第三話

 目が覚めると伸は自室にいた。

「ん・・・今何時だ?」

 枕元に置いてある時計は午前10時を指している。とっくに遅刻だ

「やっべ!完全に遅刻だ!!」

 寝起きでボサボサの髪もそのままに、伸は階段を駆け下りる。

「母さん!なんで起こしてくれなかったんだよ・・・?」

 そこにいたのは2人の母だった。片方は既にこと切れているようで、もう1人が亡骸を抱えている。

「チッ」

 母のようなナニカは舌打ちをすると、伸に向かって触手をのばす。触手は伸の右腕を貫いた。

 一瞬しびれたような感覚の後、猛烈に痛みが襲ってくる。

「ぐっ・・・があああああああ!!!!!」

 

 痛みに絶叫しながら触手を引き抜こうと伸が触手を握ると、触手は音を立てて潰れた。

「なっ・・・!」

 すっかり化け物の姿になったナニカは、自分が傷つけられたことが意外だったようで、しばらく唖然としていた。

 その隙に伸が急いで外に出ようとすると、玄関のドアを開けたとき、1人の男性と鉢合わせた。

「あっ、あの・・・助けてください!母さんが母さんじゃなくて・・・」

 男は手で話を制止すると、伸を抱えてリビングへと戻った。

「(まさか・・・アイツの仲間だったのか!)」

 リビングに戻ると、さっきの化け物が母の亡骸に触手をまとわせている最中だった。

「おやおや戻ってきてくれたのかい・・・!貴様なぜここにいる!」

 化け物は男の姿を見ると突如目に見えるほどうろたえだした。

「(なんだ?仲間じゃないのか?)」

 男は伸を抱えたまま化け物に向かって走り出し、腹部にボディブローを叩き込むと、化け物の腹を拳が貫通した。

「少年、名前は何と言う」

「とっ飛永・・・伸です」

「伸、こいつにとどめを刺せ。頭を潰せばこいつは死ぬ」

「えっでも・・・」

「やれ。」その声はとても冷徹で、化け物以上の恐怖を伸に感じさせた。

「こいつはお前の母親の仇だ。憎くないのか?」

 そう言われると、得体のしれない化け物への怒りがふつふつと湧き上がってきた。

「母さんを・・・よくも!」

 伸が拳を振り下ろすと、化け物の頭は粉々に砕け散った。

「これでお前も一人前だ。来い、この家にはもう住めない」

「一人前って・・・?」

 男はドアノブをもぎ取ると、伸に差し出した。

「握ってみろ、全力でな」

 伸が両手に力を込めてドアノブを握ると、ドアノブには手形がついた。

「お前は今日限りで人間ではなくなった、お前は怪人だ。」



「伸のやつ、遅いな」

 授業を受けながら、亮は窓の外をぼんやりと眺めていた。伸はこれまで無遅刻無欠席で、勉学に秀でているだけでなく人望も厚かった。そんな彼が学校に来ていないのだ。心配するのも無理はなかった。

キーンコーンカーンコーン・・・

 休み時間、亮はイサオと話をしていた。

「なぁイサオ、怪人でいるってどんな感じだ?」

「どうだろう、僕は人間の友達も怪人の友達もいるから、どっちっていう感じはないかな」

「実際、一般的な人間と怪人の間には大きな違いはないっていう研究もあるし」

「大きな違いはない・・・か」

「(怪人って、なんなんだろうな・・・)」

「伸くんなら、分かったりするかな」

「あの秀才でもさすがに無理じゃないか?笑」

そのとき、教室に他クラスの生徒の集団が入ってきた。

「よ~イサオくん、ちょっと時間あるかな?」

「あ、うんいいよ」

 相手はどうみてもヤンキーか不良で、イサオを何らかの標的にしようとしているのは明らかだった。

「おい、イサオをどこに連れてくんだ」

「あぁ?カンケーねぇだろうがよ」

「いいや関係ある、イサオは俺の友達だっ・・・!」

 不良の一人が亮の足を踏んでいた。

「なんだって?よく聞こえねぇなぁ」

「何もないなら行くぜ、じゃあな」

 そう言って彼らは去っていった。


 あの後伸は男に銭湯へと連れられ、男の拠点らしき場所へ来ていた。

小屋の中のストーブで暖をとっていると、男が帰ってきた。

「服だ。」

 無造作に紙袋を投げつける。中にはキャラクターデザインのTシャツと厚手のズボン、ジャンバーが入っていた。

「おじさん、もうちょっと服どうにかならない?」

 何度名前を尋ねても教えてくれないので、伸は勝手に男のことを”おじさん”と呼ぶことにしていた。

「破れたままの服など着れないだろう、あくまでその場しのぎだ」

「服を着たら少し出かけるぞ」

 二人が出かけた先は一軒のバーで、おじさんはマスターと何やら話をしていた。

「あ~!じゃあ君が例の子か、いやいや災難だったなぁ」

「いったい、何がどうなってるんですか?」

「まあそう焦るな、一つ一つ丁寧に答えようじゃないか」

「じゃあ、おじさんの名前は?」

西 正にし ただし、それが彼の名だ」

「おじさん、そんな名前だったの?」

「・・・ああ。」

「なんだ正、名前も言ってなかったのか。そりゃこの子も苦労するわけだ」

「僕は今、どうなってるんですか?」

「そうだな・・・昨日のことは覚えているのかい?」

「確か・・・誰かに薬をかがされて・・・」

「その後君はきっと奴らに連れていかれたんだ」

「奴ら・・・?」

「帝国だ。」ようやく正が口を開いた。

「恐らく解放クラブとの戦力として、手当たり次第に怪人を増やそうとしているのだろう。」

「じゃあ今朝の化け物も帝国の?」

「いやアレは違う。あれはジョロキア党の差し金だ。」

「なんで?どうして怪人が僕を・・・」

「それはお前が怪人だからだ。」


 その時、外でかすかに物音がした。

「聞こえたか。」「うん」

「なんだ?なにかあったのか?」

「しっ!音を立てるな」

 数拍置いた後、怪人の集団が店になだれ込んできた。

「正!この子は奥に!」

「いやここに置いておけ。伸!よく見ていろ、これが怪人だ!!」

 正が力を入れると、みるみるうちに姿が変わり、燃え盛る人間のような見た目になった。

 正は店の中を縦横無尽に駆け回り、大勢でいたせいで思うように身動きがとれない怪人たちを次々倒していく。

「おじさん強い・・・」

「そりゃそうさ、なんたって彼は」

「正義のヒーロー”サンシャインマン”だからね」


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