第二章 エロを以て、エロを制す

【部活動】

 それは、学校に通う学生や生徒が、健康で文化的な学校生活を送るために、早朝や放課後に集団で自発的に行う活動を指す言葉である。

 ただし、大抵の場合、部活動への参入や、どの部活に所属するかは生徒個人の意思に委ねられる。

 生徒が部活動へ入部する動機は千差万別、集団での活動が好き、体を動かしたい、青春を謳歌したい、はたまた、どこか部活動に参加しなければどこかの誰かに顔が立たないなどと言った理由から参加する輩もいるが、そのいずれも不純な動機とは思わない。

 『人はサイコロと同じで、自らを人生へと投げ込む』 とどこかのお偉いさんが言った。

 部活動もまた、自らの身を投じる場の一つに過ぎないのだ。



 春の麗らかな陽気に包まれた放課後の教室には、グラウンドを汗水垂らしながら縦横無尽に駆け回る運動部の掛け声と、吹奏楽部のクラリネットやらトランペットやらが混ざり合った不協和音が飛び込んでくる。

 既に誰もいなくなった教室は思いのほか賑やかで、反対にそれが、帰宅部の生徒に対する部活動所属の生徒たちの、早急に下校を促す罵声のように聞こえてしまうのが、陰に寄った私どもの思考回路の欠陥部分。

