ゾンビ映画とジョージ・ロメロの遺していった恐怖は今も俺達を襲い続けている

高柳孝吉

ゾンビとロメロとパンクロッカーと。

 ジョージ・A・ロメロ監督。ハリウッドの商業映画主義に迎合する事を嫌ってリチャード・ルービンステインと「ローレルプロ」を設立。数々の怖いお話しを世に問うた。まるで落語協会から脱退し本家立川流を創設したあの孤高の落語家故立川談志師匠を思わせる。まるでパンクロッカーだ。彼の創り出す恐るべき映画群も、その社会への批判精神といい反社会的な映画の態度といい、確かにパンク・ロックそのものではないか。いや、へたなパンク・ロックよりよっぽどロックしている。ーーロメロ氏がパンク・ロックを聴いていたのかは定かではないが。ーー何気にクラシック音楽を目を瞑って聴いていそうな気もする。偉大なホラー映画作家であるロメロが。


 今となっては伝説のカルト映画との呼び声も高い記念すべき第一回監督作品「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」。発表当初はさしたる反響も無かったが、それから半世紀余りを経た今、かなりのスポットライトを浴びている。みんな、その映画の存在を知ってはいたが、その恐るべき内容を噂で聞いて『俺、観たくないよ。』と、避けていたのではなかったのか?「オーメン」に逃げていたのではないか?「死者が理由も無く蘇って人肉を…」「やめてくれーー!!」耳を塞いでも漏れ聞こえて来る恐るべきゾンビの囁きにも近い声、声、声。逃げたが、そこに畳み掛けるように叩きつけて来た「ダウンオブ・ザ・デッド(邦題『ゾンビ』)」。もう逃げられない。


 ジョージ・A・ロメロ監督最後の作品「サバイバル・オブ・ザ・デッド」。最期に傑作を遺してロメロ氏は世を去った。残念ながら?ゾンビの様には蘇ってはくれない。コロナのパンデミック、世界各地の戦争。かつてベトナム戦争、飽食の時代、核の恐怖とその時代、時代を反映してスクリーンにぶつけて来たロメロ監督が今の世に新作を問うたなら、それはどんな映画になるのだろうか?………


 名も無き人が海で釣りをしている。空は晴れ渡って、平和な日だ。ふっと、この世には戦争が起こっているだなんて嘘なんじゃないか?そんな事を想う。だが、海の浅瀬に見えるあれはなんだ?ゆっくりとした動きでこっちに向かって海から上がって来ようとしている。ーーなに、白昼夢さ。仮に。仮に夢でも幻でもなかったとしてってそれがどうしたと言うんだ。俺は、たった今、永遠とも言える今を俺のペースを、誰にも乱される事無くただ、釣りをするだけさ。お?、引っ掛かったか?ちょっと竿を上げてみるか。ーー魚籠の用意は、怠ってはいかんな。いや、逃がしたか。俺は又釣り糸を垂らし、魚が引くのをのんびりと待ち続ける…。


 

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ゾンビ映画とジョージ・ロメロの遺していった恐怖は今も俺達を襲い続けている 高柳孝吉 @1968125takeshi

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