うるう猫
月這山中
うるう年は三百六十五日が一日だけ多くなる。
そんな日に現れる、うるう猫がいる。
二月二十九日、うるう猫はなにをするわけでもなく、人間に愛想をふりまいたりふりまかなかったり、もとより猫を飼っている家では家主猫の餌を頂戴したりする。
そして三月一日が訪れると同時に消えてしまうのである。
これは猫版のぬらりひょんだとか、勝手な憶測を話す者もいるが、私はそうは思わない。
猫にも毎年の調整が必要なのである。
二月二十九日に猫の確定申告があるので、その時だけ現れる調整役なのである。
今うるう年も私の前にうるう猫は現れた。
私は彼あるいは彼女を一時的に捕獲し発信器を付けた。
桜耳ではない見事な三角形を立てて、鍵尻尾を揺らし、うるう猫は町中を練り歩き、時には駆け出した。私は受信器を片手に追った。
仮説が正しければ、うるう猫が行く先には『狭間』があるはずだ。
うるう猫が塀を跳び越えて民家に入る。
流石に不法侵入はできないため家の周囲で待機する。
発信器の反応が消えた。
この民家の中に『狭間』があるのか。
インターホンを押したが反応はない。空き家だ。私は周りを確認してから中へと入った。
家の中にはうるう猫が溜まっていた。うるう猫の集会場だ。
彼らは猫の言語で最終調整の話し合いをしている真っ最中だった。
私は身を潜めてうるう猫の言語を解読していた。その時である。
「なんだい、こんなところに隠れてどうしたんだい」
猫に話しかけられた。
その時私は、自分が一匹の猫になっていることに気が付いた。
「調整がおっつかないんだ。いいから働け」
それから、今でもうるう猫として私は時の狭間を行き来している。
了
うるう猫 月這山中 @mooncreeper
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