真相

 シャリテが潜伏している空き家にたどり着くと、アレスは扉を三、二、四のリズムでノックした。

 

 間もなくして、鍵が開く音が転がり、扉が内側から細く開かれた。アレスは、その隙間にするりと体を滑り込ませた。


「おはようございます、シャリテさん」


 おはようとは言ったが、夜明けまではまだまだ時間がある。今は人々がぐっすりと寝静まっている時間帯だ。


「おはよう……。あれ? プシュケはどこかしら?」


 アレスは、プシュケを伴っていなかった。


「すみません。プシュケは少し体調が悪いみたいで、部屋で休んでいます。でも安心してください。出発する時には連れてきますので」


「そう、分かったわ。でも、日が昇る前には合流しないとまずいわよ?」


「分かりました」


 曇った夜空の雲が途切れ、月明かりが地上に注がれる。その光が窓から差し込んで、部屋に充満する細かい埃を幻想的に浮かび上がらせる。

 

 アレスはシャリテと向き合うと、意を決したように言った。


「シャリテさん。ひとつ、聞きたいことがあります」


「なにかしら?」


「これは、いったいどういうことなのでしょうか?」


 アレスは、くしゃくしゃの紙きれをポケットから取り出すと、シャリテに突きつけた。


「これは?」


 シャリテは、それを受け取った。しかし紙には一瞬しか目を落とさず、すぐにアレスに非難じみた視線を向けた。


 重い沈黙が腰を下ろす。漂う埃さえ、息を潜めているように感じられた。


「はあ」

 沈黙を埋めるように、シャリテは大きなため息をついた。

「アレス。これはいったいどういうことだって、お前は聞いたわね?」


「ええ」


「書いてあるとおりよ。まあ、お前は文字が読めないから分からないでしょうけどね」


 シャリテは、紙切れをぽいっと放り投げた。紙切れはひらひらと床に舞い降り、そこに記されている内容を世界に公開する。


 その紙切れは指名手配書だった。

 そして、人相書きの顔は、どう見てもシャリテだった。


「文字が読めないお前の代わりに、重要な部分を私が読んであげるわ」

 シャリテは笑いを含んで言った。

「『罪状――大量殺人、誘拐、人身売買』『情報欄――組織のリーダーと思われる。シャリテという名前で呼ばれていた』」


 アレスは眩暈を覚えた。

 もう、何が本当で何が嘘か分からなくなってしまった。まるで世界が逆立ちしたようだった。


「……大量殺人、誘拐、人身売買。それは、本当なのですか?」


「ぜんぶ嘘、でっち上げ、私は無実。そう言ったらお前は信じるかしら? 時間をかければ信じ込ませることはできるでしょうね。でも今はそんな暇はない。だから真実を教えてあげるわ」


「……」


「この手配書に書いてあることは、全て真実よ」

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