第9話 危険性

「現実で魔法を使えるなんてことになったら大変なことになりますよ」


「うん、凄い便利ではあるんだけどねぇ」


 魔法が使えたら便利なことは間違いない。今の科学文明と対をなすのが魔法文明だ。それが両方そろった日にはきっと最強の文明になるに違いない。

 それはそれで楽しそうだけど……


「絶対に悪用する人が出てきますね。間違いありません」


 里楽さんが断言した。


「飛鳥さんもそれがわかっているから、武器などを外に出さないようにしているんでしょう?」


 そうなんだよね。今でも、基本的にポーションとかの回復系に限定してるのはダンジョンで手に入れたものを悪用する人が出ないようにっていう理由から。

 もしも、武器を持ち出せちゃったりしたら、一般人が銃刀法違反で一発で掴まっちゃうからね。

 このあたり実は真田さんにも相談はしてるんだけど、少なくとも今は無理って結論になってる。だって、そもそも悪用した人を捕まえられるような仕組みになってないんだもの。

 銃刀法違反で捕まえるのは簡単だけど、抵抗された時に凶悪な武器に対して捕まえる側が無力すぎる。平和ってのは平和を守る側が強いから成り立つのであって、悪漢側が強かったらそれはもうただの世紀末なんだよ。


「武器や魔道具みたいに形にあるものですら危険なんです。スキルなんてものを現実に持ち出したら……」


「もしも悪人が凶悪スキルなんて身につけた日には誰にも止められないだろうね」


 武器や魔道具だったら取り上げてしまえばなんとでもなる。でも、スキルの場合はそうはいかない。だってそれは文字通りの個人の能力なんだから。


「少なくとも一般への公開はもう少し公的機関が成長しないと駄目かなぁ」


 実はその辺りも真田さんと相談してるんだけど、あんまり進展がないんだよね。真田さんの私設部隊とかに提供してるみたいに特別ダンジョン作ってもいいとこっちは思ってるんだけど。

 スキル導入にはそれだけの価値があると思っている。これは単純にダンジョン云々の話じゃなくて人類の進化の問題だ。

 これだけはやらないといけないって、僕の中の何かが囁いているんだよね。

 だからなんとしてでも実現したいんだけど……


「飛鳥さんの力でダンジョン限定にするとかは?」


「無理、個人についた能力を引き剥がすには同じような引き剥がすアイテムを使うしかないね」


「ダンジョンから出る時に必ず使うルールに……まぁ、しないですよね……」


「守る人がどれだけいるかわからないし、忘れるってこともあるからね」


「脱法魔術師……響きとしてはロマンがありますが現実になったら洒落にならないですね」


「ロマンで人が死ぬ可能性あるからねぇ」


 それもとんでもなく理不尽な状況で……だ。


「そうなると……今やってることと同じことをやるしかないのでは?」


「というと?」


「非殺傷能力だけに限定するってことです。攻撃魔法や武器の戦闘系スキルは出さないようにしておく」


「戦闘系じゃなくて、例えばサポート系とか生産系だけに限定って感じかな?」


「ああ、サポート系ってこともありましたね。どんなスキルがあるかわかりませんが、イメージとしてはそういう感じです」


 サポート系って言うと、人の能力をアップさせたりとか、変わったものだと歌ってバフがかかるみたいなものまであるよ。


「うん、良かった。里楽さんが僕と同じような考えで」


 結局それしかないよね。事前に僕が考えていたのと里楽さんは全く同じ結論になってた。


「先に考えていたらなら話してくれても良かったのでは?」


「同じ結論にたどり着くってことが重要なんだよ」


 里楽さんはちょっとむっとしていたけど、これも大事な儀式みたいなものだからね。やっぱり僕ってずれてるから他の人だと違う思考になるかも知れないじゃない? まぁ、里楽さんも大抵ずれてるけど。


「うん、でも結論は出たから、そういう感じで進めていこうか」


 さて、ここまでは実は予定調和。問題はここから。


「というわけで、はい。これ」


 僕は里楽さんに一枚の紙を渡す。


「……なんですかこれ……火属性魔法……剣術……」


 里楽さんに渡した紙にはA4用紙いっぱいにとあるリストが並んでいる。


「それはね……僕が作れるスキルブックのリストだよ」


「……リスト……あの……飛鳥さん? ちょっと質問があるんですが……」


 里楽さんが顔を上げてこちらを見る。その額からは汗がにじみ出ているように見える。


「なにかな?」


「……飛鳥さんが作れるスキルブックはこれで全てですか?」


 流石里楽さんだなぁ……


「いーや、その紙に書かれてるのはほんの一部。全部は流石に印刷するだけ無駄だったからね。データはちゃんとソフトにまとめてあるよ」


 だったらなんで、紙で一枚だけ用意したのかって? 様式美ってやつだよ。


「参考までにどのくらいの行数までいったんですか?」


「それはね……このくらい」


 僕はパソコンの画面を里楽さんに向ける。


「……うわ……」


 里楽さんが引いている。うん、僕も引いたよ。

 流石に今のレベルだと追加できないスキルブックとかもあるけど、それを含めないでも軽く200はあるんだもん。


「さて、この中から安全だと思われるスキルを選びましょうか」


 危険なスキルを世の中に出しちゃったらまずいからね。その選別をしないといけない。誰が? もちろん、僕たちがだ。


「……飛鳥さん、ひょっとしてこれの手伝いをさせるために私を巻き込みましたね?」


「なんのことやら、あ、データは別で送るからね」


「……はぁ……わかりました」


 なんだかんだ、手伝ってくれる里楽さんまじで女神。

 いやほんと、今度まじで何かお返しするから。

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