第4話 レントバーグ

 幅5メートルほど石畳のメインストリートの周りに木で作られた建物が並んでいる。そのメインストリートにはちらほらと人が……

 いや、人ではなかったね。歩いているのはモンスター達だ。

 ここはモンスターたちの街。その名はレントバーグ。多くの人が出会うための街だ。


 そんな街の中心には大きな広場。そして噴水が憩いの場となっている。

 今そこに3人の人間たちが降り立った。


『へぇ! これがお兄ちゃんの作った街なんだね!』

『設計した自分が言うのもなんですが、いい感じの街になってますね』

『……』


 3人とはもちろん、雛香、里楽さん、ミミの3人。

 うん? ミミは人間ではないか? いや、モンスターじゃないからひとまず人間扱いってことで。


「おーい、聞こえるか?」


 思い思いに周りを見回している3人に画面越しから話しかける。


『あ、お兄ちゃん! 聞こえるよー』


 雛香が手を振ってくれた。なんで雛香は毎回的確にカメラに向かって手を振れるんだ? カメラは見えてないはずなんだが?

 まぁ、それはいいや。


 出来上がった街はダンジョン空間にあるから、僕は入ることはできない。今回はこの3人にお試しで街を回ってもらうことになっている。


「基本的に街は里楽さんが知ってるから案内してもらってな。僕はここで見てて補足とかするから」


 街は基本的には里楽さんに考えてもらったやつ、そのまんまだからね。ただ、街中にいるモンスターとかシステムとかは知らないはずだから、そこを僕が補足する感じ。


「里楽さんそれじゃあよろしく」


『はい、任せてください』


 それじゃあ、楽しいレントバーグ観光の始まり。



『まず、案内しますのはこの街の中心であるこの噴水広場です』


 里楽さんはまず目の前にある噴水から案内を開始した。


『凄いファンタジーって感じだよね!』


 雛香が噴水に向かって手を伸ばす。


『冷たい!』


 冷たい水が雛香の手を濡らす。思ったより冷たかったのか雛香が慌てて手を引っ込めた。


『ここを中心として、円のように街が広がっています』


 ちなみにこの街は里楽さんが、色々なゲームを参考にいいとこどりをして作ったらしい。

 ……そのまんまってわけじゃないから訴えられることはないと思いたい。


『里楽ちゃん、この街ってどのくらいの広さなの?』


『広さですか? おおよそ以前訪れたゴーストタウンと同じくらいの広さになります』


『それって凄い広さじゃない!?』


 うん、でも、これだけの広さでもむしろ狭いくらいなんだよね。


「将来的にこの街を冒険者の人たちに公開することを考えているからね。そのためにはこれでも狭いくらいなんだよ」


 今、アプリを使っている人たちは全部で300万人以上いる。ありえないけど、その人たちが一斉に入ってきたりなんてすると、これでも全く足りないくらいだ。


「今のこの広さくらいだと、1万人くらいが限界だからな」


『えっ? それじゃあ、全然たりないんじゃない?』


 そう、全く足りてない。このままじゃ街が満員電車のごとく歩くこともできないくらいの街になってしまう。


「だから、公開する時はまったく同じ街がいくつかある感じになるかな」


 オンラインゲームでもいくつかサーバーに分かれてたりするでしょ? それと同じでまったく同じ街なんだけど別の場所っていうシステムにしてある。


『あー、なるほど』


 ちなみに街の住民たちのモンスターは同じ人たちが生活している。まぁ、性格とか見た目は同じで別人っていう言い方のが正しいけね。記憶も違うし。


『もしも万が一迷ってもひとまずこの噴水にたどり着けばどうにかなるでしょ』


『はーい』


 それより一度ダンジョンから抜けて入り直した方が早いけどね。



 噴水の案内が終わった3人は次の目的地へ向かう。

 というか、知っておかないといけない場所ってあと1箇所しかないんだよね。


『はい、こちらが冒険者ギルドになります』


 里楽さんが指を差したのは他の木組みの家とは違う、石造りの家。他の建物に比べると3倍くらい大きな建物だ。


『この冒険者ギルドでは……』


 おっと、


「里楽さん、それは中にいる子にさせたいんだけど」


『あ、なるほど。了解しました。それでは中に入りましょう』


 すぐに里楽さんが僕の言いたいことを察してくれた。凄い助かる。

 3人が冒険者ギルドの中へ入る。

 冒険者ギルドの中へ入ると、真正面と左側にはカウンターが並んでいる。右側には椅子とテーブルがある休憩と待ち合わせ用のスペースになっている。


「まずは真正面のカウンターへ行って」


『はーい』


 僕の指示に従って3人はカウンターへ向かう。


『いらっしゃいませ。こちらへどうぞ』


 カウンターへたどり着くとその中にいるモンスターが声をかけてきた。


『初めての方ですよね? 私はこの冒険者ギルドの受付嬢をしております、ミーシャです』


