第二話

「ようシン、昨日の宿題やったか?」

「やったよ、いつもよりは少し難しかったけどね」

「さすが徳高一の秀才様!あぁ私もそのお手並みを拝見したい!!」

「さてはリョウ、やってないな?」

「見せてくださいっ!」

「ハハ、いいよ別に」

 俺の名前は飛永 伸とびなが しん、高校三年生だ。隣のやつは灰川 亮はいかわ りょう、クラスメイトで俺の親友。俺たちはここ、榮徳えいとく高等学校に通っている。地元では名の知れた進学校で、昔は政府関係者を多く輩出していたらしい。

ガラガラガラ・・・

 教室に入るとほとんどのクラスメイトがすでに教室にいた。男子、女子、そして、怪人。

「よう!久しぶりだなイサオ」

「なぁ亮聞いてくれよ~このまえ鳥にぶつかっちゃってさ~羽が片っぽ折れちまったよ」

「大丈夫なのか?それ」

「医者が言うにはしばらく使わなければ自然と治るってさ、無茶いうよな」

「そうだよな、お前は・・・なんだっけ」

「白鳥だよ白鳥、体の一部を使うなって結構大変なんだわ」

「だよな笑」

 

 8年前、人類と大ジョロキア帝国の戦争は人類側の敗北で決着した。人類の希望かと思われた正義のヒーロー、サンシャインマンは負けたのだ。

 しかし幸運にも、帝国は人類との共存を試み、人類側もそれを受け入れた。今や帝国はジョロキア党と名前を変え、日本の政権の一端を担っている。

 かくして人類と怪人の間で国交が成立し、両者は共存を続けている。

「ところで伸くん、課題はどうだった?」

「うん、一応終わったよ」

「え~!すごいすごい!」「だろ?さすが俺の親友」

 そのとき教室に担任が入ってきた。

「飛永く~ん、いる~?」

「あっはい!います!」

「この前の小論文のことで、ちょっと来てもらえる~?」


【職員室】

「飛永くん、この前の小論文・・・」

「”人間と怪人の共存は今後いかにして発展させられるか”っていうやつでしたね」

「それそれ、君けっこう上手く書けてたよ」

「そうですか?ありがとうございます」

「特にこのヒーロー団体を絡めた所、先生すごくいいと思う。」

人類と怪人の共存といったが、人類側にも怪人側にもそれを受け入れようとしない存在がある。


 サンシャインマンが活動を開始したころから彼をバックアップしている”太陽俱楽部”。サンシャインマンの敗北に伴い自然消滅すると思われた彼らだが、人類の独立と怪人の殲滅せんめつを目指す団体”人間解放クラブ”と名を変え、活動を続けており、近年は住民である怪人を無差別に襲いはじめているらしい。

 しかし、そう考えるのはなにも人間だけではない。怪人側にも同じような組織がある。ジョロキア帝国時代、主にヒーローとの戦いで活躍した帝国軍の残党もまた共存を受け入れられず帝国に離反、都市でテロ行為を行っている。両者の溝は年を追うごとに深くなっていき、しばしば武力衝突が行われ、政府はその対策に追われている。


「大学どこだっけ、城南?」

「はい、一応・・・」

「あそこ結構難しいって聞くけど、これだけ書けてたら安心だね、頑張れ!」

「ありがとうございます」


キーンコーンカーンコーン・・・

「うっし!一緒に帰ろうぜ伸!」

「わりぃ、ちょっと寄るとこあるんだ」

「そっか、なら仕方ないな。なぁイサオ暇か?一緒に帰ろうぜっ!」

はしゃぐ2人を尻目に、伸はへ向かった。

「理絵姉いる~?」

「お~久しぶりじゃないか伸クン、元気してた?」

水村 理絵みなむら りえ。俺が生まれたばかりのころ、仕事が忙しくて中々面倒が見れなかった両親の代わりによく世話をしてくれた近所の大学生で、今は昔からの夢だった喫茶店を経営している。

「最近来れなくってごめんなさい」

「いいのよ別に、受験忙しかったんでしょ?」

「なにか食べてく?」

「あ、じゃあプリンセットを1つ」

「好きだね~キミも」

理絵姉が注文を作っている間、伸はカウンターの奥にあるテレビを見る。


「今回は人間解放クラブ、ジョロキア帝国陸軍双方の代表にお越しいただき、人間と怪人の未来について討論をやっていきます。よろしくお願いします」

「”人間の”明るい未来のために、よろしく」

「フン、軟弱な下等種族め」

さっそく両者は互いにけん制しあっているようだ。

「ではまず自己紹介から」

「人間解放クラブの代表を務めております、山下です」

「ジョロキア帝国陸軍大佐、ルーゲルだ」

「では山下さん、ご自身の団体の活動目標を教えてください」

「はい、私どもは人間を怪人の魔の手から解放することを目的としております。」

「怪人は今や人間社会に溶け込んでいますが、実際はルーゲル氏のように狂暴かつ残忍な種族なのです。我々は地球から怪人を抹消せねばなりません」

「ルーゲルさん、大戦中にあなた方がいかなる行動を行ったか、覚えていらっしゃいますか?」

「覚えている限りでは、捕虜・公開処刑・略奪といった所だな」

「そのことについて何かありますか?」

「無い。戦時中であれば致し方ないことだ、それに人間は勝手に向こうからすがりついてくるものでな、苦労していたのをよく覚えているぞ」

「このように、怪人というのはまるで武勇伝のように残虐な行為を語る、もはや人ならざる化け物なのです!」

「なんだと貴様!ならば貴様らの我が同胞への行いはどう説明するというのだ!」

「つい一昨日の話だ、まだ幼き怪人を攫い、暴行し、挙句の果てに本部につるし上げたのは貴様らであろう!」

「人間にとっての楽園を取り戻すためには必要な行為です。」

「それに、あなた方も数え切れぬほどやってきた行為でしょう?」

「な~に~!?」

ルーゲルが山下に飛び掛かる場面で、テレビの画面はCMに切り替わった。


「はい伸クン、プリンセットお待ちどうさま」

「ありがとうございます」

「それにしても物騒な世の中になったね~」

「せっかく怪人との戦いが終わったっていうのに、これじゃどっちが平和かわかんないよ」

「・・・・」

「あっごめんね、こんな湿っぽい話しちゃって」

「いえ全然、ごちそうさまでした」

「いつもありがとね」


「(”どっちが平和かわかんない”か・・・)」

 家への帰り道、伸は少し考えを巡らせていた。

 そして彼を尾行する影が1つ。人影の手が伸の肩にかかろうとしたその瞬間、伸は後ろを振り向いた。

「(?気のせいか・・・)」

 しかし突然、伸の口にやわらかい布のようなものが当てられた。必死にもがいて振り払おうとするが、布には催眠薬のようなものが塗布されており、つい伸はその成分を吸ってしまった。

 ガクッとうなだれた伸を謎の男はズルズルと路地裏に引っ張っていった。



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