第3話

 僕の恥ずかしい思い出を破壊した光速のバッファローはそのままのスピードで走り続ける。


 また光のスクリーンが出てきた。

 今度は小学生ぐらいの僕の姿が映る。


 学校の教室で、国語の授業中のようだ。

「質問はありませんか?」

 先生に尋ねられて手を上げて頑張って発表しようとしている自分の姿が映る。


 あ、当てられたぞ。がんばれ昔の僕。


「はい、お母さ……あ、先生だった」


 教室中の皆が笑った。


 先生は笑い声が少し収まるのを待ってから「はーい、皆、笑っちゃいけませんよ。質問があるのよね。どうぞ」と僕に振った。


 顔が真っ赤になったまま、昔の僕は質問をする。

「えっと、この木はなんでモチモチの木って言うんですか?」

「いい質問ですね。それは教科書の中をよく読むと書いてありますよ。123ページの前から3行目を読んでみてください」

 先生は昔の僕に教科書の中の一文を音読するように言った。


 言われるままに教科書を持って顔を隠すようにして音読を始める。


「えーっと、秋になると茶色いピカピカ光った実をおっぱい……あ、いっぱい、振り落としてくれる……」


 一瞬しんと教室が静まる。


「え、おっぱい?」

 隣のちょっとやんちゃな奴が沈黙をやぶる。

 僕の読み間違いにクラス中が爆笑だった。


 バッファローの背中から見る光のスクリーンの端っこには小学生になったゆーちゃんが、しらけた顔をして座っているのが映っていた。


 あばばばばばばば

 バッファローはまたスクリーンをぶち抜いた。


 おいなんだこれ、なんでこんな過去の恥ずかしい記憶ばっかり出てくるんだよ。

 って、僕の夢だから当たり前なのか。


 その後も、音楽会で足台から足を踏み出して転んだ思い出や、運動会でお母さんに手を振ったと思ったら全然違う人だったという小っ恥ずかしい思い出が次々スクリーンに映されてはバッファローの角で粉砕されていった。


「こんな恥ずかしい記憶、消えたほうがいいだろう?」

 僕の下でバッファローが言った。


 なんて気の利くバッファローだ。

「それは、その。ごもっともです」

 でも記憶が消えるのってなんだか怖いな。

 

 そんなことを考えていると次に光に映し出されたのは、体育の授業でバスケットボールをしていた僕だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る