 にっこりと笑って挨拶をするモンスター、もといミーシャ。


『わぁ……凄い可愛い……』


『これは……人気出そうですね……』


 雛香も里楽さんも思わず口から出てしまっている。うん、このミーシャは大愛さん渾身のデザインなんだよね。やっぱり受付嬢は可愛いが正義だよ。

 まぁ、可愛いって言っても小動物を見る系の可愛いだけど。


『猫?』


 そうミーシャは端的に言ってしまえば、2足歩行をしている猫だ。

 白い毛並みに、猫耳、猫のしっぽ。それに黄色をした猫の目。顔はそのまま猫だけど身体は人間みたいになっている。ちなみに手には肉球があるからマニアも大満足。ケモナーレベルで言うと、マックス一歩手前くらいのイメージとは大愛さんの談。正直僕にはよくわからない。


『私の種族はケットシーという種族になります』


 新たに作り上げたモンスター、ケットシー。猫の妖精っていうファンタジーでもよくある定番のキャラクターだね。


『ミーシャちゃん! 頭なでていい!?』


『えっ? いえ……それは……』


「こらっ! 雛香!」


 早速雛香が暴走していた。雛香も猫好きだからなぁ……

 しかし、受付嬢さんに触れてはならないのが鉄のお約束だ。


「あとでかまってやるから大人しくしてなさい」


『はーい』


 雛香にはあとでたっぷりデザインでも見せてあげよう。きっと気に入るはず。


『こほん、それではミーシャさん。この冒険者ギルドについてお聞きしたいんですが』


『はい! それでは改めまして。ここ冒険者ギルドでは街の様々な依頼をまとめてあります』


 気を取り直してミーシャが説明を始める。

 今後何度も説明する内容だからね、その練習も兼ねてミーシャに説明してもらいたかったんだよ。


『依頼とはどのようなものがあるのですか?』


『基本的にはアイテムを集めてくるという依頼になります』


『なるほど、依頼をまとめると言っていましたが依頼を出すこともできるんですか?』


『はい、もちろんです。依頼はあちらのカウンターから出すことができます』


 ミーシャが左側のカウンターを指差す。そっちにいる別のモンスター娘が手を振ってきた。


『依頼を受ける際はこちらのカウンターで依頼書を受取り、再度アイテムを納品していただくと依頼達成になります』


 まぁ、オーソドックスな依頼クエスト形式って感じだよね。

 自分の欲しいアイテムをここで依頼して他の人に集めてもらうことができる。今でも掲示板とかで募集はできるけれど、それをちゃんとシステム化したって感じだね。

 まぁどっちを使うかは人それぞれだと思うけど、こういう雰囲気を楽しむのも一興だよね。


『なんか聞いた感じだと、冒険者ギルドっていうよりもお役所みたいな感じだね』


 確かにまぁここでは冒険者の支援とかをするわけじゃないからね。ランクとかも特にない。


『その認識で正しいと思います。ここ冒険者ギルドの直下に警備隊などもおりますし、運営の役割もしておりますし』


 ちなみに、商業ギルドってやつはないから、実質ここが街の中心で間違いない。


「つまりここのギルドマスターがこの街の支配者ってことだね」


 支配者って言葉はちょっと高圧的だけど、この街で1番偉い人って意味では間違いない。


『へぇ、ギルドマスターってどんな人なんだろ?』


『……実は私も知らないんですよ。本日配属されるはずなのですが』


 ミーシャが困ったように首を傾げる。


『へぇ、なんて人なの?』


『えっとですね……ミミさんという方なのですが』


『えっ?』


 うん、つまりそういうことだよ。


「はい、ギルドマスターのミミさんです」


『どうも』


 こんなトラブルの多そうな街を任せられるのなんてミミくらいだからね。


『ええ! ミミちゃんなの!?』


『……まぁ、そうなりますよね』


『ギ、ギルドマスター!? そうとは知らずにこんな立ち話を!』


 三者三様の反応を見せてくれた。


 ミーシャも驚いている。ふふっ、この反応を見るためにわざわざ情報を与えなかったんだよね。


『気にすることはない。どうせ名ばかりのマスター』


 ミミの言うことも間違いじゃない、基本的にミミはそこまで大きな役割と持たずに街の象徴って感じのイメージだ。

 実際に指示出したりとかはほとんどしない。まぁ、本当にトラブルとかがあったら別だけど。

 基本的には街の様子を僕に報告する係ってことで間違いないと思うよ。


「ミミ、ギルドマスターの役目よろしく頼むよ」


『はい、お任せください』


 ミミには訓練がてらこの街でギルドマスターとして活動してもらうことになっている。

 まぁ、食事やお風呂なんかは僕の家で食べることになるから、冒険者ギルドに出勤するみたいなイメージかな?

 しばらくはそれで様子を見て、大丈夫そうならいよいよこの街を一般に公開だ。

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