38、祭りふたたび

 モエギを背負って山道を登っていた龍星は道中で、陽樹やシズカ、少女たちを乗せたリフトに追いついた。


 龍星と琥珀が攻防を繰り広げた場所で、彼女を拾い上げるために一行が前進を止めていたからだった。


 シズカの手で布製のゴンドラに乗せられていく琥珀の服装を見て、

「なあ、ヒメ。ヒメさんが女の子の服を戻すときに元々着ていた服とは違った服になることなんてあるのか?」

 龍星が背中にいるモエギに尋ねた。


「ん? なんでそのような質問をする?」

 モエギが問い返し、


「いや、今運ばれてる子の着ている服がやり合ってたときのと違うから」

「基本的に女子おなごが着ていたものは同じになるはずじゃが、もし違う服を着ているというのならば、それこそがその女子の目が覚めたときに着ていたいと思っている服ということじゃろう」

「なるほど」


「そうなると、あれリュウちゃんの影響だと思うけど」

 陽樹の指摘に、

「俺の?」

 龍星が聞き返す。


「例の教育的指導みたいなのを気にしないですむ服を、彼女が無意識に選んだんじゃないかなあ」

「あんだけバチバチやり合ったのに、あの子まだ戦う気でいるのか」


「リュウちゃんのことをいたく気に入ってたような感じだったからねえ」

「いや、たしかに再戦したいような口ぶりだったけど、俺は女の子との真剣なお付き合いならともかく、真剣なドつき合いをしたいわけじゃないから」

 龍星の韻を踏むような答えに、


「まあリュウちゃんが心配するような再戦とかはないと思うよ。ほら、フクマに取り憑かれてたときの記憶は消えちゃうんだから」

「そういやそうだったな」


「お主らの話を聞いているかぎりだと、その女子おなごはリュウセイにホの字のようじゃから、その惚れているという記憶を取っておくこともできるがどうする?」

 背中からのモエギの言葉に、


「いや、この子どちらかといえば、いろんな相手と手合わせするのが目的だったっぽい。そう自分で言ってたしな」

「そのおかげで、フクマと共生した女の子がどれだけ危うい思考になるかもよく分かったよね」


「そうか、その女子おなごは共生型じゃったか。しかしお主らふたりなら余裕じゃったろう?」

「いや、リュウちゃんが1対1で相手して勝ったよ」


「まことか!? ふむ……なるほどな。それならばリュウセイの刀気が高かったのも納得がいく。しかしそうなると、リュウセイがこの女子おなごを負かした武勇伝など茶飲み話のように聞いておきたいものじゃのう」


「そんな大した話じゃないけど、まあここを抜けるまでの暇つぶしにはちょうどいいか」

 

 琥珀を乗せ終えると、ふたたび一行のゴンドラは山の上へと向かっていく。


 龍星はそれに並行する形で、琥珀との勝負の一部始終をモエギへと語りながら歩みを進めて、ようやくすべての始まりともいえる場所、要石のあった山林の出入り口へとたどり着いた。



 暗い林を抜けると、ふたつの石灯籠がまるで一行を出迎えねぎらうかのようにほのかな光を放っていた。


 その傍らに置かれた縁台には、疲れ切った様子の空子が所在なげに腰掛けている。


 彼女の姿を見て、龍星と陽樹はこれまでに体験してきた非日常的な世界から、地に足のついた現実の世界へと戻ってきたという安心感を覚えた。


「よっ」

 かけ声とともにモエギが龍星の背から跳ぶようにして降りて、大きくひとつ伸びをすると、


「――おかえりなさい。みんな無事だったみたいね」

 憔悴しきった表情で空子が一同を出迎えた。


 彼女の表情を見て、

「なんだか、その様子だとそっちは大変だったみたいだな」

 龍星が声をかける。


「まあね。境内にはいっぱい人が倒れてるし、フクマ憑きとかいうのになってた女の子たちは知ってる子も知らない子も白い布をかぶせられてあちらこちらに転がってるし、なんかとんでもないトコに来ちゃったって感じで、メガネが壊れててこの有様ありさまを直視しなくてすんだことにちょっとだけ感謝したわ」


