第2話 全てが埒外。想像を超えた非常識。それが「全てを破壊するバッファロー」。それらは再生できない。

 おれは しょうきに もどった!


 そう、まずは何故ここに全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れがいるのかを説明せねばならない。

 先程、この街にはバッファローのサッカーチームだか球団だかが存在していることを説明した。ここに越してきた引きこもりヒッキーな自分にとって、そんなことはどうでもよかった。本ッ当ほんっとうにどうでもよかった。

 しかし、そうは思わないのが常人の常人たる所以ゆえんであり、そして時として常人は狂人よりも可怪おかしいことをするのである。それ常人か?


 まずこの状況に出くわして真っ先に近くの人に話を聞いたのだが、どうやら(有)有限会社牛河紀文商会なるところの三代目が、そのバッファローなんちゃらにかこつけて実際にバッファローに触れ合える広場なんぞを作ったのが原因らしい。

 まずこの時点で理解の範疇を超えているが、まあいい。どうも、その由緒正しい三代目社長とやらが作ったバッファロー牧場の管理があまりにも杜撰で、そこから逃げ出したというのが事の真相なのだとか。それだけの話だのに凄く時間がかかった。

 まずツッコミどころしかない。なんで有限会社なんだよとか、バッファロー牧場ってなんだよとか、どうしてバッファローにかこつけたんだよとか。そういう色々だ。

 ……が、聞いた人はその全てに答えてくれた。答えてくれやがった。こんな事を聞かなければ、三分どころか三十分、いや一時間は余裕で対処できたはずだ。

 教えてくれた人には申し訳ないが、ちょっと話が長かった。こちらの事情を先に説明すべきだった。何せ、確定申告は全てに優先されるからな……そのはずだ。

 そして、その内容は要約すると下記のようなものであった。


 まず、その会社は戦前から続く革加工の会社であるらしく、実質ほぼ個人で代々どこぞから革を買っては加工してきたらしい。個人とか精々が後継者だけ半ばフリーでの職人仕事で、かつ周囲は自分らよりも由緒正しい加工会社ばかり。それでも確かな品質でしっかり儲けを出していたらしく、個人どころか一家族じゃ数代かかっても使い切れないほどの財を蓄えてしまったのだとか。そして その結果、革加工の三代目とやらが自身の商売宣伝と、球団とやらにかこつけて作ったのが、なんと一万頭のバッファロー牧場だというのだ。なおバッファローと言っても、その人は何の牛か知らないという。自分も詳しくないのでウシ科の何かだねとしか言えない。角っぽいのはある。茶色い。毛は……少ない?無い?ちょっと観察しようにも足速すぎィ!!求む!専門家!!

 まあ何にせよ、こんな確定申告の延滞を避けるためだけにヒイヒイ ゼエゼエ ハアハア言ってるデブなんかよりも遥かに立派だ。だが、その結果が狂ったバッファロー牧場である。到底まともではない。やっぱ正気って言ったの撤回するわ。すまん。

 一万頭のバッファローだけを、わざわざ見に来るような人間は少ない。来るとしたら、熱狂的なバッファロー・マニアや動物マニアか、そのバッファローなんとやら(?)なるチームの勝利祈願くらいだろう。それでも到底、まともではない。

 どっかのゲーム企業がウシ科を元ネタにしたゲームウシ娘!プリティバッファロー!でも作らない限り廃業確定だ。


 あくまで牛革は別の会社から買ってる、つまり自分じゃ革には加工できないバッファローを飼う蛮勇。なんでだよ、その情熱をもっと向ける所あるだろう!例えば地域の振興とかさぁ!!いやそのつもりなのか!?|バッファローで地域振興!?

 どっちにしても、振興されると俺が困る!!こういう文章の執筆には個人的に、静かで自然豊かな所……つまり住んでる地域の人には申し訳ないが、少し不便な場所くらいが自分には最適なのだ。なんなら害されない限り、ずうぅと余所者として腫れ物の如く扱われても良い。そのような物理的・社会的な孤独を愛している。その意味では、真っ当な地域振興に邁進してくれなくてよかった。変な方向に驀進してくれてよかった…………

 それが今こんな形で乱されるようでなければ、だ。


 そして先述したように、そのバッファローは今ここで大驀進している。クソが!

 ほぼ個人、それも有限会社で個人名つけてるような古い会社が、一万頭のバッファローを牧場で管理する。そんなもん土台無理な話だ。どんな手品トンチキを使ったかは知らないが、きっと騙されて買ったに違いない。一万頭だぜ?そうであって欲しい。ちゃんとした革用のバッファローを営利目的で正しく購入したとは思えない。牧場起業資金の相場は五~六百万らしい。それに加えて一万頭のバッファローを輸入だぜ?まともな値段で買ったなら、どんな儲けを出したら可能なのかも見当すらつかない。

 どちらにせよ、このバッファロー牧場は失敗に終わったのだろう。ここで大驀進しているのだから。だからこそ、どうにかしないといけないのだ。


 残り時間、二分四十秒

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