王都アークポリス

一向の巡業は終わりを迎えようとしていた。関所を通り抜け王国直轄領にある街でも興行をしていたが遂に残す目的地である王都アークポリスだけとなった。一ヶ月近い巡業も終え、後は王都での大会に参加するだけである。

 王都への街道は多くの馬車や通行人で賑やかであり、道行く馬車に何かを売り付けていたりとのんびりとした旅に最後の刺激を与えてくれた。

「見えてきました」

 御者をしているロイドがカズマ達に声をかけた。カズマが前方を見てみると大きな街と中央に聳える城が遠くに見える。街に入るための門は人と馬車で大渋滞を起こしており、一本の長い紐の様に伸びていた。

「これは今日までに入れそうか?」

「領主様より通行許可証を貰ってますから、貴族扱いで直ぐに入れると思います」

 心配してるカズマにバフェットは通行許可証を見せた。

 列の最後尾に着くと兵士に通行許可証を見せて先頭に連れて行かれた。カズマは申し訳ない気持ちになったがすれ違う人々にから、

「カズマだ!」「大会観にきました!」「応援してます!」

 と温かい声援を送られた。カズマは手を振りファンの声援に応えながら進んでいく。

 そうやって渋滞の馬車を横目に先頭まで行くと簡単な持ち物検査をして直ぐに王都に入る事が出来た。

 王都の中はまだ大市が始まっていないのに既にお祭りの様な雰囲気であり活気に溢れていた。多くの人が忙しなく行き交いこれから行われる大市に向けて準備をしていた。

 カズマ達はとりあえずセスメントが用意してくれた宿を目指した。中心地から離れているが馬車と馬を預ける事が出来る大きな宿である。外観も歴史ある趣きでこれまでの村で泊まってきた宿とは一線を画すものであった。

 宿に入るとそこにカナードとジャイロがいた。

「お!ようやく来たかカズマちゃん。何か面白い事をやってたって聞いたぜ」

「そっちもギリギリまで訓練するって聞いたが?」

「当たり前だろ?王国最強の名誉を勝ち取る為だ」

 カナードは笑っているがその目は真剣そのものだった。カズマとカナードが静かな炎を燃やしているとバフェットと話しているジャイロが声を上げた。

「嘘だろ!本当にビッグボアと戦ったのかよ!」

「本当ですよ、それに関所ではトライグリフ騎士団長と再戦しました」

「何で呼んでくれなかったんだよ!」

「貴方がカナードさんと領都に残って秘密の特訓をするって言ったんでしょ?」

「知ってたら行ってたさ!」

「突然決まった事です」

 ジャイロはバフェットに文句を言っているがバフェットはそんな事を気にも止めず自慢げな態度で巡業で起きた事を話している。

 宿の中で大声で文句を言っているものだから従業員が何事かと様子を見にきた。

「ありゃりゃ、すまんなウチのが騒いでて。直ぐに連れて行くから」

 カナードは周りに謝りながらジャイロの首根っこを掴んで自室に引きずっていった。引きずられながらもジャイロはバフェットに文句を言っている。離れても文句を言うジャイロにカナードは頭を殴り黙らせた。

「すいません、ウチの馬鹿が騒いで」

 謝るバフェットは少しも申し訳なさそうである。今まで自慢したくて我慢してたものが達成できスッキリとした表情である。

 そんな騒ぎが収まるの待っていたのかノーゼンが現れた。

「やっと行ってくれたか、騒がしい連中だ」

「ノーゼンも来てたのか」

「かなり前からね、王都で予選会を偵察してたのさ。僕も巡業には興味あったけど今回は負けられないからね。また機会があったら呼んでくれよ」

 ノーゼンは宿から出て行った。カズマ達も部屋に荷物を置き会場を見に行こうと外出する事にした。

 宿から歩いて十数分、会場となる競馬場に着いた。入り口には大きな看板で王国プロレス最強位決定戦と書いており、既に多くの人が会場を観に来ている。

「大きいですね。闘技場の倍はありますよ」

「こりゃすごい、ここで戦うのか」

 エルロンとベアルは口を開けて唖然としている。

「あれは領主さまですね」

 バフェットは会場から出てくるセスメントを見つけた。セスメントもカズマ達に気付き近寄って来た。

「ようやく来たか。何事もなく到着してくれて本当に良かった」

「大丈夫だ、何も問題は無かった」

「それは何よりだ。中も殆ど完成しているから見てくれ。それで何か不備があれば会場の者に伝えてくれ」

「分かった」

 セスメントはまた直ぐに歩き出した。数人を引き連れて話しながらの移動に忙しさが見て取れる。

 カズマ達は会場の中に入った。大きく楕円の形をしている会場の真ん中にリングが設営されており、その周りにも人が入れる様に柵によって仕切られている。

「いつものリングが小さく見えます。後ろ客席で観れるのですか?」

「魔法で空中に大きく試合を写すらしい。原理は分からんが何とかなるだろ」

 エルロンの質問に適当に答えたカズマだがこれだけの大きな会場、カズマも滅多に試合出来ない。

 会場の設営をしている労働者の中に見覚えのある大男がいた。

「バンカーの奴、何やってんだ?」

 大量の物資を軽々と運んでいるバンカーはこちらに気付き大声を出した。

「カズマじゃねーか!久しぶりだな!」

「バンカー!何やってんだ?」

「見学に来たらよまだ設営してっから手伝ってんだよ!この後酒場で奢り酒よ!」

「そいつはよかった!」

「それよりアイツに会ったか?」

「カナードか?ノーゼンか?」

「そうか会ってねーか!ならいいや!じゃあな!」

 会場に響く大声で会話したバンカーは作業に戻っていった。

「アイツって誰でしょう?」

「さあ?そのうち会えるだろ」

 エルロンの疑問にカズマは適当に答えた。その時カズマの多い尽くす大きな影が現れた。

「久しぶりだな、カズマ」

 重く威圧感のある声がカズマの後ろから聞こえた。エルロンもベアルもバフェットと驚いた顔をしてカズマの後ろを見ている。

 カズマは後ろの人物が誰だか声で分かった。

「そうだな、ボルガン」

 カズマが振り返るとそこには二年前闘技場で激闘を繰り広げたボルガンが立っていた。

「二年も何処行ってたんだ?いきなりいなくなりやがって」

「俺も突然元の世界に戻されたんだよ。その後の事は知らん。こっち来たら二年経ってた」

「まあいいぜ、こうして会えたからな」

「どうせお前も大会に出るんだろ?」

「そうだ、まどろっこしい予選もやってやったんだ。だから必ず俺と戦えよ」

「分かって。お前も戦う前に負けるなよ」

「馬鹿言え」

 二人ともニヤリと笑った。二人はただ会話しているだけなのに誰にも近寄り難い空気が場を支配していた。今からここで戦うのではないかとさえ思えるくらいの凄みに圧倒されていた。

 大会開催まで残り僅か。多くの因縁が入り混じるこの大舞台には負けず嫌いの男どもの闘志の炎が灯されている。

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