第37話
お姫様の正確な位置が分からない限り、適当な高出力攻撃は控えた方がいいだろう。さっき撃ったのは細い弾道の魔力砲だったから、おそらくは巻き添えになっているなんてことはないだろうが、地下に幽閉されている可能性もあるからね。貫通力が高すぎる攻撃はノン! お控えなすってシルブプレ。
そんなわけで、俺っちは
「俺っちは後方支援に回るよ。単騎でいけるかい、ミス=ポッツ?」
「言われんでも、あーしはそのつもりよ。新しい身体がどこまでやれんのか試してみたいしね!」
仕事熱心な駒だこと。
ヒト族たちの猛攻撃を交わしながら、俺っちは焼却したヒト族の長官から取り返した
「傭兵は棒術もいける口かな?」
「体術は日々の訓練で培っていた。任せろ」
猿顔はそういうなり、手のなかで王笏を一回転。
ミス=ポッツの触手のような蔦──だか枝だか根っこだかよく分からん──攻撃によって足を取られて転んだヒト族の兵士のひとりへ向かって地面を蹴り、頭を目がけてその長い武器をゴルフでもするかのようにフルスイング。
首ごと持っていかれた鎧兜が顔面に直撃した別の兵士は、頸椎が潰れる音とともに頭を仰け反らせ、背中から倒れた。
悪漢たちが繰り広げる圧巻の景色。
俺っちは広場を円形に囲うように等間隔に設置された街頭のひとつに飛翔の魔法で登り、先ほど駅構内でくすねて来たお菓子の残りを頬張りながら演劇でも鑑賞するかのように眼下の様子を楽しんでいた。
「そこまでだ、猿型の魔族! 貴様は動物園に放り込むにも値しない! このアイシクル=ナイトが、愛くるしく慈悲の心をもって成敗してくれる!」
はい、あいつ終わったー。
弱い犬ほどよく吠えるなんて言い方があるけど、マジで噛ませ犬みたいなやつってよく喋るんだよな。言い得て妙だわ。
御神渡りのような氷塊が銃火器から放出された魔力砲の軌跡となっているところから、ムサクルシ=ナイトさんは氷の魔法を使うようだが、王笏の
液体窒素で固めたバナナは釘を打てるらしいからな。
叩き潰して擂り下ろしてやれ、バナナマン。
一方、ミス=ポッツはというと。
「うッ……ぐぇ────」
相変わらず蛸の触手のように伸ばした蔦の攻撃で来る兵士を皆締め殺していた。
なかにひとり、泡を拭きながらもなんとか耐え、刀剣で掴んできている蔦を切り落とす兵士がいたが。
きゃっは!
未だ巻きつく蔦の断面から小さなミス=ポッツが形成され、小型の分身が仕事を終わらせた。
おいおいマジかよ。
あんなお転婆ひとりでも手を焼くってのに、もっと増えられたら困るんですけど。
俺っちは全てが終わったあとの世界にじゃじゃ馬が蔓延るのを懸念するが、それも杞憂だったよう。
出現した小さな分身は、すぐさま枯れてなくなってしまった。
「ちっ、魔力を自給自足できるように改造しねえと、あーし専用の
新しい身体にもう順応して応用まで利かせてやがる。
次期魔王の座でも狙ってんのか、こいつ?
そこで。
ボゥッ‼︎ と、体内に残った少ない魔力で暴れ回っていたミス=ポッツの分身たちが、何者かによって一瞬で消し炭にされた。
「大事な仲間たちをよくも絞殺してくれたな、
声の主はヒト族の長官のひとり。
携えた刀に炎を纏わせた御歳五四くらいと思われる彼は、ゆっくりと剣先をミス=ポッツへ向ける。
顔半分に火傷の痕を負った強面に、縮れた前髪。
よく見るとそれは天然パーマではなく、おそらく自分の剣に纏わせた炎によって焦げたものらしい。
火傷しそうとは思ったが、まさかガチで自傷してるとは。
ファイヤーソードは卒業した方がよかったんじゃない? 四〇年前に。
「この俺、無慈悲なる炎帝、業火のマキシマム=ファイアがその可愛らしい化けの皮を一枚ずつ剥いで、薪に焚べてやる」
そのセリフを耳にした俺っちは、じわじわと背筋が凍りついていくのを感じた。
身体が震えて身動きが取れない。
この俺っちが怖がっているというのか……?
いや、違う。恐ろしいのだ。
恐ろしく恥ずかしいのだ。
他人事なのに自分にまで影響が現れる脅威。これが共感性羞恥ってやつか。無慈悲なる炎帝、業火のウンタラって……きっと十四歳の頃から温めてたアイデアなんだろうな。
化けの皮を剥いで薪に焚べるというセリフはたしかに剣と炎使いの設定と整合性が取れている。しかし、あまりにスラスラと出てくる決め台詞は自室の姿見の前で何度も練習している様子が容易に想像されて、より一層痛々しい。
炎帝のご両親、ママキシマム=ファーザーお二方には己の教育を今一度見つめ直し反省していただきたい。天国で。
「はっ、やってみろや厨二病! こっちはてめえの青臭えケツ蹴り上げて亀甲縛りにしてやるよ。
まずいぞミス=ポッツ、そいつは禁句だ。
年頃の少年は自分の妄想を指摘されるのも、親の話もNGなんだ!
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