第7話 トラブル

 無事にレントバーグの街とギルドマスターであるミミのお披露目が終わったその夜。


「いやー、お疲れ様。いい挨拶だったよ」


「里楽さまの台本通りですので」


 僕はミミと話をしていた。


「ありきたりな事を書いただけです」


「雛香も見てたけど、結構盛り上がってたねー」


 いや、ミミだけじゃなくて里楽さんと雛香も一緒だ。まぁ、普通に夕飯を食べているだけだよ。

 今日の夕飯はミミの好きな鳥の照り焼きだ。甘じょっぱいタレがたっぷり絡んだ照り焼きをミミは目を輝かせながら食べている。


 ちなみに、レントバーグの街は24時間ずっと稼働中だから今も街にいる冒険者はいる。ただ、ちゃんと現在時間に対応させているから今は夜になっている。

 冒険者ギルドも当然だけど閉まっているよ。だから、こうしてミミがここにいても大丈夫なわけ。

 まぁ、何かトラブルがあったら警備隊の方から報告が来るはずだからそうなったら出動することになるかもだけど。そうならないことを祈っておこう。


「ちなみに、ミミ。今日ってどのくらいトラブルあった?」


「中レベルのトラブルは1件、小レベルのトラブルはそれなりにありました」


「あ、そうなの?」


 僕のところには全然報告来てないんだけど、トラブルあったんだ。でも、ミミが解決できたってことかな?


「その中レベルのトラブルってのはどんなやつ?」


「冒険者ギルドの受付嬢たちから忙しすぎるとの苦情が入りました」


「あー……そういう系かぁ……」


 人数凄かったもんなぁ……


「いつまでも立ち話をして離れない冒険者や必要以上に接触しようとしてくる冒険者などがいたそうで困ったらしいです」


 やっぱり出たかぁ……受付嬢たち見るからに人気だったもんなぁ……


「しかし、接触できないことを説明。また過度な迷惑行為はアカウント停止になることを説明するとほとんどが引き下がったらしいのでトラブルとしては中レベルになってます」


「なるほどねぇ……一応あとでこっちでも改めて告知しておこうか」


 それでも、モンスターだからってぞんざいな扱いをする人たちは出るだろうけど、そうなったら一発アカウント停止すればいいだけだよね。ちゃんとあの子たちにも意志があるんだし、その程度守れない人間には配慮するだけ無駄だからね。


「その他の小レベルってのはどんな感じ?」


「こちらは単純な言い争いでしょうか? 多く人数が一箇所に集まっていましたので押した押して無いという諍いがあったのを確認しています。こちらは警備隊の方で対処したらしいです」


 警備隊もちゃんと動いていたようで安心した。


「やっぱり一度に入ってきたのがトラブルになっちゃった感じだね」


 少しずらしたけど、それでも足りなかったかぁ……


「特に冒険者ギルド周りは沢山の人が集まってましたからね。しばらくしてたら落ち着くと思いますが」


「雛香も見ててびっくりしちゃった。あんなに沢山の人達がお兄ちゃんのダンジョンに入ってるんだね」


 沢山の人達が集まるのは初めてのことだったからね。僕も数字としては知ってたけどびっくりしたよ。


「あーあ、雛香もミミちゃんの挨拶見たかったなぁ」


「映像では見てただろ?」


「直接見たかったの!」


 雛香は今回の街公開に参加していない。本人は参加したいってお願いしてきたんだけど、僕がそれにノーを出したのだ。


「だって、もしも雛香の事を知っている人がいたらやばいだろ?」


 実は前に雛香のことが掲示板で話題になっていたらしい。なんでも強すぎる女の子と執事さんが放送に映ったとかで……そんな悪いことは書かれていなかったのは良かったけど、それでも大分注目されていた。

 そんなわけで、もしも雛香の事を見た人がいたら変なトラブルになるに違いない。流石にそんな場所に可愛い妹を行かせるわけにはいかないよね。


「えー、雛香なら大丈夫なのに! もしも変なこと言ってきた人がいても返り討ちなんだから!」


「いや、返り討ちは駄目だろ」


 あの街の中は争いは厳禁だからな?


「でも、それじゃあ雛香はいつまでもあの街に参加できないってこと?」


 変なナンパに遭うくらいならそれでもいいんだけど、流石にそれは可哀想だもんなぁ。


「一応、変装してなら入っても大丈夫だと思うけど」


「変装って顔でも隠すとか?」


「いや、そういうのじゃなくて、ほら、前にゴーストタウンでやったみたいに見た目を変えるやつ」


 あの時はトラブルで僕の方は動かなかったけど、本来は周りから違う人間に見えるようになるやつだ。それがちゃんと動くなら問題ないはず。


「流石にいきなりは用意できなかったけど、近いうちにちゃんと実験して見た目用意しようか」


 ここ最近はミミの発表とかでリソースをそっちに持ってかれてたけど、きちんと雛香の相手もしないとね。


「どうせだったら雛香の好きな見た目とかにしてもいいんじゃないか? 好き勝手見た目変えられるんだし」


「うーん、雛香の好きにかぁ……雛香はお兄ちゃんに可愛いって思ってもらえればそれでいいからなぁ」


 可愛いこと言う妹だ。


「だったら、一緒にいい感じの見た目調整するか」


「えっ? それってデートってこと?」


 そうなるのか?


「うーん、まぁ、それでいいか。雛香をコーディネイトするって考えたら確かにデートっぽいもんな」


 ただ不安としては僕のセンスなんてそんないいもんじゃないってこと……

 ちらっと里楽さんに目を向けると。


「そうですか、では私はその日はゲームでもしてますね」


 普通に目をそらされてしまった。まぁ、そうなるよねぇ。

 そもそも、デート云々言ってるところに他の人の助け舟とか普通に無理無理。


「まぁ、2人きりでだな」


「うん!」


 久しぶりの2人っきりってことで雛香も嬉しそうだ。


「そんなわけでミミ、もしかしたらその時間は連絡つかないかもしれないけど……」


 一応ちゃんと言っておかないとね。流石にデート中に仕事の事をやるのは駄目だろうし。


「……」


 あら? ミミの反応がない。顔はこっち向いているんだけど、目はこっちを見てないというか……

 どこを見てるんだ?


「ミミ? どうかしたのか?」


「……!? すみません、少しリソースを別の問題に割かれてしまっていました」


「別の問題? 大丈夫なのか?」


「はい……少し確認をしてきてよろしいでしょうか?」


「いいけど……」


「それでは」


 そう言うと、ミミは席を立ってダンジョンの中へと入っていった。


「ミミちゃん大丈夫かな?」


「なんか様子が変でしたね?」


 2人から見ても変に見えたから僕の間違いじゃなさそうか。


「何かトラブルでも起きてるのかな?」


 うーん、まぁ、本当に問題が起こってるなら報告してくるか。

 後にミミからは大した問題じゃなかったと報告を受けることになる。しかし、今思えばこれが後々に大きな問題に発展していくことになること。

 その時の僕は当然知ることはなかったのだった。

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