プロレスでもやっていい事と悪い事があるぞ!ボルガン!」

 手を離したボルガンの隙をついてベアルはゴロゴロと転がり距離をとり、立ち上がった。

 まだ試合は始まったばかりだがベアルのダメージはかなりのものであった。

「まだやるか?」

「当たり前じゃ」

 ベアルはまたボルガンに向かって走り出した。

「凝りねぇな」

 ボルガンは呆れながら待ち構えた。しかし腹に来ると思ったスピアーは大きく下に行き、ボルガンの両足を捉えた。ベアルがボルガンの両足を掴むと思い切り引っ張り、ボルガンは仰向けに勢いよく倒れた。

 ベアルはボルガンを両足を脇に抱えてその場で回り出した。

「ジャイアントスイングだ!ボルガンの巨体が回転していく!回る回る!何てベアルの怪力だ!」

「予選では考えられないボルガン選手の姿です。それだけこの本戦は実力者揃いなんでしょう」

 ベアルはボルガンを放り投げてコーナーポストに激突させた。そして自らの胸を叩いて観客にアピールする。誰もがこの大技に興奮し逆転劇の期待を膨らませた。

 ボルガンはロープを握りフラフラと立ち上がった。流石のボルガンもこんな技を喰らうのは初めての為、視界が歪んで中々立ち直れていない。

 そんなボルガンの下にゆっくりと近付いたベアルは、ボルガンの顔目掛けて毒霧を口から噴射した。

「毒霧だ!バッドスカルの得意技をなんとベアルが使用しています!勝つ為なら容赦しない!これぞ地獄の軍団!」

「ボルガン選手、平衡感覚に加えて視界まで奪われましたね。これはかなりキツイですよ」

 ボルガンは毒霧を見た事がある。しかしまさかこの場でそれに自分にやられるとは全く思っていなかった。完全に油断をしていた。

 ベアルはここぞとばかりにボルガンに追撃をした。

「エルボー!エルボー!エルボー!ボルガンの顔にエルボーの連打!連打!ベアル、この隙を逃す訳にはいかない!まだまだ攻撃は続きます!」

「まさかボルガン選手もここまで苦戦するとは思っていなかったでしょう」

 しかしベアルが近付いたのは悪手であった。ボルガンは目の前にいるベアルに思い切り頭突きをした。

「ボルガンのヘッドバットだ!これはいけない!お前角が生えているのに気付いてないのか!二本の角がベアルの顔面に突き刺さる!毒霧のお返しとばかり凶器攻撃であります!」

「あの短い角って意味があったんですね」

 ベアルは後ろにのけ反りながら後退した。そしてベアルは立ち上がりベアルの顔面に蹴りを入れた。

「喧嘩キック!俺様を舐めんじゃねーよとボルガンの復讐が始まった!鬼は決して怒らせてはいけない!」

「またベアル選手が飛んで行きましたよ。どんな威力をしているんですか」

 ベアルが立ち上がるとまたボルガンは顔面に蹴りを入れようとしていた。しかしベアルはその足を間一髪掴むことができた。

「この!離しやがれ!」

「後でな」

 ベアルはボルガンの足を掴んだまま内側に捻る様に回転した。

「ドラゴンスクリューだ!ボルガンの身体がリングに落ちる!」

「ベアル選手は見かけによらず器用ですね」

 ベアルは直ぐにボルガンの腕にしがみつき関節を極めた。


 腕ひしぎ十字固

 相手の腕を取り両足で腕を挟み込んで、腕関節を逆に曲げる関節技。体全体で腕を極める為、この技からの脱出は困難を極める。素人が使用しすると相手の腕を痛める可能性がある為真似してはいけない技である。


「腕ひしぎ十字固めが極まった!ボルガンの腕にガッチリとしがみついていく!これは逃げられない!」

「これは勝負あったんじゃないんですか!」

「これは大番狂せか!ベアルが勝つのか!勝てるのか!ボルガン、逆転出来るのか!」

 会場の盛り上がりと裏腹にボルガンの顔は余裕の表情であった。そして息を吸い込み、

「うおおおおおおおお!!」

 ボルガンは咆哮するとベアルが技を極めている状態で無理やり立ち上がったのだ。

「た、立った!あり得ない!そんな訳がない!あってはならない!これは夢なのか!現実なのか!私はもう分かりません!」

「え……これはダメでしょ……」

 会場はどよめきと歓声が入り混じる混沌とした熱狂が包み込んでいた。

 当然ベアルもこの状況に驚いた。しかしどうする事もできなかった。

「危なかったぜ、お前がもう少しデカけりゃ負けてたかもな」

 その言葉にベアルは静かに怒った。

「舐めるなよ小僧、無いものねだりする程ガキじゃ無いわ」

「そうかい」

「ほれ、さっさとトドメをさせ。いつまで抱きついてりゃいいんだ」

「分かったよ、楽しかったぜ、またやろうぜ」

 ボルガンはベアルがしがみついてる腕を振りかぶった。

「……馬鹿言うな、二度とごめんじゃ」

 ボルガンはベアルごとリングに叩きつけた。

「叩きつけた!これは技ではありません!力任せに振りかぶり叩きつけた暴力です!ベアルはリングに倒れて動きません!これは勝負ありです!」

 試合終了のゴングが鳴り響いた。

「ここでゴングです!この試合ボルガンの勝利であります!恐ろしい!まさに怪物です!この大会に出場して本当にいいのか!」

「いやーベアル選手も数々の技を繰り出しましたが、ボルガン選手の力が勝りましたね。このボルガン選手に力負けしない選手は果たしているのでしょうか」

 ボルガンはリングを降りて堂々と退場した。誰にも媚びず、ただ己の力を示した男の背中はこれからの試合を楽しみしている様であった。

 ヨロヨロと立ち上がりベアルもリングから降りた。そんなベアルに観客は大きな声援を送り、見送った。正直観客はここまでの試合をするとは思っていなかったのだ。

 そんな観客の声にベアルは手を上げて応えて歩いていく。ベアルも負けはしたが満足そうな顔で去っていった。

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