第3章
第1話 リソース不足
いろんな意味で濃かった夏が終わり、季節は秋! というのにはまだまだ暑い今日この頃。
学校が始まり、久しぶりに会った友人がダンジョンに入り浸っていただの、今年もナンパに失敗しただの報告を聞く、そんな日常を送っていた。
いや、まぁ、学校の話はどうでもいいんだ。本筋はそこじゃない。
ということで、僕はとある悩みを抱えていた。
「……いい加減やばいよなぁ」
自分の家の中で1人つぶやく。周りには誰もいない。しかし、これは独り言ではない。
『はい。そろそろリソースが限界に達します』
返事が返ってきた。眼の前にあるパソコンからだ。
しかし、誰かと通話しているわけではない。僕の話し相手はこのパソコンそのもの。
AIであり、僕のスキルの一部でもあるダンジョン妖精のミミだった。
『平日は問題ありませんが、休日になるとリソースが逼迫しています。特にゴーストタウンでのイベントを開催している時などは稼働状況が95%を超えることもあります』
「そんなにかぁ」
なんの話をしているのか。簡単に言ってしまえば、ミミのスペック不足の問題だ。
前々からやばいやばいと言ってきたけれど、ついに本格的にやばくなってきた。やばいやばいやばいだ。
「レベルアップで賄える量を軽く超えちゃったからなぁ……」
ミミのスペックは僕のダンジョン創造スキルとAIの性能によって変わる。
いや、AIの性能の方は基本的に変わっていないので、ダンジョン創造スキルのレベルアップにだけ変わるって言ったほうがいいかな。
ダンジョン運営を開始した時はこれでも大丈夫な計画だったんだけど、最近になってレベルアップの速度が落ちた。
これはダンジョンに入る人が減っているわけじゃなく、そっちはむしろ増えているくらいなんだけど、単純にレベルアップに必要な経験値が大きすぎるって問題からだ。
「今はレベル40だもんなぁ……」
レベル40ともなると、魔王軍のダンジョン部門としては中堅どころ。それなりに大きなダンジョンを任されるくらいのレベルになる。
経験値はダンジョンに入る人がどういう風に活動したかで決まるんだけど、正直、今のレベルに対してダンジョンはかなり難易度が低くなってるんだよね。
入ダン者は増えているけど、難易度が低いせいでうまいこと美味しい経験値にならないっていうのが現状だ。
ついでに言ってしまうと、そのランクの低いダンジョンへの入ダン者が加速度的に増えているっていうのも、余計にミミのスペックを逼迫している。
これの簡単な解決方法は2つあって……
「入場制限をかけるかぁ……」
入ダンしてくる人が多すぎるなら減らしちゃえばいいじゃないって話だ。でも、これはできればやりたくないんだよね。
「ダンジョンを潰すのもなぁ……」
ミミが管理するダンジョンを減らせばそれだけでもリソースに余裕ができる。でも、これもやりたくない。
「というか、今更制限とかダンジョン減らしたら絶対変なクレーム来るもんなぁ……」
今や冒険者という職業は当たり前のように受け入れられている。ダンジョン探索だけで生活を成り立たせるなんて、そんな不安定な生活するなんて正気か? と思わなくもないけれど、世の中には一攫千金を狙っている人が想像以上に多かったらしい。
まぁ、1番の原因は僕が思っていた以上にポーションとかの評判が良かったってのが問題だけど。今だと普通に病院とかでも薬として出るもんなぁ。
そんな状態の中、供給を減らすようなことをしたらクレームどころか、社会が混乱するのは間違いない。
一度便利な生活を与えて、それを急に取り上げるようなもんだからね。人間、上がった生活水準を下げるのって難しいもんなんだよ。
さて、ここまでの話だけだと、八方塞がりに思える。
だけど、実は1つだけ秘策がある。それは……
「そろそろやるかぁ……ミミへ理想の身体をプレゼントしよう計画」
実はミミ……というか、ダンジョン妖精自身にもレベルというものが存在する。これが上がっていくと、飛躍的にできることが増えるらしい。
らしい、というのは、実は僕自身はこれに手を出したことがないんだよね。
前世の時もダンジョン妖精っていう存在はいたんだけど、ずっと初期状態のままだった。
だって、そもそも周りにはサポートしてくれる人がいたからね、同僚とか部下とか部下とか。
それに当時のダンジョン妖精って今のミミみたいに喋ったりできなかったから、そっちを育てるよりも周りの仲間達に頼る方が早かったんだよ。
これはあの世界では割と一般的なことで、少なくとも僕はダンジョン妖精のレベルを上げましたなんて人は見たことがない。
だからレベルを上げたらどうなるかわからない……ということではなく。それが理由で上げていなかったわけではない。
ミミのレベルを上げていなかった理由、レベルアップをしたら、あることが可能になるからだ。
「ちょうどこの間大愛さんからミミのデザイン案をいくつか貰ったところだったんだよね」
レベルアップをするとミミが身体を手にすることができるのだ。
もちろん、現実にミミが現れるなんてことはなく、ダンジョンの中限定だけど、それでも身体を手に入れるってのは凄いことだよね。
しかも、2Dじゃなくて3Dの身体。もしもミミがVTuberだったりしたらそれこそ盛大にお披露目なんてしたかもしれないくらい凄いことだ。
これは気合をいれて臨まないとというわけで、その身体をデザインしてもらっていたってわけ。
「よし! それじゃあ、早速試してみようか」
こうして準備が整った以上やらない理由はない。ミミには大愛さんが描いてくれたデザインを取り込んでもらってある。
こういうデジタルでできるっていうのも、AIと統合した大きな利点かもね。
「よし、ミミ、レベルアップをして!」
『了解いたしました』
パソコンの画面に、僕自身のステータスを表示して、ダンジョン妖精の項目の部分を見守る。
「おっ! レベルが上がった!」
『はい。レベルアップを確認しました。これより身体の生成に入ります』
ミミがそう告げると、部屋の中に魔法陣が現れた。こいつはダンジョンに移動した時に出てくるやつと同じやつ。
そうそう、忘れてたけど、僕の家の中は実は全部ダンジョン化してあるんだよね。そう、現実に出てくることは不可能だけど、ダンジョンの中ならできる。それは、現実空間をダンジョン化したものでも変わらない。
魔法陣から生えてくるように人の姿が現れる。
少し明るい緑色の髪を少し短めに流したショートヘア。目は開いていないから大きさはわからないけれど、キリッとした眉毛がとても印象的。
顔立ちは可愛いというよりは美人系かな? 身長は僕よりは多少低いくらいの、女の子としてはかなり高くスタイルも良い。
美人サポートAIキャラを想像するとだいたいこんな感じ? というのをまとめた見た目だ。まぁ、まんまそういう感じで発注したから当たり前ではあるんだけどね。
そんな女の子が僕の眼の前に立っている。
「えっと……ミミ?」
ちょっと疑問形になってしまったのは、想像以上に美形でたじろいたとかでは絶対になく、単純にダンジョン妖精が身体を得るっていう現象を目の当たりにして驚いていたからに違いない。
女の子は目を開き真っ直ぐと僕を見る。
「はい。飛鳥様。無事に受肉に成功いたしました」
女の子あらためミミが恭しく僕に頭を下げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます