第6話
そこで。
「俺様にもくれよぉ、お弁当!」
背後からガラガラとした声が聞こえてきた。
死体の山しかないはず。
どっから湧いてきた?
振り向くと、二メートルを超える巨体が俺っちを見下ろしていた。
分厚い胸板と、俺っちの太腿ほどの太さを誇る二の腕。
額、首には太い血管が浮きあがっている。
しかし、それ以上に目を引くものが彼にはあった。
「強面の割には臆病らしいなお前。オムツに血尿漏れてんぞ」
重装備。
その割に股のところだけ覆うものがない。
開いた股の部分には、血が滲んだ布が分厚く何重にも巻かれていた。
「血尿じゃねぇ、血だ‼︎ ヘラヘラしやがって、貴様のせいでこうなったんだぞ‼︎」
「俺っちが? ……見に覚えねえな」
「貴様がさきほど飛ばした斬撃。俺様は持ち前の反射神経と柔軟さで仰け反ることにより、間一髪で躱したはずだった」
「あれか、リンボーダンス的な感じでね?」
「しかし! しかしだな!」
むさくるしいデカブツが鼻を啜りながら涙を拭く。
「俺様の息子は……ぐすっ……逃げ遅れてしまったんだ……ッ‼︎」
「……ぶふぉッ! なるほど、チン棒だけ間に合わなかったんだ?」
瞬間。
ヒュォオッッ‼︎‼︎‼︎
巨大な戦斧が振り下ろされる。
紙一重で避けて、俺っちは大男の背後へ。
「なに笑ってやがる⁉︎ 貴様のせいだぞッ‼︎」
「それは違うだろおっさん。俺っちは一人残らずきっちり殺そうとしたんだ。下手に避けたお前が悪い」
「おっさんじゃねぇッ‼︎」
横薙ぎに振られる戦斧。
俺っちはそれをバク転で回避。
地面に手がついた瞬間、腕の力を使ってもとの体勢に戻る過程でおっさんの顔面目掛けてドロップキックをかましてやる。
「俺様は……、」
赤オムツのおっさんは、口内に溜まった血の塊を吐き出して言う。
「『
「……、」
「俺様は人類を魔族の脅威から救うために派遣された────」
「……、」
「────死んだ仲間たちの意志と、崇高な目的を────」
「……、」
「────天罰を下すため……って聞いてるのか貴様ッ⁉︎」
俺っちがボケーッと突っ立ていると、赤オムツの穴あきー爺さんが話を中断して怒声をあげた。
「あ、ごめん。聞いてない」
「ふざけやがって
「いやいや、ふざけてんのはそっちだろ! 『
そこで起きたのは、
「でしたら魔王様……、」
予想外の復活。
「えあッ⁉︎ アンデッドキッド⁉︎ 生きてたのかお前!」
バラバラに解体されたゾンビの少年が息を吹き返していた。
ゴキゴキゴキッ! と頭を一八〇度以上回転させ、
満身創痍の彼は血だらけの顔をこちらへ向けた。
「いえ、死んでました。アナ○セッ○スの使い手の演説が終わりかけていたあたりまで」
「『
「黙れオムツ履き‼︎」
俺っちは、訂正玉なし赤オムツおじさんを一蹴した。
「すまんな話の腰を折って。んで続きは?」
「そうでした。提案なのですが、彼の二つ名が紛らわしくて話が入ってこないのであれば、」
名案を思いついた、とでもいうように。
アンデッドキッドは自信満々の笑みを浮かべる。
「『聖なる戦斧』の『聖なる』を『ホーリー』に直してみてはどうでしょうか!」
お、おう……なんだろう。
「ずばり!
どのみち『穴』っぽいんだよなぁ。
すると。
「キ、サ、マ、らぁぁああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎」
怒りを爆発させたアナーキーが叫ぶ。
彼は左右に引き裂くようにして、持っていた戦斧を二つに分解し、片方をヤケクソに投げ捨ててしまった。
あーあ、せっかくの武器が。
フォーン……
「あのさ、すぐカッとなるのよくないよ。知ってる? 人間って六秒以上怒りが続かないらしいから、ちょっと我慢すれば────」
……フォンフォンフォンフォ────
ザンッッ‼︎‼︎‼︎
どこかへ投げ捨てたかと思われた戦斧の片割れ。
空気を引き裂きながらランダムな軌道を描いて森の中へと消えていったそれは、
神出鬼没に現れ、
俺っちの目元を掠め、
背後に立っていた数本の大木をバターを切るように軽々と両断した。
「……なるほどね」
ワンテンポ遅れてピシッと切り傷が頬を走るのを感じながら、俺っちはアナーキーの方へと視線を向けた。
「両刃斧が一本」
頬を伝って流れた紫色の血液が顎のところで溜まり、ポタリと落ちる。
「今度は片刃の戦斧が二本、ってわけか」
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