第9話

…夜

「お兄、線香立てて。」

「了解。」

……仏壇に線香を立て、手を合わせる。父さんと、母さんに、合わせる。


――あの日、俺達のせいで死んだ――

・・・


私は、仏壇にお線香を立てて、手を合わせる。お父さんと、お母さんに。


――あの日、私達のせいで死んだ――


もういない、両親に――。


・・・


「お兄、夜ご飯できたよ。」

花梨に呼ばれた。

「分かった。」

「またずっと手を合わせていたの?」

「……」

何も言わない。何も言いたくない。

「罪滅ぼしのつもりだったら、やめてよね。」

「っ!」

「見てるこっちも辛いし、父さんと母さんがそんなお兄の姿を見て喜ぶと思うの?」

……こんなこと、言うのか…

「……ほっといてくれよ。」

「でも」

「だって俺のせいで死んだんだよ!俺の…俺達のせいで…」

「まだそんなこと言ってるの!?」

「これしか、方法がないんだよ……償いなんだ。」

「……そう……」

…今日は配信も収録も無しだな…

「お兄ちゃん、これだけは覚えてて。生きていることが、1番の償いだってことを。」

返事は、出来なかった。食事は、あまり味がしなかった。

お兄ちゃん、なんて、久しぶりに呼ばれた。


・・・


「沙紀、お待たせ。」

「遅い」

「ごめん。」

「…良いよ…私が早いだけだし。」

「いつも先に来てるよね。」

「… だって…早く会いたいし…」

「そっか。」

今日は沙紀と登校する日だ。

「ねぇ、翠斗、手、」

「ほら」

「ん…ありがと。」

何も話さない。この時間も、心地良い。


「ねぇ、翠斗、私、迷惑?」

「何言ってるのさ。迷惑なわけないよ。」

「……そっか、良かった…」

「俺は沙紀の味方だよ。何があろうとも。」

「ありがと。好き。」

「そーかい。俺もだよ。」

この好きは、親友としての好きだ。勘違いしない。



学校に着いた。

いつも通り盛り上がってる。教室の友達は、何か話していないと気まずい感じがする。やっぱり、まだ―――。

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