第5話 ギルドマスター
街を作り上げてから早いもので一週間が経った。その間にミミはギルドマスターとして何もしていない。
いや、いいことなんだよ? ミミはあくまでも象徴だからね。むしろ何かがあって僕に報告が来ていた方がまずいからね。
つまり、トラブルが何もなかったということはうまく回っているって証拠だ。
「というわけで、そろそろ公開しようと思うんだけど」
「ええ、公開自体はいいと思います。これ以上は実際に人が入ってみないとわからないことでしょうし」
うん、うちの参謀の里楽さんからも無事に許可をもらった。えっ? いつの間にか参謀になってるって? 僕の中での役割だから別にいいんだよ。
「あ、でも念の為人数は絞ることにするよ、街1つ1万人くらいかな」
「それはそうでしょうね。いきなり全公開などと言い出したら、リスクについて話し合わなければならないところでした」
それはそれで聞いてみたかった気もするけどね。
「1万人の選定条件は……ダンジョンでの活動レベルとかかな」
「ええ、それを基準にしつつランダムでいいのではないでしょうか」
前にゴーストタウンで最初のイベントやった時と同じような感じだね。結局それが1番安定するから。
本当は実験って意味では完全ランダムにしたほうがいいかもだけど、安全優先、これ大事。
その後、公開にあたっての準備を進め、いざ公開の日を迎えた。
『おー! 凄い! 本当に中世ファンタジーの世界に来たみたいだ!』
『まるで異世界転生してきたみたい!』
『おいおい、それを言うなら異世界転移のほうだろ?』
『いやいや、それよりも小説でよくあるVRMMOじゃないか?』
『なんでもいいわよ! あっ! 人かしら?』
『いや! 人じゃない! モンスターだ!』
『敵……じゃないのよね? ってことはあれがお知らせにあった街の住人ってことね』
『いろんなモンスターがいるんだなぁ。こりゃ街を回るのが楽しみだぜ』
『ええ! 早速色々と周ってみましょう!』
『まずは冒険者ギルドだ!』
以上、街の中に初めて入ってきた冒険者さんたちの会話をお届けしました。
うんうん、いい感じに盛り上がってるなぁ。みんな笑顔なのはとてもとてもいいことだよ。
「里楽さん、そっちの方はどう?」
僕はその様子に満足しつつ、里楽さんの方にも声をかけた。
「ええ、こちらも盛り上がってますね」
里楽さんがパソコンの画面を見せてくれた。
“うぉおおお! 俺も入りてぇえええ”
“モンスタウンだ! 獣人っぽいのもいる!”
“まじで本格的なファンタジー世界じゃん!”
“くっそ、映像だけなのが悔しい! 早く自分で体験したい”
以上、配信をご覧の皆様の悔しげな様子をお届けしました。
今回の初公開も以前と同じように生配信をしている。やっぱり1万人限定ってなると不満が出るからね。
まぁ、抽選から漏れた人たちが悔しそうにしてるから、不満解消にはならそうだけど。
運良く街に入れた人たちは思い思いに街の中を散策している。
「うーん、でも冒険者ギルドに集まっちゃった感じだね」
「それはしょうがないのではないですか? 最初だけでしょうし、それでわざわざ時間はずらしたんでしょう?」
「まぁそうだけど」
一応予想はしていたからずらしたんだけど、思ったよりも冒険者ギルドから出ていかない人が多かった。
『ミーシャちゃん可愛すぎでは!?』
『あー、あの耳に触りてぇええ!』
『お触りは禁止です!』
“猫……猫……”
“肉球はあるんだろうか?”
“なお、ケットシーである”
ミーシャが想像以上に人気だった。まぁ、ミーシャ可愛いもんね。しょうがない。
「しかし、このあとのことを考えるとこれはむしろいい傾向ではないですか?」
「それは確かにそうだね」
改めて告知を出すつもりだったんだけど、集まっているなら逆に都合はいいか。
「最終組が入ったのを確認しました」
ずらした組の最終組も無事に入ってこれたみたいだし一安心。それじゃあ予定通りに事を進めるとしようか。
「それじゃあ、ミミ。よろしく頼むよ」
『了解しました』
えっ? これから何をするのかって? そんなの決まってるじゃないか。お披露目会だよ!
『皆様、これよりこのレントバーグの街の代表でもあり、冒険者ギルドマスターのミミ様よりお言葉をいただきます』
大人数の冒険者を前にミーシャが宣言をした。そしてその言葉を受けて、ギルドの奥の扉が開かれる。
そこから出てくるのは1人の女の子。明らかに他のモンスターとは違う人間のような見た目だ。
『はじめまして、冒険者たち。私はこの街のギルドマスターのミミ』
まぁ、ミミだけどね。
冒険者たちにミミのことを知ってもらうためにこういう場を用意することにしたんだよ。やっぱりこの街の象徴は知っておいてもらわないとだからね。
“この子が街のギルドマスター?”
“おおっ! 可愛い女の子!”
“他のモンスターとは違う感じなのかな? 見た目も普通の人だし”
“ひょっとしてダンマスさん……とか?”
“今まで隠れてたダンマスさんが自らギルドマスターに就任!?”
“この声どっかで聞いたことある気がするんだけど……”
『皆様、私の姿が他のモンスターと違うことを不思議に思っているでしょう。しかし私は他のモンスターたち同様に人ではありません。私のことをあなた達の言葉で表現するのであればAIというのが1番正しい言葉でしょう。私はダンジョンマスターに作成された存在です』
このあたりは迷ったんだけどね。ここいらできちんと公表することにしたんだよ。
“AI!? 機械ってこと!?”
“いやいや、そんな馬鹿な……最近のAI技術はかなり進化してるけど……”
“思い出した! この声どっかで聞いたことあると思ったらアナウンスの人じゃん!”
“あー! なるほど! 聞き覚えあるわけだ!”
“あれAIだったんだ! こっちの質問にちゃんと返してくれるからてっきり人がやってるものだと思ってた!”
『これまでも皆様のダンジョン活動をサポートしてきましたが、これからはこういう形でお世話をすることになります。改めましてよろしくお願いいたします』
ミミは淀みなく話していく。まぁ、ミミに緊張なんてものはないから当たり前だけどね。決められたことを淡々と話していく。
しかし……
「うーん、こうして堂々と話しているミミを見ていると色々と思うところがあるなぁ」
「飛鳥さんも羨ましかったりするのですか?」
「いや、そういうのじゃなくて……」
なんだろう……表現するなら……
「……娘の発表会を見てる感じ?」
娘がVTuberになってその3Dお披露目会を見ているような気持ちって言えばいいのかな?
まぁ、おおよそ間違ってないかな? 僕にとってミミは娘みたいなものだしね。
だからこうして……
“よろしくギルマス!”
“ミミちゃんか! これからも応援するぞ!”
“ミミちゃん親衛隊! 隊員を募集します!”
ミミが受け入れられる姿を見るのはとっても嬉しいね。
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