第2話 ミミの日常

「うわぁ! 本当にミミちゃんなの!?」


「はい、雛香様」


「へぇ!」


 早速だけど、身体を得たミミを雛香と里楽さんの前に連れて行った。


 最初は 「お兄ちゃんが雛香が留守にしている間に女の子連れ込んでる!?」 なんて反応をしていた雛香だったけれど、ちゃんとこれが身体を得たミミだってことを説明すると落ち着いてくれた。

 雛香がいるのに浮気とかするわけないじゃないか。僕はそこまで命知らずじゃないよ。


「うわぁ、身体細! スタイル良すぎ! これってお兄ちゃんの趣味なの!?」


 雛香がミミをペタペタと触りながらなんか言ってるけど無視。ちなみに、その辺りについて特に指定してないから僕の趣味は関係ない。強いて言うならデザインした大愛さんの趣味かな?

 ミミもそんな大人しく触られてなくていいんだぞ?

 ともかく、雛香の反応はそんな感じだった。


「なるほど、バーチャルの身体を得たわけですね?」


「ああ、ちょっと違うけどまぁ、そんな感じ」


 対して里楽さんはミミからは一定の距離を置いて、僕に色々と質問してきている。ちなみにミミと自分の間に必ず僕を入れて壁みたいにしているんだけど、これ人見知り発動してるよね? それでも興味はあるからこうやって僕を質問攻めしているってわけだね。


「バーチャルで受肉……これはもはやVTuberと言ってもいいのでは?」


「えっ? いや、それは……どうだろ?」


 里楽さんってVTuberも好きだったよね。確かにバーチャル世界に身体があるかダンジョン世界に身体があるかの違いかも?

 まぁ、この調子なら割とすぐ慣れそうではあるかな?


「ともかく、これからもミミと仲良くしてやってくれ」


「うん」


「はい」


「よろしくお願いいたします」


 こうして僕の日常に新たな仲間が加わった。



 さて、こうして身体を得たミミ、これでリソース問題は解決になった。いや、身体を得たことではなくて、レベルが上ったことで解決したんだけど。まぁ、似たようなものでしょう。

 飛躍的に能力が上がったおかげで日常生活をしながらでもダンジョンの管理ができるようになっている。

 そんなミミには今後のために人間社会を学んでもらうべく一緒に生活をしている。

 というわけで、少しだけミミの日常を紹介することにしよう。


 日常その1。ミミの食事に関して。

 受肉したミミは食事を食べることができる。ちなみに排泄はしない。どこぞのアイドルかな? と思われるような謎の生態をしている。

 まぁ、言ってしまうと、食べたものを魔素に分解してるから排泄ないのは当たり前なんだけどね。

 ミミの活動に必要なのは栄養ではなくて魔素だから実は食事なんて取らなくても周りから吸収したり、僕が与えたりできる。つまり、食事なんて取る必要はないんだけど。


「美味しいものは一緒に食べたほうが美味しいよ!」


 という雛香の一言によって食事を一緒にとることになっている。いや、食事の時間何もせずに立ってこちらを見ているだけって状況を考えたら反対なんてしないけどね。こっちが食べづらくなるわ。

 ミミにとって食事はある種の娯楽のようなもの。しかも、ミミは食べたらすぐに魔素に変換できる身体を持っている。つまりどういうことになるかと言うと……


「飛鳥? 今月の食費やけに高くないかい? いつもの2倍くらいになっているんだけど?」


 父さんからそんな質問をされるくらいには食費が増えたってわけ。

 えっ? そんなんだったらミミの食事をなくせばいいって? 無理無理。


「今日のご飯は唐揚げだよ! ミミちゃんもどうぞ!」


「はい。いただきます……」


 唐揚げを器用にお箸でつまんで口に運ぶミミ。


「ミミちゃん、どう?」


「はい。とても美味です」


 無表情だ。無表情なんだけど……


「……目は口ほどに物を言うってやつかな?」


「ですね。とてもわかりやすいです」


 真正面から見ているとわかるけど、美味しいものを食べた時にミミの目がキラキラしてるんだよなぁ。

 そんなミミを見てたら食事を抜くとか無理だから。

 ちなみに、ミミは甘いものを好むようだ。


「甘いものからは大量の魔素を得られる気がします」


 うん、気がするだけなんだよね。実際には他の食事とあんまり変わらないから。

 逆に辛いものは嫌いなようだ。


「なぜ人間はわざわざダメージを負ってまで食事をしようとするのですか? 理解不能です」


 というのがミミの談。辛いもの好きに怒られそうな物言いだけど、辛さって痛覚って聞いたことがあるからミミにしたら痛みを負いながら食べるのがわからないってことだと思う。

