第38話
振りかぶった炎の剣で切りかかる炎帝。
対するミス=ポッツは、手の先から太い枝とそれを取り巻く螺旋状の蔦とで巨大な棍棒を形成し、迎え撃った。
拮抗する剣と棍棒。
棍棒が火炎で焼かれて崩れるような気配はない。
炎意味ねえ……。
打ち合わせること複数回。ミス=ポッツは足元から新しい樹木を生やさせ、高所を取った。
振り下ろされる棍棒。
沈下する地盤。
攻撃を受け止めるために剣身に手を置いた炎帝が絶叫しながら転がり、距離を置いた。
「熱ッ! 熱ッッつゥッ‼︎」
バカじゃねえの。
「……くっ、俺に傷を負わせるとはなかなかの手強さだ」
くっ、じぇねえよ。自滅だよ。
それにもとから手負いだろうが。
植木鉢の女は彼に構わず、次の攻撃を振るう。
迫り来る巨大な棍棒を補強し、より大きくしている周りの蔦。その隙間に弱点を見出した炎帝が、蔦と蔦の間に炎の剣を刺し貫き、そのままミス=ポッツごと振り下ろした。
直撃の寸前、地面に芽吹かせた巨大な花で受け身を取った植木鉢の女はくるりと宙返りをし、着地するより先に手のなかから複数の小さな球体を放った。
「時間稼ぎくらいはできるでしょ、あんたたち!」
小さな球体。
もとい、大量の種子たち。
それらは瞬時に発芽、成長し、小型のミス=ポッツとなって地面に降り立った。
「あーしがころす!」
「うでをもぐ!」
「光合成もできない下等種族が。生命の起源は動物ではなく、原始バクテリアを先祖にもつ我々植物であるぞ。畏れ敬い、そして死ね!」
小さな人型の植物それぞれが明確な殺戮の意識をもって、てくてくと短い足で走っていき、集団攻撃を試みる。
ひとり変なやつがいた気もするが、気のせいだろう。
「小癪な! 数で押せる相手じゃないことを教えてやる‼︎」
炎帝は剣を後方に置き深く構える。
「ぶち殺せーっ!」
複数体の小さな分身が飛びかかった瞬間、拗らせマキシマムは刀身を横向きに振るった。
ズババババッッ‼︎‼︎ と、連続で手打ちにされる分身たち。
「うぎゃーっ!」
「ぐわぁーっ!」
「これで終わったと思うな。憎悪は必ず受け継がれる」
斬撃に魔力による追加の効果が付与されていたのだろうか。
身体を両断されたのち、切り口から炎を吹き出させながら分身たちが消し炭になっていく。
だからなんなんだよ最後のやつ!
妙に貫禄のある個体がどれだったのか分からないまま、分身の一斉攻撃が終わってしまう。
「なんか掴めてきたかも」
消えていく分身たちの奥で、ミス=ポッツが不敵に笑う。
彼女はそこで、持って行かれた棍棒の代わりに新しい近接武器を生成した。
持ち手となる太い枝と硬質で大きな球体。
ヤシの実と思われる果実を蔦で先端に取り付けられたそれをふたつ、モーニングスターのような武器として、ミス=ポッツは二刀流の攻撃を振るう。
自称炎帝の自傷マンこと拗らせマキシマムに、鈍器としてより強力になった猛攻をすべて去なす術はない。
遠距離から追尾するように迫る球体を、彼は左右に連続で飛びながら距離を置く。
今までのような弧ではなく、直線。
ミス=ポッツが放った高速の攻撃をもろに食らい、炎帝は血を吐いた。
「がぁッ────ごはぁッ‼︎」
「痛ったそーっ♪」
両手にモーニングスターを持ったまま、ミス=ポッツは腹部から新しい蔦を高速で伸ばす。それは炎の剣の鍔と剣身の周りを何度か旋回し、ガッチリと絡みついた。
すかさず引き戻される蔦。
しかし、炎帝は剣の柄を離さない。
半ば引き摺られ、ついには宙を舞って近くの建造物へと叩きつけられる。
煉瓦造りの壁面がボロボロと崩れるなか、炎帝は掴んだ剣の魔力を一気に放出して細い蔦を焼き切るなり、最低限の受け身を取りながら石畳の地面に落ちた。
大きな隙が生まれる。
よろけながら立ち上がる彼を、ミス=ポッツは見逃さない。
「はい、これでぺっしゃんこ!」
彼女は枝葉と果実、蔦で作ったモーニングスターを抉れた地面から引き抜き、拗らせマキシマムを挟み潰そうと今度は左右から同時に振るった。
互いに打ち付けられる巨大な果実。
衝撃で飛び散る木片、破片。
かろうじて上に飛んだ炎帝はそれを足場にして乗り、剣先を植木鉢の女へと向けた。
「罪悪を両断せし我が焔の聖剣よ。我が意に従い、彼の者を煉獄へと堕とし粛清せよ」
痛すぎる妄言が吐かれた瞬間。
メラメラと剣身を均等に包み込んでいた炎が切先の一点へと集中し、ひとつの炎の塊となった。
「奥義、」
炎帝の紡ぐ言葉に呼応し、炎の塊は一層強く光を放つ。
「『
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