 と、私がなぜ放課後に教室に残っているのかと問われれば、あの猫とプレハブ小屋の存在が気になったからだ。

 私は、周囲に運動部の生徒や教職員がいないことを、念のために確認したところで、プレハブ小屋へと向かった。

 連なるプレハブ山脈の麓、つまりもっとも北門に近い一室のドアノブをノックする。

「すみませーん、誰かいませんかー?」

「はーい」

 声がしたのは隣の小屋だ。

 キコ―と油切れのドアが出す金属の擦れる音とともに姿を現したのは、なんと私の唯一の友人である香澄だった。

「誰かと思えば太宰先生、ようこそ文芸部へ」

 彼女の腕には、朝連れてきた子猫がいる。

「香澄!?どうしてここに…」

「先生こそ、どうしてこんなところへ?」

「いや、猫の様子が気になって…」

「ああ、彼は先生が連れてきたのですね」

 この猫オスだったんだ、知らなんだ。…そうではない

「今香澄、文芸部って言ったわよね」

「ええ、もしかして、入部希望ですか?」

「いや、というか、文芸部なんて存在しないんじゃ…」

「? はて、ここにはしっかり部室の名前が刻まれたプレートが存在しますよ?」

 そう言って、香澄が取り出した木目だらけの古い木の板には、はがれて霞んでしまっている箇所こそあるものの、確かにしっかり『文部』と黒い文字で書かれていた。

「ここに部室表が存在しているのですから、文芸部が存在しないはずかありません」

 それはどうも、部の存在を示す証拠といたすには客観性に欠けていると思うのですよ香澄さん。

 とにかく、帰宅部であるはずの香澄が下校する光景を未だかつて見たことがない理由がようやく解明された。

 彼女は光の速さで帰っていたのではない、光の速さでこのプレハブ小屋に来ていたのだ。

「来たか戯け、お主のせいで朝から体のあちこちが痛いわ」

 香澄の脇腹から体をよじるようにして出てきたのは、今朝、ともに猫を連れてきた女子生徒だった。

「彼女は我が部員の一にして、アマチュア漫画家のさのさくら先生です」

 香澄の豊胸に締め付けられて、抜け出そうとする小柄な彼女のもがく足をよく見てみると、彼女の上履きの色が私たちの学年のそれとは違う。

 彼女はぴかぴかの一年生か‥‥

「立ち話もなんですし、どうぞ中へ…」

 ちょっと待てと私の脳が五臓六腑に緊急停止命令を下す。

「えーっと、いま、なんて?」

「立ち話もなんですし「その前」

「そしてこの子が新たな部員のリゼルくんです。にゃーん」

 そんなこと言ってたんだ。

「お名前決まってよかったでちゅねー…じゃなくてその前!」

「えーっと、ああ、彼女は我が部員の一にして、アマチュア漫画家のさのさくら先生です」

 私の聞き間違いかと疑ってしまった。

「さのさくらって、あのさのさくら?」

「そうです。あのさのさくらです」

「…中学生なの?!」

「ええ、あの艶めかしく生々しい性描写を得意とするさのさくら先生とはまさしく彼女の事ですよ太宰先生」

 王道からマニアックまで、ありとあらゆるジャンルに精通しており、大胆かつ繊細な性描写で夜の街を桃色に染め上げているあのさのさくら先生が、私たちより年下なはずがない!

「そんなに驚きかのうこの幼気いたいけな小娘!まさか、あの大人でも公の場で見せられた途端裸足で逃げ出してしまいそうな特級呪物をこのロリっが描いているとは思わなんだろ。まあ、我が渾身の作の数々にこの歳にして行き着くとは、お主はなかなかハードなむっつりとお見受けしたが…」

「先生!その…いつもお世話になっています。これからもよろしくお願いします!」

 私は日頃の感謝を最大限込めて、深々と頭を下げさせていただいた。

 彼女はそんな私の姿を見て、小さい胸を大きく広げてさらに鼻を高くしている。天の川にでも打ち付けられそうな勢いで。

「そうかそうか、我はそれを聞けて大変満足だ。この学校にはこやつを見せた途端、裸足どころか裸で「ヘウレーカ」などと叫んで廊下へ飛び出すような初心うぶな男どもしかおらんから退屈じゃった。初心が許されるのは小学生までじゃ。まあ、せいぜい我の創作の種にしてくれようぞおほほ~」

 彼女は天に飛んでいってしまいそうな勢いで舞い上がり、部室の中に入ると無表情で机に向かっていた。

 内なる感情を表に出さないのは彼女の魅力の一つかもしれないが、言動と表情がこうも乖離していると、異質なものが組み合わさった時に、脳の処理が及ばず不気味だと感じてしまうあの現象に似通った気味の悪さを感じてしまう。

 だがしかし、そんなもので私の彼女に対する尊敬と感謝の念を止めることはできない。

「では、ここにサインを」

「はい」

 と私はそのままの流れで香澄の差し出す紙にペンを走らせる寸前で、彼女が差し出す紙の意味を確かめる。

「って、ちょっとこれ入部届じゃない!」

「楽しいですよ、部活動」

「や、まだ活動内容も知らないし、第一こんな半校則違反的部活動もどきの非正規入部届にどのような拘束力があるというの?」

「わかっておりませんね太宰先生、形式的な浪漫というものですよ」

「違則性について言及する気はないと」

 とは言いつつも、この部活動が何らかのお咎めを受けた時に私の名前が残っていては大変困るので、籍を入れるのは控える旨を彼女に説明した。

「それじゃあ、ご案内します。改めて、こちらが文芸部です」

 朝に訪れた隣の物置部屋のような混沌とした部屋ではなく、こちらはかなりすっきりとした部屋だった。

 二台並んだ長机、二つ余ったパイプ椅子、部屋の大きさに対して十分な大きさのすりガラスの窓にはカーテンがかかり、部屋の隅には本がびっしりとつまった、某大手家具店の三段の本棚が二台、壁に沿って並んでいる。

「それでは、ここで部員をご紹介いたします。まずは私、小野香澄です。このサークルの部長をしています。それから彼女が副部長の西田小百合にしださゆりです。ぴかぴかの一年生です。それからあちらの女性が実質顧問兼この部室棟の事実上の管理人、桜井真澄さくらいますみ。御用の際はお隣の物置を尋ねてみてください。そして彼女とじゃれ合っているのがアメリカンショートヘアのリゼル君」

 と、香澄が一人一人の自己紹介を丁寧に行っている中、部員と管理人はそっちのけで、片やイラストの下絵を描き、片やその辺に生えていた天然ねこじゃらしで子猫と遊んでいる。

