完璧超人ストロンガー対ビッグドーザー

「さあ、試合はまだまだ続きます!早速次の試合に参りましょう」

 会場に入場曲「ファイトフォーユー」が流れる。思わず乗ってしまう明るい曲に観客は喜んでいる。

 入場口からスモークが噴き出ると勢いよくストロンガーが飛び出した。花道を進みながら観客を手で盛り上げ、煽り、飛び跳ねながら進んでいく。会場の規模も御前だろうとストロンガーは気にしない。

「さあ出てまいりました!闘技場での予選を勝ち抜きやって来たはアークポリス!今日も盛り上げて勝利を手にするのは最強のこの俺だ!この男の調子の良さは止まることを知らない!自称完璧超人!ストロンガー!」

 マネッティアの紹介で会場は笑いに包まれる。


 ストロンガーはカズマが消えた瞬間を見ていた。元々流れだと知っていたのでまさかとは思ったが受け入れるのに時間はかからなかった。

 カズマのおかげで闘技場の環境は大きく変わり、ストロンガーも配属が変わり闘技場から離れることになった。

 そして兵士として暮らしていくうちに牢屋での日々が懐かしくなった。カズマとマネッティアとグルニエの四人でプロレスの話をして盛り上げった日々を。

 ストロンガーはまたカズマに会いたいと思った。しかし消えた人間をどうしたら戻せるかは見当もつかなかった。

 悶々とした日々を過ごしていく中、闘技場では罪人の殺し合いをやめて新たにプロレスをやる事になった。ストロンガーは直ぐにこれだと思った。プロレスで名を轟かせれば必ずカズマに伝わる筈だと。カズマがプロレスと強者との試合を何より愛しているのは知っていたからだ。

 そこから自らを完璧超人ストロンガーと名乗った。最強の相手がいると知ったならカズマは必ず

現れるに違いないと確信していた。

 ストロンガーの予想は外れて思わぬ形でカズマは帰ってきたがやる事は変わらなかった。

 またいつカズマが消えてもいいように今日もストロンガーは観客の声援を上げさせる。どこに行っても自分の居場所が分かるように。その名を世界を超え轟かせるように。


 リングに上がってもポールに上り更に観客を盛り上げていく。四方八方にポーズを決めていく。

 いよいよ我慢ができなくなったのかストロンガーの入場が終わる前に、入場曲「ビッグ!ビッグ!ビッグ!」が流れ始めてしまった。

「おおっと!ストロンガーの入場の途中だがこの男と登場するのか!今大会最重量の巨漢が!」

 入場口から一人の男が出て来た。その男は黒のダブルショルダーを着てストロンガーの一回りも大きい巨体を揺らしながら歩いて来た。腕も胸も腹も肉で覆われており成人男性位すっぽりと隠れるほどのシルエットである。

「王都予選では数々の選手をその巨体で押し潰してきました!歩くたびに地鳴りが聞こえそうなその巨体を武器に喰らい尽くすぞレスラー達を!難攻不落の個人要塞!ビッグドーザー!」

