その名は・・・

 夕食会を終えた後、アレスはディカイオに廊下に連れ出された。そこでディカイオは言った。


『実は、アレスくんにどうしても伝えておきたいことがあるのだ』


『なんでしょうか……?』


『これから話すことは、とても残酷な内容だ。聞いたことをプシュケちゃんに教えるかどうかは、アレスくんが決めてほしい』


 どうもじれったかった。緊張感も相まって、アレスは落ち着かなかった。


 それはディカイオも同じのようで、柄にもなくそわそわしている様子だった。


『それで、いったい、なんなのでしょうか? ハッキリおっしゃってください……』


『アレスくんたちがいた旅団のリーダーの名前は、たしか、シャリテだったよね?』


『……え、ええ、そうですが。シャリテという名前です。それが、どうかしましたか?』


『できれば黙っていたかった。アレスくんは真相を知ることで、ひどく傷つくだろうからね。だけど今夜のアレスくんの様子を見て、私は心配になったのだ。もしかしたらアレスくんは、ミネルウェンを本気で出て行こうとしているのではないかと。そして、シャリテという人物が率いる旅団と合流して、また旅を続ける気でいるのではないかと』


『ディカイオさんが何を言いたいのか、全然分かりません!』

 アレスは動揺のあまり声を荒らげてしまうが、直後にハッとなって縮こまる。

『ディカイオさん。らしくないですよ。言いたいことがあるなら、はっきり言って頂きたいです』


『シャリテという人物は、スカベンジャーかもしれない』


 ディカイオはリクエストどおり、はっきり言った。

 

 アレスはしばらく言葉を失っていたが、やがて表情を憤怒に染めた。


『ディカイオさん。いくらなんでも、言っていいことと悪いことが――』


『アレスくん』


 ディカイオは、アレスの言葉を遮るように言った。彼の表情からは、すでに困惑も逡巡も消えていた。いつもの明晰な光が両目に宿り、口元には余裕の微笑が浮かんでいた。


『むろん、私の勘違いかもしれない。たまたま名前が一致しているだけかもしれない。だからこそ、アレスくんの目で確かめてみてほしいのだ。憲兵の詰所の前には、掲示板が設置してある。そこに、国際指名手配の手配書が貼ってある。その人相書きを見て、アレスくんの知るシャリテと、スカベンジャーのシャリテが同一人物かを確かめてみてほしい』


 結局、ディカイオが言っていたことは正しかったのだ。

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