第3話 街を作るぞ

 ミミに外の世界を見せてあげたい。家の中だけの日常なんてつまらないもんね。

 しかしそうは言っても、ミミはダンジョンの外に出られない。いかに僕の能力を使っても現実世界をすべてダンジョンにすることはできないからね。

 だったらどうするのか? 答えは簡単。ダンジョン空間にミミのための街を作ってしまえばいいのだ。


「しかし、それでは誰もいない街になるのでは? ミミさんにさせたいのは他の人との交流であってそれでは意味がないのでは?」


 うん、里楽さん。鋭いツッコミだね。でも、僕がそこを考えていないとでも?


「だったら街の人も用意すればいいだけだよね」


「……ユーザーを参加させるのですか?」


「いずれはそうしたいとは思ってるけど、いきなりミミをそこに放り込むのはちょっと違うかなって。あくまでも訓練だからね」


「ではどうやって?」


「ダンジョンに元々いる生き物をにその役割をやらせるんだよ」


「元からいる生き物……まさか、モンスターをですか?」


「正解!」



 人間に味方をするモンスターを作ってそのモンスターたちを街の住民とさせてしまおうっていう考えだ。


「これなら純粋な人との交流ってわけじゃないけど、多くの人がいる街中を体験するって目的は果たせるはずだよ」


「なるほど……ゲームでよくあるような人間に友好的な街という感じですね」


 里楽さんがうんうんと頷いている。確かにイメージは近いかもしれないね。


「さっきも言ったように、最終的には冒険者たちに公開するっていうのも考えてるよ」


「それはまたとんでもないことになりそうですね」


 うん、前に真田さんが国を1つ作るようなものみたいなことを言っていたけど、まさにそんな感じだね。

 冒険者同士の交流の場になるといいね。



 さて、街を作ると決めたはいいけど。問題は山積みだ。


「どういう街にすべきかなぁ……」


 当然だけど僕には街作りの知識なんてない。だけど、こんな時に頼りになる味方がいる。


「というわけで、里楽さんお願いします」


「任せてください。これでも街作りゲームもそれなりに嗜んでますから」


 適当に放り投げた感じだけど、里楽さんも喜んで受けてくれたからね。これがWIN-WINの関係ってやつだよ。



 里楽さんが街の内容について考えてくれている間に僕は他の作業をしなきゃいけない。


「そういうわけで、実は友好的なモンスターデザインを考えてほしいんですよ」


「なるほど」


 また人頼り? 適材適所ってやつだよ! ということで今度は大愛さんにお願いしたよ。


「確かに、モンスターのデザインは重要ですね。流石に醜悪な見た目のゴブリンが街の住人では違和感ありますからね」


 そうそう、そうなんだよね。気持ち悪いモンスターが蔓延る街とかやっぱり嫌だもんね。やっぱり見た目は重要だよ。

 デザインは大愛さんにお願い。それじゃあ、僕は何をするのか。


「はぁ……これで10匹目か?」


 ここは僕の部屋、そして、眼の前には最弱モンスターのスライムが一匹。

 危険じゃないかって? それを確認するためにやってることだからね。


 僕が今やっていることは、モンスターの調整だ。

 今まで僕がダンジョン内に敵として配置したモンスターたちはほとんどが前世のモンスターたちだ。ダンジョンに潜ってくる人を見かけると襲いかかってくる敵意がマシマシなモンスターたち。


 ダンジョン内ではそれが当たり前だけど、街に住ませるならそうはいかない。人間を襲わない、人間に友好的なモンスターを作る必要がある。

 そのためには、モンスターの感情を操作して穏やかにしないといけない。ただ、一方的に言うことを聞くようなつまらない存在にはしたくないから、ある程度の感性は持たせて……なんてやることがそれなりにあるのだ。


 モンスターに感情を埋め込む作業って言っていいのかな?

 姿がスライムなのは大愛さんのデザイン待ちっていう単純な理由と万が一暴走した時に僕でも抑えられるようにっていう理由から。僕の戦闘能力なんて皆無だからね。一応ダンジョン内だと色々と対処はできるけど、一瞬の隙をつかれて一発KO! なんてことになったらまずいし。


「さぁ、おいで」


 出来上がったスライムを招いてみる。この瞬間が1番緊張するんだよなぁ。

 スライムはヌルヌルとこちらの方に近寄ってきて足元まできた。こちらに襲いかかってくる様子はない。


「とりあえず成功かな?」


 つんつんとつついてみるとぷにぷにした気持ちの良い感覚が返ってきた。この感覚が妙に癖になる……あとで枕にして昼寝でも……


「いたっ!」


 そんなことを思っていたら、スライムが体を少し伸ばして鞭のようにして僕の手を弾いてきた。つまり攻撃されたってことだ。

 でも、焦ることはない。


「ごめんごめん、ちょっと触りすぎたな」


 改めて僕はスライムを撫でる。

 このスライムは他の個体よりも人間への友好度を少し下げてみたんだよね。そのせいで突かれたのを嫌がったのだ。


 だけど、それ以降は僕に対して攻撃してきたりはしない。

 考えてみたら、普通のペットだってベタベタ触られたら嫌がるもんね。ある意味で思っていた通りのモンスターに仕上がったってわけ。

 気まぐれな猫みたいなものって考えたらちょっと可愛い感じしてくるよね。

 全部が同じようなモンスターだと面白くないから、個体によってばらけさせたい。こんな感じで、モンスターを一匹一匹カスタマイズしているわけだ。


「よし、これで11匹目が完成だ」


 目標はとりあえず50体。先はまだまだ長いけれど少しずつ頑張ろう。



 その後、半月程度の時間をかけて、モンスターを調整。里楽さんの作ってきた街を作るのとその調整にまた半月程度。

 大愛さんの仕上げてきたデザインをモンスターたちに適応して、作り上げた街に放流。馴染ませるのにまた数日。

 思い至ってから一月以上の時間をかけてやっと街が出来上がった。

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