エクスマキナ
ディカイオはプシュケを残して、部屋を出た。そして大きなため息をついた。
廊下ではニケが待っていた。彼女は顔面蒼白で、足元がおぼつかず、今にも倒れてしまいそうに見える。
「どうしたんだい、ニケ? まるで悪魔でも見るような目をしているけれど」
「あ、悪魔……? そ、そうだよ、お父様は悪魔だよ! プシュケちゃんに〈
「もちろん承知の上だよ」
「どうしてこんなことをっ!?」
「そうだね、ニケ、お前もそろそろ知るべきかもしれないね、真実を」
「な、何を言ってるの……?」
「ニケ。私はね、とある遺物を動かしたいのだ。その名を、エクスマキナという」
「……エクスマキナという遺物を、動かすために……? 意味分かんないよ! それと、プシュケちゃんを薬漬けにすることに、何の関係があるの!」
「エクスマキナについて分かっていることは少ない。動かし方も分からない。だけど分かっていることもある。それは、大昔、エクスマキナの動かし方を、〈イリニア朝〉の王族たちは全員知っていたということだ」
「……」
「そして言うまでもなく、その記憶は魂に刻まれ、次の世代へと引き継がれてきたはずだ」
「……つまり、こういうこと?」
ニケはごくりと唾を飲み込む。
「イリニアの血族であるプシュケちゃんの魂には〈イリニア朝〉の時代の王族の記憶が刻まれている。それを、お父様は〈先祖返り〉を使って蘇らせ、エクスマキナとやらの動かし方を知ろうとしていると」
「そう。古代の幽霊に話を聞くのは無理だ。でも魂になら話を聞けるかもしれない」
女性は、子供へと魂を継承し続ける。そして魂には、記憶が刻み込まれている。遺物の動かし方を知る者の記憶が、女系のイリニアの血族であるプシュケの魂にはしっかりと残っている。
それを取り出すために、ディカイオは……。
ニケは眩暈を覚えた。心優しいはずの父が、もう本当に悪魔にしか見えなくなってきた。
「だからって、魂の記憶を呼び覚ますためとはいえ、〈
「私はね、こう思うのだよ。プシュケちゃんは、神が遣わした子羊なのだと。天の神は私に、エクスマキナを手中に収め、世界を救えと言っているのだと」
「世界を救う……? いったい、どういう理屈なの?」
「エクスマキナを動かすことができれば、世界を平和にすることができるのだよ。この乱世を終わらせることができるのだ」
「いったい、どうやって……」
「それを話すのは、また今度にしよう。おそらくそう遠くないうちに、お前に真相を明かす機会がやってくると思うからね」
真相……?
いや、とにかく、今考えるべきことは――。
「それで、プシュケちゃんは無事なの?」
「幸い、廃人にならずに済んだようだ。五割の壁を無事に越えた」
ニケはほっと胸をなでおろした。
「プシュケちゃんは喋ったの? エクスマキナの動かし方を」
「残念ながら、一度目の投与では思い出すことはできなかった」
次こそは成功させる。ディカイオの口調は、言外にそう告げていた。
「まさか、お父様は、もう一度プシュケちゃんに〈
「そのつもりだよ」
「そんな! 二度目の投与は――」
「100%の確率で廃人になるよ、もちろんね」
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