第4話
もうつい最近のこと、中学生の時の話だ。
隣のコートでは女子がバレーボールをしているので、男子たちは皆いいところを見せたがって必死だった。
急に僕に向けて、野球部のやつから猛烈な勢いのパスが飛んできた。
僕はそのボールを受け止めようとして、間に合わず、顔面に当たって鼻血を出した。
ピピーッ と笛がなって試合が中断する。
僕が鼻を押さえて床の方を向いていると、頭の上から先生の声が聞こえた。
「保健室行って来い。保健委員は?」
他の男子が「今日は風邪で休んでます」と答えてくれる。
先生が「じゃあ徳田、お前ついて行ってやれ」と他の男子を指名し終わる前に
「私、保健委員です」
隣のコートから声が聞こえて、シューズの足音が近づいてきた。
ゆーちゃんだ。
そういえば保健委員だったっけか。
いくら保健委員とはいえ、隣のコートから来た女子の存在に皆驚いている。
とにかく辺りが血で汚れそうだったので、僕は他の女子が気を使って渡してくれたティッシュで鼻を抑えながらゆうちゃんと保健室に行った。
幸い、ついたころには出血はもうほとんど収まっていた。
保健室の椅子に座って、先生に綿で栓をしてもらうと「どんくさいなぁ」と隣からゆーちゃんが言った。
僕は苦笑いを返す。
中学校に入ってからはなかなかゆーちゃんと話をするなんてこともなかったし、もちろん”ゆーちゃん”なんて呼ぶことはおろか苗字で名前を言ったのもいつ以来だろうという感じだ。
「あんな球、受けずに避けたらよかったのに」
「だって、後ろが女子のコートだったろ。区切りのネットもなかったし、危ないかもしれないなーって」
あのコースだったら、もしかしたらゆーちゃんにだって直撃していたかもしれなかった。
「皆、あんたみたいにどんくさくないって」
「いやー、ははは、今考えりゃそうだよね。バカだなー僕って」
「ほんとにね」
呆れていうゆーちゃんは、しかしどこか嬉しそうでもあった。
あばばばばばば
バッファローが光のスクリーンに突っ込もうとした時、僕は無意識に角をぎゅっと引っ張った。
「なんだ?」
「これ、壊しちゃうの?」
「壊す」
「どうして?」
「全てを破壊しながら突き進むのが我々だからだ」
「いやでもそれはちょっと、ね。今日はここら辺にしときましょうよ」
「だめだ」
「だって、今思えば、ゆーちゃんってあの、おしっこ漏らしちゃった時も先生を呼びに行ってくれたし、国語ですごい間違えしたときも1人だけ笑わないでおいてくれたし、音楽会でころんだ時もすぐに心配してくれていたし……」
「破壊しないのか?」
「えーっと、はい。やっぱりやめにします」
バッファローは鼻から息をブシューっと吐いた。
「つまらん」
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