「それでヒメ様に言われるがまま、女の子たちの服を元に戻していって……うん、アレは男子にさせていい役目じゃないわね。私がやることになって正解だわ」


「巫女どのはなかなかに優秀じゃったぞ。リュウセイにハルキも巫女どのがどのように女子たちの服を戻していったか具体的なことを知りたいじゃろうし、そこのところを聞いてみてはどうじゃ?」


「ちびヒメ、わざとクーコさんに『いやらしい』って言わせようとしてるだろ」

「分かるか」

「分かるよ」


 龍星とモエギのすっかり打ち解けた感じのやり取りを見て、

「なんか気のせいじゃなければ、ちょっと見てないうちに、ふたりともずいぶんと仲良くなってない? なんというか、まるで……」


「『まるで』と兄弟姉妹で例えるのならば、わしがお姉ちゃんで、リュウセイが弟じゃからなっ!」

 空子の言葉が終わらぬうちに、モエギが食い込み気味に言い立てる。


 その反応に目を丸くして、空子が龍星と陽樹のほうを見る。

「ヒメ様によると、僕やリュウちゃんは目に入れても痛くないほどの可愛い弟分だそうで」

 陽樹の説明に、モエギはしたり顔で力強くうなずいてみせる。


「可愛い……? 目に余るとか手がかかるの間違いじゃなくて?」

「思ってるよりも、お主らに対して辛辣しんらつなのじゃな、この巫女どのは」


「もう慣れてる」

「だね」


「……ちょっと脱線したけど、とりあえず言われたとおりに女の子たちの服を戻してる途中で、ヒメ様が鶴さんと亀さんがピンチだって言って駆け出して行っちゃって、ここで待つようにって言われてたからおとなしく待っていたら、遠くのほうで火柱はあがるし、月が出てるのに雷は鳴り出すし。なんかこの世の終わりが来たって感じで生きた心地がしなかったわ」

 

「まあでも無事にみんなが戻ってきたってことは、この騒動も終わりってことでいいんでしょ?」


 ようやく肩の荷が下りたという感じで、軽く背伸びをした空子が無理に明るい表情をつくって問いかけてくる。


 龍星と陽樹は決まりが悪そうにお互いを顔を見合わせると、

「クーコさん、実はその……落ち着いて聞いてほしいんだけど……」

「まだ、ひと仕事残ってます……って、ひと仕事ですめばいいけど……」

「え?」


 空子の笑顔がひきつった表情へと変わっていき、

「どういうこと?」

 おそるおそるといった感じで尋ねる。


 龍星が促すように陽樹に目をやると、陽樹はひとつうなずいて、

「まず、これから女の子たちや倒れてる人たちを回復させて、今日のお祭りを最後までやり遂げます」

 空子に説明してみせる。


「なんだ、それくらいなのね」

「いや、『まず』って言ってるのを忘れないで」


「え、じゃあ続きがあるの?」

「うん。クーコさん、祭りの様子を直に見てないから、フクマ憑きになった女の子がどれくらいいるか想像できないと思うけど……」


「ソラちゃんが介抱したのはこの山に残っていた子だけで……フクマ憑きの女の子は結構な数が山の外、街の中に出て行ってるんだよね」

 龍星と陽樹の説明に、空子の顔色がだんだんと青ざめていく。


「その……具体的な数とか分かる?」

「ハル頼む。俺が言うと信憑性が薄れそうだし」

「いや、どっちが言っても結果は変わらないと思うけど。えっと……ざっと100人くらい、つまり、ソラちゃんが介抱した女の子たちの約3倍はいる計算になるね」

 陽樹が申し訳なさそうにだいたいの数を告げた。


「う、うそでしょ……」

 空子は呆然とした表情でふたりを見たあと、モエギのほうに救いを求めるように視線を移す。


 モエギはまったく救いにならない笑みを浮かべて、

「これからしばらくのあいだ、よろしく頼むぞ、巫女どの。まあリュウセイとハルキが頑張れば、お主らでいうトコロの夏休み中にはすべてのかたがつくじゃろうて」


「うそでしょーっ!!」

 空子の悲鳴にも似た絶叫が夜の神社に響き渡った。


 

