断章「プシュケの日記」

ミネルウェン 十三日目


 グールマン事件は解決した。犯人は憲兵だった。自分で推理したことではあるけどさ、本当にそうだったと知った時はビックリした。


 アレスとニケが西門へ向かっているあいだ、あたしはアリシャと一緒にディカイオの所へ走ってた。そんで事情を知らせると、ディカイオは一目散に城を飛び出してった。


 あたしが西門に到着した時には、もうぜんぶ終わってた。グールマンの正体だったアステルは斬首されて、その首を憲兵たちが回収してる真っ最中だった……。


 さて、謎は依然として残ったままだ。いったいなぜ、アステルは〈希望の家〉の子供を誘拐したのか? 謎だ、謎です、謎過ぎる。知りたい。あたしはその真相を知りたい。好奇心がびんびんになってる。

 アレスの話から考えると、奴隷商人相手に小遣い稼ぎをしていた、という説が有力なんだよね。でもさ、どうもしっくりこないんだよなあ……。なんかさ、他に目的があったような気がしてならねぇーんだよ。


 もう一つの謎は、共犯のアンドレイについてだ。彼はどうして、〈希望の家〉の友達をグールマンに売っていたのか? 

 売った、と書いたけど、これは言葉の綾だ(賢いあたしは言葉の綾だって使えるんだぜ!)。アンドレイは、アステルから報酬の類は一切受け取ってなかったようなんだ。謎。


 アンドレイは憲兵に連行されてった。彼は取り乱すこともなく、至って冷静に見えたよ。

 たださ、彼は去り際に、アリシャに向かって、こう言い放ったんだ。

「アリシャ。ソピアの次は君の番だった。残念だよ」


 ともあれ、グールマン事件の真相は、アンドレイの取り調べを進めるうちにクリアになっていくだろうさ。あたしはディカイオに「取り調べをあたしにやらせてほしい」って頼んだんだけど、だめって言われた。けちー!

 

 ソピアは怪我してるけど、命に別状はないっぽい。不幸中の幸い。ほんとよかった。ただ心配なのはソピアの心だ。今回の事件で、彼女の心には深い傷ができたはずだから……。

 

 おっと、もう夕食会の時間じゃん! アレスが「お腹減りました」とか言ってるし、この辺でペンを置くことにするぜ。

 ったく、あんな悲惨な場面を目撃した後だってのに、もうご飯のことを考えてるアレス。呆れるというか、むしろ感心しちゃうぜ。

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