犯人は・・・?

 ディカイオが執務を終えて、二人の側近とともに城の食堂に現れた。アレスたちはすでにテーブルについていた。


「遅れて申し訳ない。本日到着予定だった貿易商のキャラバンがスカベンジャーの襲撃を受け、立ち往生しているらしくてね、その対応に追われていた。物資がしばらく届かないことが予想されるから、施設への配分を再考する必要があってね」


 ディカイオがぐったりと疲れた様子で席につくと、夕食会はスタートした。


  給仕が最初の料理を運んできた。そら豆のポタージュと、くるみパンだ。数日前もアレスたちは夕食会に参加したが、その時の料理も別段豪華なものではなかった。ニケはそのことについて「この食糧難の時代、僕たちだけが贅沢するわけにはいかないから」と言っていたっけ。


「お父様」

 食事に手をつける前に、ニケが言った。

「また〈希望の家〉の子供が、一人行方不明になってしまったみたいなんよ」


「……それは、本当かい?」

 ディカイオはスプーンを宙でぴたりと止めて、眉をひそめた。


「うん。アリシャが教えてくれたんよ。消えたのは、エピオらしい……」

 ニケは、アリシャから聞いた話をディカイオに説明した。


「……これで、三人目か」


「うん。手遅れになる前に、捜索隊を出すべきだと思うんよ」


「そうするべきだろうね。以前の二人の時は、捜索隊を出すのが遅すぎた」


 ディカイオは、壁際で待機していた側近を手招きし、小声で指示を出す。側近は「かしこまりました」と言い残し、食堂を出て行った。


 ディカイオはニケに向き直ると、「すぐに捜索隊が出る」と言った。


「ありがとう、お父様」


 ディカイオは小さく頷いて口元に笑みを浮かべるが、それはすぐに消えてしまう。

「またもや行方不明者を出してしまうとは……。これも偏に、私の責任だ……」


「そんな。お父様は、〈希望の家〉に憲兵を配置して、防犯用の塀だって職人さんを総動員して大急ぎで作らせたじゃない。できることはやったよ」


 アレスは理解した。〈希望の家〉がレンガ塀で囲まれていたのは、そこの子供たちを、誘拐犯から守るためだったのだ。


 ちらりとプシュケの様子をうかがうと、彼女は表情を曇らせていた。今朝、〈希望の家〉がレンガ塀に囲まれているのを非難したことを後悔しているのだろう。


「ああ。〈希望の家〉の防御は堅い。誰にも気づかれずに侵入し、子供を捕まえて、気づかれずに立ち去るなど、不可能なはずだ」


 そのとおりだ。〈希望の家〉を囲んでいた塀は、大人でも手が届かない高さだった。塀の出入り口は一ヵ所のみで、そこは憲兵が見張っている。


「エピオ以前の二人もさ、最後に目撃されたのは〈希望の家〉の内部なのか?」

 真剣な表情で、プシュケが尋ねた。


「そのとおりだよ。今回のエピオくんと同様、夜から朝方にかけての時間帯に〈希望の家〉から煙のように消えてしまったのだ」


「やっぱし噂のグールマンの仕業なのか?」


「なんとも言えないね。グールマンは、あくまで噂話でしかない。とはいえ、火のないところに煙は立たない。奴隷商人やスカベンジャーの仕業という可能性も考えられる。悲しい話だが、世の中では平然と、子供が売り買いされている。出生率がずば抜けて高い我が〈減らない国〉は、連中にとっては恰好の餌場だろう」

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