 しばらくして――。

 萌木神社での祭りは再開した。

 

 フクマによる騒動が起きる前より女子の数は減っていたが、それにも関わらず、境内は騒動以前と同様の活気と熱気で満ちていた。


 精気を奪われ倒れていた人々はモエギによって回復し、フクマ憑きとして祓われた少女たちも取り憑かれていたときの記憶もなく、まるで何事もなかったように祭りを楽しみ、その盛況ぶりにひと役買っていた。

 ただひとつの例外を除いて――。


「あー、いたいた。よかったー、はぐれちゃったのかと思いましたよ」

 授与所に並べられている品の数々を眺めていた琥珀は、道場の後輩たちに声をかけられ振り返った。


 西方館武道道場の後輩である桜子さくらこ美月みづき結衣ゆいの三人が小走りに琥珀の元に駆け寄ってくる。

 

「せんぱーい」

 と、桃色の生地に桜吹雪が舞い踊る鮮やかな色合いの浴衣を着た桜子が琥珀に軽く抱きつく。


 琥珀に心酔するあまり、髪型をハイポニーテールにしているだけでなく、細かな仕草をも真似ているので、ふたりが並ぶと服装が違っていても本当の姉妹のように見えた。


「どさくさにまぎれて、先輩に近づきすぎです」

 と言って、美月が手を伸ばして桜子を引き離した。


 髪をふたつのお団子状に左右にまとめた活発そうな印象と裏腹に、濃いめの青に星々をちりばめたような生地に大きな金色の三日月が描かれた浴衣と言葉遣いやその仕草が優雅さと落ち着いた雰囲気をかもしだしている。


「ちょっとふたりとも、なんで浴衣でそんな早く走れるのぉ」

 息を整えながら、結衣がようやく桜子と美月に追いつく。


 ショートカットや白地に赤いリボン柄の浴衣を身につけた体型、そのしゃべり方も相まって同い年である後輩三人組の中でも幼さをひときわ感じさせる。


 年相応のはつらつさも祭りの勢いに呑まれたのか、少しセーブしている印象があった。


「グッズを見てたみたいですけど、どれか買うんですか?」

 授与所に並べられている品々に目をやって、桜子が問う。


「んー、さっきお参りしたときの願い事が意外とすぐにかなったんから、御守りとかも御利益あるんかなあって思ってん」

 琥珀の答えの半分は方便だった。


 彼女が授与所を訪れた理由のもう半分は他にあった。

 今夜、出会えた好敵手との再会を期待してのことだ。


 会ったときの格好から神社の関係者だと推測して、境内を捜してみたが見当たらず、授与所にいた巫女ふたりにそれとなく聞いてみたが、それっぽい男子はいないとの答えが返ってきた。


 授与所の巫女は同じ学校の顔見知りだし、彼女たちの答えは信頼できる。


 この神社の関係者ではないとなると、ほかの神社を片っ端からあたるか、偶然に出会えるのを期待するしかない。

 幸いなことに名前と顔、そして使う流派の名はきっちりと覚えている。


 琥珀は戦っていた相手の顔と、彼の名乗りを思いだす。

『鶴が来るリュウの星』……龍と竜、どっちのリュウかまで聞いておけばよかった。


 おなじくどのような字を書くのかは知らないが、アマツヒサメ流とかいう妖怪退治の剣術も彼を捜す手がかりになるはずだ。


 そう、琥珀だけはモエギの神力を受けて回復しても、それまでの記憶を保ったままだった。


 それはモエギからの龍星へのご褒美というわけではなく、もちろんモエギの手抜かりでもない。

 

 琥珀にとって、龍星を相手に勝負をしていたあの時間は本当に楽しい一時ひとときだった。


 フクマに取り憑かれてから体全体に満ちあふれたエネルギー、それに突き動かされるような衝動と昂揚感、そしてあの勝負での動きのひとつひとつを思いだすだけで、今すぐにでも体が自然に動きそうになる。


 それらは彼女にとって忘れがたい体験だった。それこそモエギが龍星や陽樹に告げた『うれしい気分や楽しかったことはそのままにしてフクマが出てからの記憶を軽くすっ飛ばす』=『うれしかったり、楽しかった記憶は消えない』という言葉を裏付けるほどに。


