第33話
「大損害だな。改修費はソーセージ野郎の年金か」
派手に脱線する様子の一部始終を、オルトロスを抱えたバナナマンを片手に飛翔しながら見守っていた俺っちは、そんなことを呟く。
「お偉いさんの退職金は高額だからな。っていっても、どうせそっちは他のお偉いさんが仲良く山分けして、修理費は税金から出るんだろう」
バナナマンが適当に予想をつける。
彼はオルトロスを地面に下ろし、そのまま乗客の救出に向かった。
どうやらソーセージ野郎が車内を洪水にしてくれたおかげで、乗客らは衝突の衝撃をもろに受けることなく済んだようだった。
怪我人も含めて全員が生きたまま救出されるなり、俺っちはバナナマンに声をかける。
「なんか今日、幸先いいな。乗客が全員生還したのは、まぁ俺っちにとってはどうでもいいことだけど一応は奇跡なわけだし。お前がもと軍人だったおかげでハンドシグナルでソーセージ野郎メタれたしな。ツキが回ってきてるぜ!」
「回ってるのは俺の目だよ。久々に疲れたわ」
救助してもらったくせに「ゴリラの魔物だーッ! 逃げろーッ‼︎」と乗客が恐怖の顔で四散していく様子を眺めながら、猿顔の男はベタッと地面に座り込む。
猿顔呼ばわりするやつらを殺しに追っかける元気もないみたいだ。
義手の足で頭を掻く姿がつくづく猿っぽいなと改めて思いながら、俺っちは休息を提案する。
「トイレ休憩しようぜ。俺っちもこの汚ねえマント洗わなきゃだし」
「温水では洗うなよ。血液はタンパク質だから、温めると固まって落ちなくなる」
「なにお前、家事できるタイプだったの?」
意外な豆知識の披露に驚きつつ、俺っちはバナナマンに手を貸す。
ヒト族らの避難が完了したようで、辺りはしんと静まり返っていた。
逃げる足音も悲鳴も聞こえない。
もぬけの殻となった土産屋やレストランを眺めながら、俺っちとバナナマン、そしてビチャビチャと水を滴らせるオルトロスは、清閑な駅構内を歩いた。
てか犬って濡れたらブルブル体を振って水気を落とすものじゃなかったっけ?
あぁそっか、こいつは犬じゃなくて駄犬だったな。
「てかトイレ見つかんねえな。ヒト族って基本野糞だったりする?」
そこら辺の店で見つけたお菓子の詰め合わせを食しながら質問する。
なにこれ美味。あとでまた来よう。
側近と召使い……には土産話だけでいいか。
お菓子は俺っちが全部食うわ。
「なわけあるか。だいぶ駅の感じが変わってるせいで案内はできないが、どこかにあるはずだ」
と、そこで。
「トイレなら来た道戻って左だよ」
どこからかそんな声が聞こえてきた。
というか、仮にいたとしても俺っちたちに話しかけるはずもない。
かたや血みどろのマントを羽織り猟奇的な雰囲気を放つイケメン。他方は頭が二つ付いた野良犬を連れたゴリラだ。
恐れ多さとシンプルな恐怖で話しかけるという発想にはならない、よね?
「どこ見てんのよ、こっち! 教えてやったんだから、なんかちょーだいよ」
周囲を見回す俺っちとバナナマンの視線が、同時に音源を捕捉する。
「喋る植物か。俺っちの家の庭にも生えてるぜ」
「……最近の土産には珍妙なものもあるんだな」
葉っぱのいくつかが萎れた若木。
あまりサイズが合っていないように思える小ぶりな植木鉢にちょこんと挿されたそれは、ヒマワリのような花の中心部分に無愛想な顔を備えていた。
「珍妙ってなんだよ珍妙って! 喋るゴリラだって十分おかしいだろ!」
禁句を言われてわなわなと拳を握りしめるバナナマンを腕で抑えたところで、植木鉢に挿さっていた説明文が目に入った。
『在庫処分 99%OFF』
「……なにこの曰く憑き商品」
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