 そんな部員の自由行動を咎めるわけでもなく、香澄は部活動案内を続ける。

「こちらの本棚ですが、歴代部員が書き残してこられた自分たちの物語集、および自費出版の文芸誌です。昔は新聞部も兼ねていたようで」

 彼女が本棚から引き抜いた一冊の書物の表紙には、『改創』というタイトルと共に、夏目漱石の肖像画が描かれていた。

「ちなみにこの雑誌、校内の文化祭で配布されていたそうですが、50年前に内容の一部が校長への尊厳冒涜に当たるとして、当時の校長から発禁処分を受けています」

 『校長、脱税か!?』、当時ではまだ庶民には届かないような高級品であったカツラをおよそ三種類確認していると、この記事では伝えている。主にそのカツラの資金源は何処よりといったかなり不確実な憶測に傾倒した記事ではあったが、当時の校長からしてみれば、脱税云々よりズラであることが暴露されたことの方に触ったらしい。

 だから髪の話はやめろとあれほど。

「それで、今はどのような活動をしているわけ?」

 彼女は机の上に山積みにされた本の一番上を手に取る。

 そこには、タイトルが同じ『改創』と書かれた雑誌があった。

「これを私たちの手で自主制作していますよ」

「でも、さっき発禁云々と言って…」

「だから、”部活動”するわけですよ」


 他の教室とは明らかに造りが異なる、入り口の扉から作業机に至るまで重厚な装飾が施され、数多のトロフィーと肖像画が壁の片側一面に並べられた落ち着きのない部屋に、私と香澄と、さの先生と、目の前にそろそろ頭頂部が怪しくなってきた比較的若い校長が立っていた。

「校長、今月の活動計画書の提出です」

 香澄は校長へ、片側がチキスで何枚かに束ねられた紙の束を突き出すと、校長は一応は受け取ったものの、直ぐに香澄につき返した。

「ダメだ」

 折角提出した計画書は、次の瞬間には無惨にも香澄の手元に返された。

「なぜです!今回は予算の内訳を具体的に示しました。顧問なら桜井先生にお願いすることで話はついています。他に何か書類上の不備でもございましたか?」

「この部員のリゼル君ってのがわからんが、書類上は特に問題が無さそうに見える」

 校長は、何とも曖昧な返答を返した。

「あるように見える?どういうことですか?」

「そのことはおいおい説明するとして、一番問題があるのは、貴方の隣にいる彼女の事だ」

「彼女とは、太宰先生…失礼、原当麻さんの事でしょうか」

「違う、その隣のちんまいのだ」

 校長が指をさしたのは、香澄を跨いで私の左隣にいる、さのさくら先生だ。

「これに見覚えがあるかね」

 校長は、一冊の薄い雑誌のような物を机の中から取り出す。

 そして、さくら先生の前に突き出すと、さくら先生は目を今にも飛び出そうなほど大きく見開き、そのまま指の先まで石膏を塗りたくったかのように固まって、動かなくなってしまった。

 私は、校長が差し出した雑誌をよく観察する。

 するとなんという事でしょう、私が雑誌だと思っていたそれは、去年晴海で配布された、さのさくら先生による同人誌ではありませんか。

 それに気が付いた瞬間、私は激しい目眩息切れ動悸に襲われた。

「これは先日、木更津駅の改札を出てすぐのエレベータの横に、スズランテープで束ねられて捨てられていた青年雑誌を市の職員が”たまたま”発見しまして、”一応念には念を重ねて”と中を開けて”調査”したところ、その中に混入していたものだ。これらの雑誌はすぐさま県の条例に基づき、有害図書に指定されたが、この雑誌については出版元がどこだかわからなかった。教育委員会はこの雑誌の著者、『さのさくら』について調査したところ、西田小百合、貴方の元いた小学校名が浮上した」