 フクマと切り離されたあとでも、琥珀は自分のポテンシャルがわずかながらも間違いなく上がっているのを感じていた。


 フクマと共にあったときのような動きはできないかもしれないが、彼ともう一度手合わせをして強さを実感したい。


 いや、相手に自分の強さをもっと分かってもらいたい、それだけでなく相手の強さをもっと知りたい。


 抑え込むのも難しいと思うほどに高まっている欲求と、じっとしていられない衝動をどうにか琥珀が抑制していると、


「って、あれ?」

 彼女の格好をまじまじと見た桜子が、


「コハク先輩、せっかくのミニチャイナを選んだんですからズボンはナシにしましょうよ」


 彼女の指摘どおり、今の琥珀は白い虎耳のついたカチューシャも尻尾もなく、シンプルに白地に黒の虎縞模様をしたミニチャイナに、黒一色のカンフーズボンを合わせた格好だった。


「わたしたちが見繕ったときは虎耳&尻尾つきミニチャイナだったはずですのに」

「そうそう、太ももを見せてアタシらを悩殺してくれないと」

 美月と桜子の言葉に、


「いやいや、アンタらを悩殺してどうするんよ。それにズボンがないと蹴りを出すときに下着が見えちゃうじゃん」

 と答えた琥珀に、


「なんで、こんなお祭りの日に蹴りを出すのが前提になってるんですか」

「この調子では先輩に春が来るのはだいぶ先ですわね。来年になったとしても来るかどうかあやしいですけど」

「というか、蹴り飛ばしたくなるような相手がいたんですか? たとえば、しつこいナンパ男が女の子に絡んでたりしてたとか」


 その問いに琥珀は少し考え込んで、

「いや、見た目は軟派だったんけど……手合わせしたら硬派だったんというかストイックだったというんか……」


 彼女の答えに、

「ちょっと目を離したすきに、ひと勝負終わらせてるとかなんなんですか」

「アグレッシブなのが先輩の魅力のひとつとはいえ、好戦的なのにも限度があるのでは」

「でもそれでこそコハク先輩です。それで勝敗は?」

 当然の勝利を期待する3人の視線を真っ向見据えて、


「負けました。うちの負け」

 あっけらかんとした答えに、


「コハク先輩が……」

「負けた……?」

「道場の人以外に?」


「そう、負け」

 負けたと宣言することを恥じるように琥珀は顔を赤らめたが、実際の理由は違った。


 フクマに取り憑かれていたとはいえ、他人をなんとも思わない自己中心的な態度をとったこと、勝負がついた際に相手と下着姿で密着する形になったことを思いだしたのだ。


 今になって恥ずかしさで顔が自然と火照ってくるのをどうにも抑え込めず、後輩たちに顔色を探られないように琥珀はややうつむいてみせる。


 彼女の態度を別の意味に取った後輩たちは、

「相手はどんな卑怯な手を?」

 真剣な表情で迫る。


 彼女たちの言葉にハッとなって、

「いやいや、正々堂々とした試合形式だったんで、卑怯な手とか使われておらんよ。敗因があるんとすれば、うちの慢心というか思い上がりやね」

 琥珀は言い含めるようにさとしてみせる。


「そうなると、先輩に勝った相手がどんな人物かは気になるところですわね」

 美月の言葉に、


「顔と名前、それから流派も分かってるんから再度手合わせを頼み込もうと思って捜したんけど、もうこの神社にはいないみたいなんよ」

 琥珀は残念そうに答える。


「なるほど。だったら再戦に備えて必勝祈願の御守りを買っておきましょうよ」

 結衣の提案に、


「え?」

 その言葉が意外だったかのように琥珀が返す。


「そっか……必勝祈願か……でも別に勝てなくてもいいんよね、もう一度手合わせできればいいなっていうんか、やり合ってたときはすっごく楽しかったから偶然でも神頼みでもとにかくまた会いたいっていうんか……」