 元々うちの家庭は皆辛いものはそこまで得意じゃないから無理やり食べさせたりはしないけどね。

 食事に関してはこんなところかな。



 日常その2。ミミのお風呂に関して。

 食事からの排泄物もだけど、そもそもミミの身体には老廃物ってものが存在しない。

 人間だったら汗とかじゃなくても空気中の塵とかで汚れるものだけど、ミミはそれすらも一瞬で消すことができる。つまり、ミミの身体は汚れることがないってわけ。

 だから本来はお風呂とかシャワーも必要ないんだけど。


「一緒にお風呂に入ると楽しいよね!」


 というこれまた雛香の一言でお風呂に入らせることになっている。

 いや、このあたりは男の僕が突っ込んだら駄目な部分だから僕は何も口出ししなかったけど。


 というわけで、今、うちのお風呂に女性陣3名が入っています。

 うん、なぜか里楽さんも巻き込まれてた。いや、里楽さんは普通にお風呂必要だけどね? あの子、放っておいたらお風呂も入らずゲームとかしてるから、定期的に雛香が引きずっていくのが日常になっている。そこにミミが追加されただけ。

 うちのお風呂ってそんなに広くないんだけどなぁ。


 家のお風呂に女の子3人って聞けば、年頃の男としてはドキドキしそうなワードではあるけれど。1人は妹、1人はスキル、1人はダメ人間。うん、妹のを想像するのが1番ドキドキする時点でもう色々と駄目だと思う。


 だから……


「お風呂、いただきました」


 少し髪が濡れていて、微妙に頬が赤くなって、ちょっと色気があるミミを見ても。


「うん、綺麗になったね」


 なんて言葉を冷静に、冷静に返すことができたよ。


「はい。ありがとうございます」


 ミミのいつもの無表情に、ちょっと笑顔が見えた気がするのもきっと気のせい。

 ちなみに、ミミだったら髪を一瞬で乾かして元の状態に戻すこともできるんだけど、


「ほら! 一緒にお兄ちゃんに乾かしてもらおうよ!」


 雛香のそんな言葉でわざわざ乾かさずに上がってきたようだ。

 雛香よ、お前はそれでいいのか? というわけで3人の髪をわざわざドライヤーあててあげることになった。うん、3人だよ。里楽さん、それでいいの?



 日常その3。ミミの趣味に関して。

 ミミは基本的に家の中にずっといる。いや、家の中がダンジョン空間になっているから、そこから出れないのは当然なんだけど。例えば、僕や雛香が学校に行っている間もミミは当然家で待機をしているってわけ。

 さて、そんなずっと家の中にいるミミが何をしているかっていうと、ずっと動画を見ている。


「ただいまー」


 ある日、学校から1人で帰ってきた僕。雛香は用事があるらしく別行動だ。

 そのままリビングへ向かうと、ミミが座ってディスプレイを眺めていた。こちらに気がついた様子はなく、じっと画面を見つめている。

 いったい何を見ているんだろ? そう思ってちらっと後ろに周ってみると。


『いっけー! マジカルアタック!』

『やられたー!』

『マジカルパワーで今日も解決!』


 キラキラフリルの女の子が怪人を倒すアニメ。端的に言って女児向けの魔法少女アニメだった。

 ミミはそのアニメを真剣に見ている。


「ミミ」


「飛鳥様、おかえりなさいませ」


 声をかけると、ようやく気がついたようだ。


「それ、何見てるの?」


「はい。魔法少女リーンを見ておりました」


「面白いの?」


「はい。このような世界があるとは知りませんでしたので参考になります。もしも、このような魔法少女がダンジョンに入ってきたらどうするかを今考えております」


 うーん?


「いや、魔法少女は現実にはいないよ?」


「しかしこのアニメでは……」


「アニメはアニメだから……」


 うん、アニメばかり見てたら随分と常識が偏ってきてしまっているみたいだ。いや、別にアニメが悪いわけじゃないけど。


「魔法少女はフィクションだから」


「ではこのシーンのように学校の先輩に憧れる魔法少女はいないのですか?」


 見ると魔法少女の女の子が足を挫いてしまい、憧れの先輩にお姫様だっこされているところだった。


『きゃっ! 先輩!?』

『じっとしてて……』

『うー、大好きな先輩の顔が近い! ドキドキするよぉ……』


「この学園における憧れの先輩というのもフィクションでしょうか?」


「あー、いやー、それは……人によるんじゃないかなぁ……」


 いないとは言えないけど、絶対にいるとは言えない。


「この先輩への恋心に翻弄されるという気持ちはどのような気持ちなのでしょうか? 非常に気になります」


「あー、えっとそれは……」


 恋心がわからないAIに恋心を説明してくださいって問題だされた気分だ。いや、まさにそんなシチュエーションだけど。

 恋心なんて説明できなかった僕は、


「まぁ、ミミもそのうちわかるようになるさ」


 なんて言葉でごまかすことしかできなかった。



 とりあえず3つほどミミの日常を説明したわけだけど。こんな感じでミミは日常に少しずつ馴染んできている。

 そんなミミには次のステップへと進んでもらいたいと思っている。


「というわけで、ミミに外の世界を見せてあげよう」


 新たなプロジェクトを立ち上げた。

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