光明騎士団
ディカイオに取り次いでもらい、事情を話すと、ヘルメスとの面会を許可してくれた。
午後、ディカイオの公務が一区切りしたところで、廃植物館に馬車で連れていってもらった。ニケも冷やかしで同伴した。廃植物館の中で、四人はヘルメスと向き合う。
「ヘルメスさん。ひとつ聞きたいことがあるんです」
アレスはさっそく本題を切り出した。自律式アーカイブ相手だと、天気の話やら最近の体調やらといった社交辞令的な世話話をする必要がないので助かる。
「これなのですが」
アレスは、右足のブーツと靴下を脱いで、踵を見せた。その際、プシュケがふざけて鼻をつまんで片手をひらひらさせるジェスチャーをしたので、とりあえず拳骨を食らわせておいた。
「刺青のようですね」
ヘルメスは言った。
「ええ、刺青です」
「これさ、この前見せた、あたしの背中の痣と同じ形に見えないか?」とプシュケ。
プシュケの背中の痣。かつて〈星の痣〉と呼ばれていたという、ぴかりと輝く星のような形の痣。
「『同じ』の定義によりますが、酷似していることには間違いありません。アレスさんの踵の刺青は、〈星の痣〉の形を模したものだと推測できます」
アレスの踵の刺青が、〈星の痣〉を模したもの。果たして、それの意味するところは……?
「なあヘルメス。〈イリニア朝〉の時代にさ、体のどこかに刺青を施す文化はなかったか?」
「ありました」
プシュケの問いに、ヘルメスは即答する。
「おもにイリニアの王家に仕える騎士団のあいだで流行していました。主人への忠誠の証として、体に刺青を施したのです」
「その騎士団の中で、〈星の痣〉を模した刺青をしている人はいなかったか?」
「大勢いました。なぜなら〈星の痣〉の形は〈イリニア朝〉の国章になっていたからです」
〈星の痣〉が、イリニアの国章……?
「女系のイリニアの血族の体には必ず〈星の痣〉があらわれます。ゆえに、そのマークは〈イリニア朝〉の象徴でした。その象徴をもとに、国章はデザインされたのです」
すると、アレスの踵には、遥か昔に亡びたはずの王朝の国章が刺青されていることになる。いったいなぜ……?
「かつて、イリニア王家直属の騎士団が存在しました。その名を、〈光明騎士団〉といいます。選ばれし精鋭のみで構成された、最強の騎士団です。メンバーは全員女性でした」
「話が見えてきたきたきたっ!」
プシュケは頬を紅潮させて叫んだ。
「なあ、ヘルメス。光明騎士団の騎士には、子供にも刺青をする文化があった。違う?」
「正しいです。光明騎士団の騎士は我が子の体に、国章――つまり〈星の痣〉の形――の刺青を忠誠の証として施す例が多々ありました」
「もしかしてさ!」
プシュケは、アレスの腰のベルトから〈太陽の剣〉を勝手に鞘ごと引き抜いて、ヘルメスに見せた。
「この剣に、見覚えはないか?」
「あります」
ヘルメスは相変わらず抑揚を欠いた声でさらっと答えた。
「それは、光明騎士団に支給されていた剣と思われます。〈太陽の剣〉と呼ばれていました」
アレスは驚きのあまり、むしろ無表情になってしまった。千年前に光明騎士団が使用していた剣が今自分の手元にあり、さらに奇しくも自分の独断での命名と正式名称がドンピシャだったのだ。驚くなと言うほうが無理がある。
「プシュケ様が情報を整理するぜ!」
プシュケは目と目の間を揉みながら、少し考える仕草を見せた。
「結論。アレスは、光明騎士団の末裔だった。そういうことだな?」
「光明騎士団は、〈太陽の剣〉を代々、子へと受け継ぐという不文律がありました。ですので、アレスさんの手元に〈太陽の剣〉があるという事実は、アレスさんが光明騎士団の末裔である可能性を高めるものになります」
プシュケは少し時間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。
「光明騎士団の騎士だったアレスのご先祖様は、〈イリニア朝〉が滅亡した後も祖国に忠誠を誓い続けていた。だから子供にイリニアの国章の刺青を施して、〈太陽の剣〉を継承した。そのルールが脈々と受け継がれて、今のアレスに至っている……。これが、あたしの想像なんだけど、どう?」
「確かなことは言えませんが」
ヘルメスは答えた。
「プシュケさんが語った仮説には、少なくとも矛盾はないと思われます」
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