 さくら先生は、直立したまま、口から泡を吹いて悶絶している。

「ああ、我が同人誌が、魂の結晶が、我が故郷で有害指定図書に…」

「例えそうであったとしても、本部活の活動には関係ないはずです」

 香澄は、今にも倒れそうなほどふらふらの友人と既に息絶えた部員を背に、まだ交渉を続けるそうだ。

 なんという粘り強さ。

「ここで書類上の問題点、というより気がかりな点を言うが、この同人即売会とやら、『即売会で配布する同人誌の印刷費用』ここにある同人誌とは、いったいどのような内容のものなのかね」

「具体的な内容はまだ決定しておりません。ですが尾崎紅葉らの『我楽多文庫』や『改造』などとおおよそ同じものですよ」

「どうだか、最近では同人誌の意味も大きく異なっているそうではないか」

 確かにその通りだ。

 香澄が例に挙げた『我楽多文庫』などが発刊された当時とは違い、現在では同人誌の形態も多様化してきており、特に近年では既存のゲームなどを題材とした所謂『二次創作系』の同人誌を、そのまま『同人誌』ということもある。

 これから読み取るに、おそらく校長は、これらゲームなどサブカルチャーが学校に及ぼす影響を懸念しているのだろう。

 特に最近、ゲーム愛好家たちが次々と問題を起こし、連日テレビなどで報道されている。

 このようなものに関しては、社会的に非常に敏感な時期だ。

「先生が何をご想像しているかはわかりませんが、いたって普通のものです」

「君たちがいう普通はこれかね」

 校長は再び、さくら先生による江口本魂の秀作を掲げる。

 その瞬間、香澄の身体の中の何かのスイッチが入ったようだった。

 硬く拳を握りしめる彼女、その手から、みちみちと筋肉の筋が切れてゆくような音が微かに聞こえてくる。

 その音が鳴り止んだと同時、彼女はすっと方から力を抜くと、鼻から深呼吸をした。

「わかりました、いいでしょう。私たちが描いた同人誌を先生にお見せします。内容にご納得いただけなかったなら、部活の設立は無しということで、いいですね」

 香澄の言葉を聞き、校長は呆れたように首を左右にゆすった。

「やれやれ、一か月後だ。それまでに内容を伝えるだけでよい。それで判断する」

 その言葉を聞くと、香澄は一歩下がり、「失礼しました」というとそのまま校長室の扉から出て行った。

 私は、校長の冷ややかな視線を直で浴びながら、さくら先生を担ぎ、扉から出て行った。




「なんてことじゃ!どこから我の個人情報が漏れた!?匿名性の高いあのアカウントで…昔のブログは消したはずよね。そうだよね、あれが原因じゃないよね!?」

 狭い部室の中で、さくら先生は壊れたからくり人形のように、あっち行ったりこっち行ったりウロウロしていた。

「はーい、ごろーん」「にゃ~」

 桜井先生は、リゼル君とねこじゃらしで遊んでいる。

「それでは、第一回、文芸部定例会議を開始いたします」

 そして、香澄はホワイトボードの前で、不特定多数に向かい何やら話している。

「意見があればその都度挙手を」

「はい!」

「はいどうぞ、太宰先生」

「帰ってもいいですか?」

「ダメです」

 文芸部の愉快な仲間たちの仲間の一員にとうとうなってしまった私は、このいかれ狂った部活動の集団意思に、個人の意思を制限されねばならなくなってしまった。不思議なことに、それは苦に感じるかと問われれば、首を縦に振ることはできなかった。これまであまり人と接する機会がなかった人間である私は、所属する社会的集団が鮮少であることからその経験不足が祟って、私を包括する周囲の環境において、およそ目的とは切り離された規制により、自身の行動の範囲が制限されるようなことを人より嫌う節があった。

 これまでの環境に比べて、この団体が示す行動は一応は目的と対応し合理性に富み、更に彼女らの掲げる、無意味な規制と規則の排除といったスローガンは、大いに賛同できるものであった。

 第一、この中学校の最高責任者から、あんなことを言われたあとである。彼女の作品が、あのような場所に晒されて、私だっていてもたってもいられない気持ちである。世の中を締め付ける権力とやらに徹底抗戦しようではないか、といった反抗精神が瞳の奥でメラメラと燃え上がり・・・「目があああああああああああああ!!!」