「そういうことなら……縁結びの御守りでもいいんじゃないかなあ。というか、この神社の御守り、必勝祈願のヤツは無いし」

 彼女たちのやり取りを聞いていた授与所の巫女が横からアドバイスしてくる。


 そのアドバイスに戸惑いつつも、

「いや縁結びとかそういうのとは違うん……いや、そ、それもありかも……」

 琥珀の意外な答えに、


 彼女の後輩たちは一様に、

「「「おや? おやおや、おんや~?」」」

 と、興味津々という感じで前へと乗り出してくる。

 

「雄々しく闘う女と書いて雄闘女オトメだったコハク先輩に季節外れの春が訪れる日が来てたとは」

「来年を待つまでもありませんでしたね。これは実におめでたいですわ」

「これは道場全体でお祝いしなくてはいけませんなあ」


「ちょい待って、待って。だから、そういうのとは違うから。あと……うち、今の雄闘女って呼ばれ方は初耳なんだけど」

「あ……今のは聞かなかったことに」

「ならん」

 怒りをむき出しにするというよりはどこかおどけた感じで、発言の主である結衣のおでこを指で軽く押す。


「堪忍してやってください、御守りのお金、うちらが出すんで!」

「と、というか、お金は払いますので、今のデコピンのようなものをわたしたちにも!」

 桜子と美月の言葉に呆れつつ、


「あんなぁ、この状況でそれだとうちが御守り脅しとったんみたいになるんけど……あとデコピンにお金払うのもちょい引くわ」

 琥珀が冷めた視線で返す。


「それなら、いっそのこと全員で同じ御守りを買うというのは?」

 授与所から巫女が身を乗り出さんばかりにして提案してきた。


「いっそのことの意味がよう分からんけど、えらく商売上手やな」

「どうもどうも」


「もし縁結びの御守りが効くのなら、コハク先輩に勝ったその男子に遭遇できる可能性が上がるかも」

「そっか、私たちで見つけることができたら先輩に報告すればいいのか」

「いえ、報告の前にその男子が本当に先輩に相応ふさわしい相手なのかどうか見極めるためにも、わたしたちも手合わせを挑むべきですわ」

「それは名案かもしれない」

 桜子、美月、結衣は一致団結を見せると、


「どうでしょう、先輩?」

「みんながそれでええなら、それでええよ。おそろいにもなるし」


「先輩とおそろい……そっか、そうと決まればさっそく吟味ぎんみしないと!」

「可愛い絵柄のがあるとよいのですけど」


「こう見る限り、縁結びだとクモしかないんじゃない?」

「一応、ネコとヘビでも縁結びの御守りはあるよ」

「ネコ、クモ、ヘビならネコで決まりでしょ」


「私、御守りだけじゃなくて、このヒーメちゃんとかいう妙に癒やされるぬいぐるみも買ってく」

「どのサイズを買うん?」

「一番大きい超ビッグサイズのを」


「お値段も超ビッグというか超ビックリな感じだけど」

「大丈夫。ぎりぎり予算内」


「1メートルは優に超えてるようですけど……結衣、かかえて帰れますの?」

「絶対にかかえて帰る」

「決意は固そうですわね」


「これをかかえてお祭りをまわるのはちょっと難しいだろうから、売約済みってことでキープしといてあげるよ」

 巫女の提案に結衣は礼を言うと、他のふたりと同じように御守りを念入りにひとつひとつ見比べ始める。



 そうして全員がマンガ調にデフォルメされた猫が描かれた御守りをおそろいとなるように入手し、


「それでは人混みもだいぶ解消されたようですし、屋台のほうを見て回りましょうか」

「私、ヒーメちゃんと写真撮りたい」

「ぬいぐるみと?」

「ううん。ゆるキャラたちと一緒に歩いてたヤツと」

「そう言われてみれば、たしかにこのぬいぐるみと同じような着ぐるみが歩き回っていましたね」

「よーし、それじゃあみんなでそのヒーメちゃんと一緒に写真に写ろう!」


 後輩たちが楽しそうに言葉を交わすのを聞きながら、

(また手合わせできるといいな……いや、まずは会えますように――)

 琥珀は龍星の顔を思い浮かべながら、手に入れた御守りをそっと手で包み込んだ。

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