第8話 スキルブック

 レントバーグの街を公開してからそれなりに時間が経った。暦上の季節はすっかり夏を置き去りにして秋へと、でも、まだまだ暑さは残っていて、いい加減涼しくなってもいい頃合いじゃないか? なんて会話が毎日のようにされている。

 まぁ、暑さの話はまたしてもどうでもいいんだ。ダンジョンに入っていたら外の暑さなんて考えなくていいからね。まぁ、僕は入れないんだけど。

 ともかく、そんな理由もあってか、多くの人がレントバーグの街へ入ってきて快適に過ごしている。


 トラブルは思っていたよりも全然少なかった。

 流石に公開してすぐの頃は、NPCのモンスター達を差別したり他の冒険者に噛みついた人たちがいたけど、軒並みイエローカードを出したらほとんどが即座に収まったよ。レッドカードまで至ったのもいたけど、悪質なのは真田さんに報告しておいた。今ナニシテルンダロウネー。


 まぁ、そんなわけで今は街は安全そのもの。モンスターによる自警団もちゃんと活動しているみたいだから、人もモンスターも安心して歩ける街になっているよ。


 その証拠に街の個数を増やした。今は20個の街が稼働している状態になっている。

 冒険者の人たちからは最初に立ち上げた街をメインサーバー、あとから稼働させた街はサブサーバーって言われてる。厳密にはサーバー分けしているわけじゃないんだけど、まぁ、やってることは同じようなものだし否定する理由もないね。


 ちなみに、ミミがいるのはメインサーバーだけ。だから、基本的にはメインサーバーが人気あるね。とはいえ、すぐに満員になってしまうから運が良かったら入れるみたいな状況になっている。

 1つのサーバーにいれる人数は限界はあるけど、その上限を増やしたりする予定はない。なんだったら今だって限界なくらいだからね。


 あとは最近だと、サーバー内てアイテムをやり取りする人が増えている。もちろん、今は店舗なんて持てないから皆路上だ。流石に勝手に開かれると困るからやり取りしていい場所は指定したんだけど、その道が露天通りみたいになってておもしろい状態になってる。

 多くの人からハウジング要素くれって要望も来てるんだけど、ちょっと時期尚早かなぁって気がしてるんだよね。そもそもそれよりも前にやりたいことがあるっていうか……


「というわけで、次の追加予定なんだけど……」


 僕は参謀さんこと里楽さんに相談を持ちかけた。


「冒険者を職業に付かせようと思うんだよね」


 これがハウジングなんかよりも重要な追加要素だ。


「……冒険者はそもそも職業では?」


 僕の言葉を受けた里楽さんが冷静に返してきた。

 確かに世間的にはもうダンジョンを探索する人たち、冒険者は立派な職業だ。会社員の冒険者の人たちも、そうじゃないソロの冒険者の人たちもちゃんと今では働いているという扱いになっている。

 だけど、今回のはそういう意味じゃなくて、


「世間の話じゃなくてダンジョンの中の話だよ」


 今のところ、冒険者はどこまでいっても一般人程度の能力しか持たない。人によって多少運動能力とかに差は出るけど、それはあくまでも個人差であってやれることはほとんどの人が同じだ。

 いや、それが当たり前ではあるけれど、でもそれじゃつまらないでしょ?


「……レントバーグの街で役割を持たせるということですか?」


「あー、それもいいね。冒険者ギルドの受付嬢とか、自警団とかに冒険者を混ぜてもいいかもね」


 でも、そういうことじゃない。


「……わかりませんね。1つ思い当たることはあるのですが流石にそれは……と否定する自分がいます」


「おっ? 試しに言ってみてよ」


 ここまでの話で里楽さんは僕がやろうとしていることがわかるのか?


「……古のRPGなどでは転職という機能があります。例えば、魔法使いになったり戦士になったり……その職業によって能力を上げることができます。職業というより適正を変えるようなものですが」


「なるほどなるほど! それは確かにできたら凄いよね」


 職業につくことによってスキルとかを覚えていくんでしょ? 確かにそれは面白い。


「ふぅ……その様子だと違うみたいですね。さすがの飛鳥さんでもそれは不可能でしたか」


「うん、残念ながら今の僕だとできないね。流石に人の適性を勝手に変えるなんて」


 でも、その代わりに、


「僕ができることは人にスキルを与えることだけだから」


「……それの方がとんでもなくないですか?」


 どうだろうねぇ、でもこれを追加することによって冒険者たちのレベルは大きく上がることになるはずなんだよね。



「僕がダンジョン内に配置できるアイテムにスキルブックってやつがあるんだよね」


「その名の通り、読んだ人間にスキルを与えるアイテムってことですか?」


「そういうこと」


 スキルブックには色々な種類があって、例えば剣術のスキルブックだったら剣術スキルを得ることができる。これによって剣を扱うのがうまくなったりする効果がある。流石に必殺技を自動で覚えたりはしないけれど、うまく扱えるようになるってことはそれだけ戦術が増えるってことではあるからね。


「本格的にゲームみたいですね……ひょっとして魔法のスキルとかもあったりするのですか?」


「もちろん! 前世だと魔法のスキルブックは凄い値段で取引されてたのを見たことあるよ」


「でしょうね……」


 読むだけで簡単に魔法が使えるようになるアイテムだからね。まぁ、その分手に入れるのは大変なアイテムだったけど。


「それで、里楽さん、率直にどう思う?」


 僕の言葉に、里楽さんは、首を横に振った。


「はぁ……これがゲームの話でしたらすぐにでも追加しましょうと首を縦に振れるんですが……」


「まぁ、そうだよね……里楽さんも察している通りこれには問題があってね」


 これはこの世界的な問題だ。


「ダンジョンで身につけたスキルは当然現実でも使えるようになるってこと」


「つまり、ダンジョンで魔法スキルなんて身につけたら現実でも魔法を使えるようになるってことですよね」


 里楽さんは頭を抱えて天井を見上げた。

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