「あら、ごめんなさい。ポインターの扱いに慣れてなくて」

「一/三分間待ってやる、その間にこの忌々しい光線を制御するのだ!」

 ポインターの光線は、狭い部室内を右往左往し、時折私の顔面スレスレを掠めながら、ようやく落ち着きを取り戻した。

 私が一時的に低下した視力を、瞬きによって回復させている間に、向こう側の準備が整っようだ。

「改めて、ひょんなことから一か月以内に制作しなければならなくなってしまった同人誌の作成について、皆々様から意見を募りたいと思います」

「はい!」

「はいどうぞ、太宰先生」

「無理だと思います」

「ありがとうございます」

 文芸部の活動内容に一定の理解を示しつつ、このような無理難題を事も無げに遂行しようとなさる文芸部の皆様には正気を疑わざるを得ない。

「一か月以内に同人誌を作成することは不可能であるという意見をいただきました。この意見について主義主張趣味嗜好その他諸々がある方はいらっしゃいませんか?」

「エロ!」

 趣味嗜好の方に噛みついてきたのは、言わずもがなさのさくら先生だ。

「どうぞさくら先生。意見があるのでしたら申してください」

「エロエロエロエロエロエロ!E・R・O、エェェェェェェェエロ!」

 やけに宣伝性の高い廃品回収車の音声の如く、同じ単語を繰り返し発しながら殴りかかるような勢いで香澄に詰め寄るさくら先生。しかし香澄は、一切その場から動かず、とうとう互いの距離は鼻の先がくっつく寸前まで縮められた。実際にはさくら先生の方が一回り小さいため、さくら先生がほんの少し背伸びをする形になっている。

「意見がお有りでしたら、はっきりと申していただきたい」

「だ・か・ら、エロで校長を堕とすのじゃ!」

「色仕掛けということですか?あなたが?」

「ちごうわい!てかあなたが?ってなんじゃ!将来性はあると思うんじゃが…ってそうじゃなくて、エロ漫画、官能小説でもいい!エロ路線で締めるんじゃ!」

「エロで湿るですって!?なんて卑猥な…」「よもやツッコむ気も起きん」

 先生の話が散らかり過ぎて話の本質がなかなか見えずらいものとなっているが、つまるところ、彼女はエロ同人誌を仕上げたい、ってことらしい。

「とにかくじゃ!この世の中にエロが必要であること、エロの芸術性をわかっていない輩が多すぎる!青年漫画青年雑誌があるから、我が国の性犯罪率は抑えられておるのに」

「それは幻想ですよさくら先生。漫画雑誌と性犯罪率に相関関係はありません。いくら鈍感で無神経で野蛮な男性とて遅かれ早かれ性の何たるかを知ることになるでしょうし、それに気づかない人間は何があろうと気づかないままです」

 香澄は過去に男に何かされたのだろうか。ちなみにこれはのちの伏線でもなんでもない。

「しかしまあ、さくら先生の言い分も理解できなくはありません。このご時世、何でもかんでも自重自重の世の中で、世の中に溢れる不都合から目を背けることを美徳とする精神が順調に育まれていることに、表現者としては危機をつのらせてばかりです。第一、性的表現というのは文学が伝統的表現としているものの一つであり、江戸川先生の時代から文化の一端を担ってきたことは疑りようもない事実です。ですよね?太宰先生」

「え? ああ、えっと、つまりあれでしょ? エログロナンセンス」

 恥ずかしながら、私もエロを人の目から隠すべきものとしか認識しておりませんでしたはい。

「とにかくです!文学的作品を製作し、最高の”濡れ場”を用意し、あの校長を”わからせて”差し上げましょう。いいですね!さのさくら先生、太宰勇先生」

 私がこの時目にした香澄は、外面的には普段の何気ない笑みを見せつつも、内面から何事にも形容しがたいグロテスクな放射体が、体中の毛穴という毛穴から染み出てくるような、何かそういった禍々しいオーラに包まれていた。

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