第13話
(どーゆー原理なのさ?)
止まるところを知らない。
そんなヨボヨボの老魔族から無限に吐き出され続けるゴブリンの軍勢を蹴散らしながら、くしゃくしゃ頭の青年、エンシェント=ガンナーは思考を巡らせる。
ゴブリンって単為生殖じゃなかったけ。
そもそもやつはメスなのか?
次第にそんな考えが的外れなことに気づく。
最初に見たときから、骨ばったゴブリンキングの出っ腹の大きさが変わっていない。ゴブリンを内包しているものだと思っていたが、どうやらそういうわけではなさそう。
小さいゴブリンを連投してくるなか、あの腹には到底収まらないであろう大型の個体を生産しているのがなによりの証拠だ。
(てことはー、生殖活動じゃなくて魔力かなにかで増えてるってこと? でもそーだとして、別に解決の糸口にはならないよなー……)
近接攻撃を加え、相手からの反撃を食らう前に距離を取る。
一方的に攻撃できるヒットアンドアウェイ戦法は、本来であればカウンターを避けるために距離を取ることがロスになるはずだが、遠距離攻撃のカードを持っているがゆえに攻撃権を捨てずに済むエンシェント=ガンナーには関係のない話。
基本的に撃っては殴り、殴っては撃つを繰り返すだけで、くしゃくしゃ頭にそばかすの青年は最強になれた。
しかし。
「
ゴブリン玉の一斉掃射を掻い潜ってゴブリンキングの懐に潜り込んだ────潜り込めたかと思ったところで、複数の巨大な拳が飛んできた。
咄嗟に腕でガードするが、怪力によって数メートル後方へ飛ばされる。
ビリビリと腕に電気を流されているような感覚。
痺れて思うように動かせない。
「手数はお主の専売特許、とでも考えておったか?」
間髪入れずに放たれるゴブリン玉の弾幕に、エンシェント=ガンナーは防戦一方を強いられていた。
古武術でミニゴブリンたちの頭蓋を粉砕していくので精一杯。
リロードする隙すら与えてもらえない。
「考えていた、じゃねーよ」
装填させてくれないなら。
短く深呼吸をし、覚悟を決めたように地を蹴る。
ぶん殴ってボコボコにするまで。
「事実だ! お前がいなくなればな‼︎」
そばかすのギアが上がる。
鍛えあげられた長い足で飛んできたゴブリン玉複数個を一蹴、粉砕。
噛みつこうと大口開けたミニゴブリンの口内へ躊躇なく拳をぶち込み、後頭部へと貫通した腕にいまだゴブリンの死体がぷらつくのを気にせず、同じ腕で続く個体を殴殺。
高度な戦闘技術を持たないがゆえに攻撃が単調なミニゴブリンたちを、彼は次第に半自動的に殺せるようになっていった。
剣士が刀に付着した血を払うようにミニゴブリンの残骸をかなぐり捨て、跳躍する。
ゴブリンキングのもとから離れないゴブリンナイト。
主人を守る忠実な近衛兵たち。
「次はお前らだ」
でかい図体。
ヒト族のなかでもそこまで長身な方ではないエンシェント=ガンナーからすれば、見上げるほどの脅威。
が、そのぶん急所も狙いやすい。
人中に膝蹴りを叩き込み、仰向けに倒れたところで腰の両側に下げていた拳銃を引き抜く。
目潰し。目潰し。そして、目潰し。
装填されていない拳銃で執拗なまでの刺突を繰り返す。
生死を確認することなく次の個体へ。
おそらくは死んでいるが、生きていても構わない。
あれだけ顔面をぐちゃぐちゃにされたら、起き上がったところで暗黒が広がっているだけだ。
空中を水平移動するエンシェント=ガンナーの猛攻は、狩りというにはあまりに乱暴だが、虐殺と呼んでしまうと、
あまりに的確で、他の言葉を探す必要がなくなる。
「どっしりしてるよな、こいつら」
物量で攻めることを目的としたミニゴブリンと対比し、くしゃくしゃ頭は呟く。
だから、軽く小突くどころか全体重を任せるよう顔に飛びついたってフラつきもしない。
「そこがいい」
幅の広い肩に足を掛け、大きな頭の上下を腕で包み込むようにガッチリとホールド。
そのまま腕を勢いよく左右に開くと同時に、ゴブリンナイトの首がへし折れる。
残るはそう。
ゴブリンキング、ただひとり。
「たっははーっ! こーこまで来ちゃったよ親玉さん!」
エンシェントガンナーは即座になにかを口に放り込むと、背中に掛けてあった二本の猟銃を引き抜いた。
死んだゴブリンナイトを踏み台に空を舞う。
斜め下に向けられた銃口はゴブリンキングの両目を捕捉。
「ぐぅ⁉︎ ……ぬぉぉおおおッ‼︎」
対するゴブリンキングは持っていた長い杖を両手で掲げ、ふたつの銃身を上方へ逸らす。
「バーカ、弾が入ってんならとっくに使ってるわ」
くしゃくしゃ頭の青年はそう言って、猟銃を放棄。
そのまま地面に着地するなり、腰の拳銃を引き抜いた。
長い猟銃がブラフだったと気づいたゴブリンキングの動揺した視線は、下方、完全に間合いに入った敵へ。
その相手はというと。
腰にささった二丁の拳銃を引き抜き、装填のために手首を軽く捻ってシリンダーを展開。
さきほど口に放り込んだなにか、すなわち弾丸を吐き出すと、それらは完璧な軌道で弾倉へと滑り込む。
「はーい、王手でーすっ‼︎」
引かれるトリガー。
下りる撃鉄。
発射される弾丸。
喉元に突きつけられた拳銃を、ブラフの猟銃を弾くのに両手が塞がってしまったゴブリンキングが止められるわけもない。
ドドンッッ‼︎‼︎‼︎
勝利の銃声が響き渡った。
一瞬。
魔王レガリオを始めとする魔族一行が、そちらへ視線を向ける。
杖を落とし。
天を仰ぎ。
腕をだらりと垂らして立ち尽くすゴブリンの王がそこにいた。
背骨がボコボコと浮き出た、出っ腹のおぞましい体躯。
それが微かに。
わずかに動いたかと思えば。
「うぅぅおェゲロぉぉぉおおおおおッッッ‼︎」
垂れた紐を振るったようなしなやかさで体勢を立て直したゴブリンキングの口から、
「ギィギャァァァアアアアアッ‼︎」
腕と顎だけが異常に発達した新種のゴブリン。
ドロドロの粘液に塗れたそいつが飛び出し、エンシェント=ガンナーの肩に齧りついた。
「あぁ⁉︎ ああがぁうがぁぁぁあああああッ⁉︎」
ふっと笑う魔族ら。
他方、なにが起きたのか理解が追いつかないエンシェント=ガンナーは絶叫した。
起きあがったゴブリンキングがボソリと呟く。
「若造、第二ラウンドじゃ」
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