 ドーザーはゆっくりと花道を歩いて行く。近くで見ていた観客すら声を失う程の大きさであった。

 リングに上りストロンガーと向き合うとその大きさは火を見るより明らかであった。流石のストロンガーも若干引いていた。

「デケェな……」

「すまんな、試合になるか分からんぞ。予選では誰も相手にならなかったからな」

「心配するな、ちゃんと試合をしてやるから」

「それは楽しみだな」

「なんてったって俺は完璧超人だからな」

 両者の睨み合いはドーザーが見下す様な形になってしまった。それでもストロンガーはいつもの様に軽口を叩いている。

「さあ、それでは始めましょう!試合開始です!」

 会場にゴングの音が響き渡る。

 先ずはストロンガーが攻め込んだ。

「エルボーがドーザーの腹に突き刺さる!」

 しかしドーザーは微動だにしない。それでもストロンガーは攻撃の手を緩めない。

「パンチ!キック!ストロンガー攻め込みます!しかし全く効いていません!」

「あの脂肪が盾になって衝撃を吸収しているのでしょう」

 ドーザーはニヤリと不敵に笑った。そして手を振りかぶりストロンガーの胸に逆水平チョップをお見舞いした。バチンと凄まじい音が会場に響いた。

「とんでもない威力の逆水平だ!ストロンガーが胸を押さえて蹲っています!」

「ストロンガー選手の胸が真っ赤ですよ」

 ストロンガーは歯を食いしばり必死に痛みを堪えて態勢を立て直した。

「中々効くじゃないか」

「ならもう一発どうだ」

 ドーザーが構えるとストロンガーは両手を前に出して必死に宥めた。会場はクスクスと笑い声が漏れた。

「いや、結構だ。そう、良い逆水平だった」

 そう言った瞬間ストロンガーは手を横に伸ばしてラリアットをドーザーに当てた。

 全力のラリアットだがドーザーは全く動かない。

「不意打ちのラリアットも全く効きません!」

 ドーザーは両手でストロンガーを押して距離を作った。それだけでもストロンガーはロープまで押されてしまい体勢を崩した。

 ドーザーは反対側のロープに寄りかかり勢いをつけてストロンガーに向かって走り出した。そしてその巨体ごとストロンガーにタックルをかました。

「ビッグドーザーの巨体がストロンガーにぶちかまさせれた!牛に突撃されたのと同じです!人間こんな技を喰らっていけません!」

「ストロンガー選手がリング外に飛ばされました!頭から落ちました!危ないですよ!」

 ぶっ飛ばされたストロンガーを観て観客は歓声と悲鳴を上げた。誰しも人間が最も簡単に飛ばされるところなど見たことないのだから当然の反応であろう。

 ドーザーはストロンガーの状態を確認するためにニタニタとゆったりとロープに近付いた。するとリング下から両手が伸びてドーザーの足首を掴んだ。ストロンガーは思い切り足首を引っ張りドーザーの巨体を仰向けに倒した。

 ストロンガーはすぐさまトップロープの上に飛び乗りそこからドーザー目掛けて飛び、両足を突き立てた。

「ストロンガーのスワンダイブ式ミサイルキックだ!ドーザーの腹を踏みつけていった!全体重が一点に突き刺さる!」

「ストロンガー選手はロープワークが見事ですね!これは流石のビッグドーザー選手も堪えるでしょう」

 続けてストロンガーは飛び上がり肘を立てドーザーの腹に突き刺した。

「エルボードロップが炸裂!容赦ない攻撃にビッグドーザーが腹を押さえて悶え苦しんでいる!」

「予選会でもこんな姿見た事ないです」

「おっと!ストロンガー!ポールに上っております!これは極めにかかるのか!一気に試合を終わらせるつもりです!」

 ストロンガーはポールのてっぺんまで上るとドーザー目掛けて飛び降りた。

「ストロンガーのダイビングクロスボディだ!」

 しかしドーザーは立ち上がりストロンガーを空中で捕まえて抱えてしまった。

「何と捕まえました!ありえない!相手の技などものともしない!」

「ストロンガー選手は動けませんね。これは危険です」

 ドーザーはストロンガーの背中をコーナーポストに打ちつけた。しかし拘束は解かず何度もポストに打ちつけていく。ガシン、ガシンとポールも激しい音を発していた。

「ポールとドーザーの挟み撃ちだ!これは試合ではない!拷問です!今目の前で公開拷問が繰り広げられています!完全にドーザーはキレております!」

「いやいやいや、これ試合を止めなくていいんですか!」

 幸か不幸かストロンガーは何とか意識を保っている。ドーザーの攻撃はようやく止んだがそれは次の攻撃の準備でしかなかった。

 ドーザーはロープに足をかけてポストに上っていく。

「いや!これはいけない!やってはいけない!本気でやってしまうのか!」

「死んじゃう!死んじゃう!」

 ドーザーはトップロープからストロンガーに尻から落ちていった。

「ダイビング式ヒップドロップだ!リングが揺れております!会場がどよめきで揺れております!こんな技人間相手にやってはいけない!ビッグドーザーの全体重が空から落ちてきました!これは事件です!放映してはいけない!」

