血族
一階で待機していたアレスとディカイオを、ニケが呼びにきた。
「もう来ていいよ!」
ニケの声はやけに上ずっていた。顔は紅潮し、興奮しているように見える。まさかプシュケの裸を見て興奮しているわけではないだろうから、ヘルメスに痣を見せたことで何か進展があったのだろう。
アレスとディカイオが二階に戻ると、プシュケが呆然と立ち尽くしていた。
「どうだった?」
ディカイオが誰にともなく尋ねた。
「すごいんよ!」とニケが叫んだ。「プシュケちゃんの痣、本物のイリニアの血族の『印』っぽいんだって!」
そんな馬鹿な……。
アレスは口をあんぐりと開け、愕然と立ち尽くす。
「ほ、ほんとに……」 プシュケはぷるぷると身震いし、「あたしはお姫様だったのかー!」と声高らかに叫んで、天井に向かって拳を突き上げた。
「しかし!」
アレスは異議を唱える。
「この場でプシュケがイリニアの血族だと決めつけるのは早計ではありませんか? 先ほどヘルメスさんも、判別の精度は80%だと言っていましたし」
自分で言っておいて、アレスは80%という数字の強大さに驚いた。それってもう、ある意味では100%と同義なのではないかとすら思えてしまう。
「むー!」
プシュケは頬を膨らませ、アレスの腹をどすどす殴る。
「あたしがお姫様だとなんか都合悪いのかてめー! やんのかコラァ!」
「100%の確信を得る方法もあるよ」
ディカイオは言った。
「え、どうやるの!?」
プシュケが食いつく。
「記憶だよ」
「記憶ぅ?」
「プシュケちゃんが本当にイリニアの血族なら、その魂には〈イリニア朝〉のご先祖様の記憶が刻み込まれている。もちろん過去に遡るにつれて魂の記憶は薄まっていくけれど、千年程度の過去の記憶ならかなり鮮明に残っている可能性が高い」
「な~る!」
プシュケは手をぽんと打った。
「あたしがもし、〈イリニア朝〉の時代を生きていたご先祖様の記憶を思い出すことができれば、あたしがイリニアの血族なのは確定ってわけだな! あたしがんばって思い出す!」
べつにプシュケが記憶を思い出したところで意味はないだろうと、アレスは冷めた気持ちになった。すでに王朝は滅んでいるのだから、プシュケが正当な血族であることを証明できたところで、とくにメリットはないのだし。
とはいえ、ディカイオのように知的好奇心旺盛な人間からしてみれば、プシュケの存在は神秘とロマンで磨き上げられた金塊に見えるのだろう。
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