エピローグ
闘技場では閉幕式が行われていた。本来なら試合後すぐに両軍団がリングに上がり行われる筈だったが観客があまりに熱狂していた為少し時間を置き落ち着いてから始めることにした。
リングの上には連合軍とヘルウォーリアーズの八人とセスメントがいた。
そこにはちゃんとバッドスカルもいた。今回は突然消えることは無かった。敗戦後何食わぬ顔で退場していただけだった。
「この度の対抗戦を観戦して思った。やはり必要なのは連合軍のような志し高く観客に愛される選手であることだと。ヘルウォーリアーズなどという暴力と卑怯な手段でこの神聖なる闘技場を汚す輩では決してない。この領主セスメント・ベニヤーは心から連合軍の活躍を祝福しこれからの飛躍を応援しよう。これからも市民に愛される闘技場を作っていってくれ」
セスメントは対抗戦の結果を見て立場を変えた。これもカズマからの指示だ。これからはヘルウォーリアーズと抗争する事になりセスメントも慣れないヒールをやらなくて済むようになる。
このセスメントの演説に観客は笑っていた。闘技場は熱狂から覚めて穏やかな空気が流れていた。先程までの死闘が嘘の様であった。
「それでは最後に国王陛下から閉幕のお言葉を戴く。皆起立せよ」
セスメントの言葉により観客が全員立ち国王の方を見た。リング上の選手達も背筋を伸ばし国王を見た。
国王はゆっくりと立ち上がり喋り始めた。
「此度の対抗戦どの試合も見事であった。私も年甲斐もなく興奮してしまった。聞けばこの対抗戦の勝者には褒賞が無いらしいではないか。これほど楽しませてもらったのにそれでは心苦しい。何か褒美を遣わす、好きに申せ叶えてやろう」
当然の国王の提案により連合軍は慌てた。何も考えていなかった、それに国王に何を言っていいのか分からなかった。彼らは闘技場の英雄と言えど階級としてはただの一般市民である。発言によっては不敬になるのではないかと怯えた。
少しの沈黙の後にノーゼンが膝をつき喋り始めた。
「国王陛下の慈悲深きお心、感謝の念に堪えません。国王陛下にはこれからもこの闘技場の繁栄を願って戴ければこれ以上の無い喜びであります」
この場でこれ程までに畏まった発言を出来るのはノーゼンだけであろう。ノーゼンの言葉に国王は納得した。
「何て欲の無い者達なのか。それではヘルウォーリアーズはどうだ?負けたにせよ素晴らしい試合であったのは変わらぬ、何か褒美を遣わす」
こちらも困った。ここでヒールらしく金などと言った方がいいのか、それとも謙虚に断るべきか。進行に無い事を思い付いた国王にヘルウォーリアーズは困り果てていた。
そんな中バッドスカルが膝をつき口を開いた。
「国王陛下の慈悲深きお心にこのバッドスカルは感動致しました。それでは一つお願いがあります」
「何だ申してみよ」
「ヘルウォーリアーズの鉄の掟に裏切り者には裁きをと言うものがあります。この度領主セスメントは我らから利益を享受したにも関わらず連合軍に鞍替えしました。これは立派な裏切り行為です。そこで国王陛下には領主への裁きの許可を願い賜ります」
セスメントは冷や汗をかいた。非常に嫌な予感がしたからだ。セスメントは懇願するような目で国王を見た。
「うむ、確かにこのままでは市民も納得しないだろう。よいだろう特例として領主セスメント・ベニヤーにバッドスカルの断罪を許可する」
「ありがたき幸せ」
バッドスカルは立ち上がりセスメントを見た。バッドスカルの顔は邪悪な笑顔が張り付いてた。セスメントは恐怖し後退りした、しかしコーナーポストがセスメントの行手を阻んだ。
バッドスカルはセスメントの腹に蹴りを入れた。セスメントは腹を押させて前屈みになる。前に出た頭をバッドスカルは脇にか変えて腰に手を回して持ち上げた。セスメントは逆さまにバッドスカルに持ち上げられた。
ブレーンバスター、逆さまに持ち上げた相手を背中から叩き落とす投げ技。使用者の身長の高さから落ちる為非常に危険であり倒れる時に勢いもつければ更に威力が増す。
セスメントは背中からリングに叩き落とされた。その光景に観客は笑い拍手し興奮した。国王も笑っている。
「うむ、それでは閉幕を宣言する!」
国王の閉幕式が終わった。観客は拍手して今日の対抗戦に出場した全ての選手を労った。皆が笑顔であった。
連合軍も笑っている。ヘルウォーリアーズも笑っている。観客も国王も皆が笑っていた。セスメントは悶え苦しんでいた。
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