「それよりストロンガー選手は無事なんですか!」

 ドーザーは立ち上がり勝ちを確信した。手を上げて観客にアピールしている。観客は歓声と悲鳴が入り混じり混沌とした空気になっていた。

「これは決まったでしょう!立ち上がれる筈がありません!勝者!ビッグドー……」

「待って下さい!」

「どうしました?」

「ストロンガー選手が……立ちあがろうとしています」

「本当です!信じられません!ストロンガーがふらふらになりながらも立ちあがろうとしています」

 ストロンガーはロープに掴まりながらも必死に立ちあがろうとしている。その姿に観客は声援を送った。

「頑張れ!ストロンガー!」「立って!」「やれ!ストロンガー!」

 その言葉にストロンガーは奮い立つ。ストロンガーはドーザーの方を向きニヤリと笑った。

「なにをビビってる?言ったろ?俺は完璧超人だって」

「認めよう、お前はすごい奴だ。ただ俺は負けない」

 ドーザーはストロンガーに向かって走り出した。もう一度ポールと挟み撃ちにするつもりだ。

 ストロンガーもドーザーに向かって走り出した。そしてリングを蹴り上げて高く跳びドーザーの首を蹴りを入れた。

「延髄斬りだ!ドーザー必死に堪える!」

「やはり簡単には倒れませんね」

 少し前屈みになったドーザーの隙をストロンガーは見逃さなかった。

 対面したドーザーの頭の後ろに手を回して、飛び上がり思い切り両膝を顔面にぶつける。


 コードブレイカー

 相手の頭を抱えて両膝を顔面に叩きつけながら背中側に倒れる技。顔面に固い膝を当てる事から鼻の骨折や首へのダメージがある非常に危険な技。


「コードブレイカーだ!ドーザーの顔面に両膝が突き刺さる!これは堪らない!延髄から顔面へと攻撃がとまらない!」

「ストロンガー選手は頭への攻撃を集中させていますね」

 ドーザーはふらつきながら何とか立っている。しかし目を開けると目の前にストロンガーはいなかった。キョロキョロと左右を見回すが見つからない。すると後ろから腕が伸びてドーザーの腰をがっしりと掴んだ。

 ストロンガーは背後からドーザーの腰に腕を回して密着している。

「ストロンガー!背後を取りました。ドーザーは拘束を解けません!これから何をするんだ!」

 ストロンガーの腕に力が入る。両足の太ももははち切れんばかり膨らむ。歯を食いしばりビッグドーザーの巨体をリングから持ち上げた。

「嘘だろ!持ち上げたー!確かに浮いております!あの巨体が!持ち上げられております!これは現実です!夢ではありません!」

「嘘でしょ……」

 ドーザーは手をバタつかせながら必死で抵抗しているがストロンガーは決して離さない。

 ――観てるかカズマ。俺がいる限り何度だってこの声援でお前を呼び戻してやるからよ。

 最後の力を振り絞りストロンガーはドーザーを脳天からリングに叩きつけた。

「ジャーマンスープレックスだ!信じられない!恐ろしい!まるで闘技場で観たカズマの魔物退治を彷彿とさせる美しいジャーマン!」

「ストロンガー選手の背筋はどうなっているんですか」

「ビッグドーザー立ち上がれない!ピクリとも動かない!今度こそ決着か?決着なのか!ゴングです!試合終了!勝者!完璧超人!ストロンガー!まさに正真正銘の超人であります!」

 ストロンガーはふらつく足を無理矢理動かしてロープに上り観客に向けて叫んだ。その咆哮に観客は更なる拍手と声援を歓声を送った。

 いつもは長いアピールも流石に疲れたのか意外と早く終わりリングから降りた。柵から手を伸ばす観客の一人一人に触れていき花道を堂々と歩いてい行く。

 入場口に入るとカズマが待っていた。

「どうよ!」

「最高だった」

 たったそれだけのやり取りだが二人は満足して笑った。

 ストロンガーが勝ち上がった事により、準々決勝の組み合わせはカズマ対ストロンガーに決まった。

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