第2話
僕はソファの上からバッファローの背中に飛びのって角を掴んだ。
「母さーん! ちょっと出かけてくるー」
料理をしている母さんが振り向いた。
ヘタクソな鼻歌が止まった。
「行ってらっしゃい。今夜のおかずはバッファローチキンだから、すぐに帰ってきなさいね」
母さんが微笑んだかと思うと、辺りから急に音が消えた。
バッファローが前足を高く揚げた。
身体がぐわんっと加速する。
僕は振り落とされないようにモジャモジャしたバッファローの頭に生えている角をしっかりと握った。
バッファローは走り出した。
ソファーが真っ二つに割れたかと思うと母さんが立っている横のコンロが全て吹き飛び、壁に穴を開けて外に出ていた。
こりゃアクションゲームの世界みたいだな。
僕はこれ以上ないほど俯瞰的にそんなことを考えた。
バッファローは家の前の道に立つと「ブモモモモォ!!」と鳴いて、再びすぐに走り出した。
どんどんと走るスピードが増していく。
するとさっきの鳴き声に呼応するかのようにどこか遠くから「「ブモモォー!!」」という合唱のような鳴き声がし、気づけば疾走する僕とバッファローの後ろには数え切れないぐらいの黒いバッファローの影が並んでいた。
ズドドドドド……と足音が幾重にも重なって聞こえる。
僕の乗っているバッファローを先頭にした群れは、道端の自動販売機をスクラップにし、スーパーの青果コーナーを壁ごと突っ切った。
僕はたまたま口いっぱいに飛び込んできたイチゴを咀嚼した。
「うんめー! 夢ってサイコー! だーははは!! いけいけー!」
駐車場にある車を軒並み全て破壊し、駅の改札機を吹き飛ばし、新幹線を追い抜き、音速を超え、第一宇宙速度を超え、ついにバッファローたちは光速を超えた。
光を追い越してしまうために、周りに何も見えない真っ黒な闇の空間を疾走していた。
いやー、なんでもありすぎだろ、僕の夢。
爆走していると、遠くの方でばんわりとした光のようなものが見えた。
その光は大きくなっていき、人影が映った。まるで映画のスクリーンだ。
それは、小さい頃のゆーちゃんだった。
保育園からの幼馴染みで、映っているのは4歳ぐらいの姿だろうか。
こちらを向いて微笑んでいる。
僕はゆーちゃんのことが好きだった。
まだ恋愛感情とか感じたこともない年齢だったけど。とにかく好きだった。
光の中に幼い頃の僕の姿が映った。
ゆーちゃんと一緒に砂場で遊んでいる。
「僕、ゆーちゃん好き!」
「わたしも好きだよー」
ありゃま、こりゃ相思相愛だ。
微笑ましい2人の姿を見ていて僕は思い出した。
そういえばこの時、ゆーちゃんと砂遊びをするのが楽しくて、おしっこを我慢しながら遊んでて漏らしちゃったんだった。
「あー、おしっこもらしてる!」
ゆーちゃんの声が聞こえる。
あばばばばばば
疾走するバッファローは、泣きそうな顔の幼い僕を映す光のスクリーンを粉々に破壊した。
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