第11話 突然の
スキルブックという存在によって世の中は大きく変わった。
要するに才能が可視化されるようなものだからね。
もちろん、それだけで能力のすべてが決定するわけじゃないんだけど、1つの基準として凄くわかりやすくなった。
まぁ、スキルを取得しただけじゃそんなに変わらないからレベルを上げていく必要はあるけどね。
しかし、世の中には自分の欲しいスキルブックが入手できない人たちだっている。むしろそんな人の方が多い。
というか、ダンジョンに入っていない人たちは自分で手に入れることができないわけだからね。
でも、そうした人たちだってスキルを手に入れたい。そうなるとそれを買うしかない。
そうして、需要と供給のバランスが生まれてスキル屋なんて商売が成り立つことになった。
ちなみに、その辺りの価格に関してはまた真田さんが調整しているらしい。いつもお世話になります。
そうそう、その真田さんから聞いた話だけど、私立の高校がダンジョン探索を授業の一環として採用するかも? とか話が出ているらしい。
まぁ、スキルブックや種なんかを手に入れると能力が上がるからね。そういう意味では有りなのかも? まぁ、そのあたり僕は直接手を出すことはないけど。
多くの人が潜ってくれるようになるならそれはそれでいいかな。
このあたりが最近の日常の変化かな。結構な変化だと思う。でも、ダンジョン内での変化はそれどころじゃない。
今回のスキルブックによってダンジョン内、特にレントバーグの街には大きな変化が訪れた。
その原因は生産職という存在だ。
生産職っていうのは、簡単に言えば、何かを生産する職業。えっ? そのまんまだって?
もっと詳しく説明すると、例えば鍛冶スキルを手に入れた人がいる。その人はその鍛冶スキルを使って武器や防具なんかを作ることができる。
今まではダンジョン内で拾った決まった武器しかなかったけれど、この能力によってオーダーメイドの武器とかが作れるようになった。
その結果どうなったか……簡単に言えば、店を持ちたいっていう人が増えた。前々から店舗を持ちたいって人はいたけど、それがもっと増えた感じだ。まぁ、当然だよね。自分で好き勝手作れるんだもん、専用のお店を持ちたいって気持ちはわかる。
でも、僕もそれを黙って見ていたわけじゃない。
当然、そうなるってのは予測していた。
だから、ある程度需要が溜まった段階で街の土地を公開した。
お金を払って土地を買い、そこに自分の家を持つ。いわゆるハウジング機能ってやつだね。
レントバーグの街は色々なサーバーにあるから、どこどこサーバーのどこどこの土地を入手って感じになる。
ちなみに、サーバーによって同じ土地でも値段が違う。メインサーバーの土地は凄い値段になっているって聞いた。そこに店を持つのが一流の証なんてものになっているらしい。
僕の方はミミの方からざっくりこんな感じってデータを聞くだけ。それ以外の土地の管理はミミやモンスターたちがやっている。その土地のことはそこに住む人達がやったほうがいいからね。っていうのはちょっと言い訳かな?
ともかく、そんな事情もあってレントバーグの街は大きく変わったと言ってもいい。
その分、ミミが凄い忙しそうにしている。元々は象徴だけのはずだったんだけど、やっぱりトップともなると判断が多くなって大変みたいだ。
「トップは飛鳥さまでは?」
いや僕はダンジョンを作るだけのいわば職人なので……
「まぁ、飛鳥さまを助けることが私の仕事ですが……」
ミミがジト目で僕の事を見る。凄い人間っぽい反応するようになったねぇ。
これは良い成長だよね? うん、そう思っておこう。
「そんなわけで、本日の報告になります」
「あ、はい」
ミミがデータを僕に見せてくる。
そこには、各サーバーにおける収益とか人口なんかのデータが書かれている。
「やっぱりメインサーバーがずば抜けてるねぇ」
他と比べて倍……とまでは言わないまでも、それに近いくらいの差が出ている。
「ええ、しかも徐々に離れているようです」
グラフを見ると、確かにメインサーバーだけが右肩上がりしてる。
「都会と地方みたいになってるなぁ」
日本だって東京だけ異常な土地になってるよね。それと似たようなことがダンジョンでも起こっていると……
「飛鳥さま、どうしますか?」
どうしようって……どうしよ?
「そもそも今のところ問題起きてる?」
「ギルドの方から、値段が高すぎると苦情が来たという報告は受けましたがそれ以外は特に」
まぁ、この値段を見ちゃうとねぇ。
「しかし、そういう人ほど無計画なので懇々と説明すると理解していただけているとのことです」
「そ、そっか」
懇々と説明ってのは文字通りそういうことなんだろうなぁ。
そもそも土地の価格に格差ができることはしょうがないし、そこにお店を出そうなんて考えたら初期投資が必要なのは当然。
それができないのなら覚悟や計画性が足りてないってことでしょう。
「よし! それじゃあ、現状維持で! 特に何もしない!」
「了解しました。その方向で進めます」
そもそも、そういう価格差があるってのが広まれば収まる苦情な気がするからね。きっと今だけ。そう思っておこう。
「よし、データ的にはこのくらいかな? ミミの方から何か報告しておくこととかある?」
「いえ、レントバーグの街に関しては大きな問題は特にありません」
街に関しては……か……
「ちなみに、ミミとしてはどう? ギルドマスターとして大丈夫そう?」
「そうですね……多少処理リソースが増えていることはありますが、今のところ支障はないかと」
「そっか、またリソースに負荷がかかりそうなことになったら早めに言ってね」
「了解しました。飛鳥様のダンジョン運営に支障を来さないように早く報告いたします」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて」
いや、今のは僕が悪かったな。
「ミミだって、大事な家族だからね。ミミに負担がかかるのはやっぱり心配なんだよ」
こうして一緒に暮らしてもう一ヶ月以上が経ってるからね。ミミだって立派な仲間、家族だよ。
「そうだなぁ、何か僕にしてほしいこととかないの? もちろんできることは限られているけどさ」
「そうですか……そういうことであれば、1つ要望があるのですが……」
「おっ? 何かある?」
「はい、少し目を瞑っていただけますか?」
「目を瞑る?」
「はい、物理的にです」
悪事に目を瞑るとかじゃなくて、目を閉じろってことね。
「はいはい」
少し予想外のお願いだったけど、話を振ったのは僕の方だしね。大人しく目を瞑った。
そのまま、大人しく待つ。一体ミミは何をするつもりなのか……
「……」
いつまで経っても何もないから、目を開こうとした、その時だった。
「……っ」
唇に柔らかい感触を感じる。慌てて目を開くと、眼の前にはいっぱいにミミの顔があった。
えっ? これ……ひょっとして……
「……!?」
動揺して息ができない。ただ、まっすぐに僕のことを見つめるミミのどこか無機質な目が眼の前にあるのを見るだけ。
それがどのくらい続いたかなんてわからない。
だけど、気がついた時には何事もなかったかのようにミミが離れていた。
「……今のは……」
夢? いや、そんなことはない。
「ミミ?」
そして、ミミがそのままの表情で僕の事を見ている。
何事もなかったみたいに無表情だ。あれ? やっぱり勘違い?
「……すみません、飛鳥様。少々エラーが発生した様子ですので本日はこのあたりで失礼いたします」
ミミは早口でそう言って、頭を下げ、そのまま部屋から出ていった。止める間もなかった。
そうして残された僕は……
「……ミミ」
唇に今も残る熱を指で確かめるのだった。
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