閑話 とあるAIとの関係その1

「そういえば、ミミちゃんってお兄ちゃんのスキルの一部なんだよね?」


 夏休みも終わりに近づいてきたのに蝉の鳴き声は収まらないなぁなんて思っていたそんな時、急に雛香が言い出した。


「おい、雛香。ちゃんと宿題に集中しろ」


 夏休みもあと数日で終わりなのに、宿題が全然終わっていないと泣きついてきたのはお前のほうだろうが。そんなこと気にしている場合じゃないだろう。言っておくが宿題は見せないぞ。


「えー、だって朝からずっと勉強してるんだもん、飽きちゃったよ」


「飽きても、飽きなくても終わらせるのが宿題だ。このままじゃ本当に間に合わないぞ?」


「大丈夫! 計画はばっちりだから!」


 ほんとかよ……いや、絶対嘘だな。


「ってわけで! ミミちゃんについて教えてよ!」


 はぁ……どうやら本当に集中が切れてしまったみたいだな。しょうがない、少しは話しに付き合ってやるか。


「ミミについてなぁ……」


 とは言っても、ミミについて僕が知っていることなんてさっき雛香が言った通り僕のダンジョン創造スキルの一部であるダンジョン妖精であるってことくらいだ。


「そもそも、雛香はミミについて何が聞きたいんだ?」


「うーん……例えば……お兄ちゃんとの関係とか?」


「関係って……スキルとその主ってだけだと思うが」


「そうじゃなくて! もっとこう……なんか!」


 なんかってなんだよ……


「はぁ……それじゃあ、ミミも含めて一緒に確認するか」


 ここいらでそういうのするのもいいでしょ。

 というわけで、ミミを召喚。


『リソース不足で反応が遅くなる可能性がありますが大丈夫でしょうか?』


「ああ、片手間でいいよ。どうせ雛香の暇つぶしだし。面倒をかけて悪いな」


『了解しました。雛香様の暇つぶしにお付き合いいたします』


「やった! ミミちゃん優しい!」


 微妙に皮肉交じりだったんだけど、雛香には通じなかったようだ。僕はため息をついた。



「改めてミミちゃんってお兄ちゃんのスキルの一部なんだよね?」


『はい、その通りです。私は飛鳥様のダンジョン創造スキルの能力である、ダンジョン妖精と呼ばれるものです』


「うーん、それ気になってたんだけど、そもそもミミちゃんって妖精なの?」


『はい。名称は妖精で間違いありません』


 あー、ちょっとそれは不正確だなぁ。


「多分だけど、雛香の想像している妖精とはまた別のものになるぞ? どうせ雛香は妖精って小さくて羽の生えている女の子みたいのを想像してるんだろ?」


「うん! もちろん! ……違うの?」


「ああ、そういうものじゃない。ダンジョン妖精っていうのは、情報を教えてくれるソフトみたいなものなんだよ」


「……?」


 わからないよなぁ……説明が難しい。


「本来であれば意志を持たないこちらの意志に応じて情報を返してくれるだけの検索機能みたいなものだ」


 ダンジョンっていうのはそもそもの情報量がかなり多い。それを探す手間がものすごく大変だ。

 それをサポートしてくれる検索機能がダンジョン妖精ってこと。


「あれ? でも、ミミちゃんはちゃんと意志を持って返事してくれるよね?」


「ああ、それはだな。前にも言ったけど、こっちの世界のAIと連携させたからだな」


 ちなみにAIもちゃんと会話が通じるようにとか特化してある。


「ふーん、それじゃあ、お兄ちゃんの前世の頃はもっと違う感じだったの?」


「そうだな。今みたいに会話したりとかは全然なかったな」


 そもそも本来はない機能だしね。


「へぇ、ちなみにその時のミミちゃんと今のミミちゃんって同じなの?」


「えっ?」


 それはどういう意図の質問なんだ?


「いや、例えば前世の時も実は記憶あったりとかするのかなぁって」


「そんな……意識なんてあるわけないじゃないか」


 だって、こちらの指示に従うだけのソフトにそんなものが……


『……今思うと当時の記憶というはございますね』


「えっ?」


 えっ? ございます?


『正確には記憶というよりは、記録と言ったほうが正しいでしょうか? 当時の飛鳥様に関する情報が私の中に残っております』


「……マジデ?」


 あの頃の記憶とかあったりするの? えっ? 変な事とか話していないよね?

 特に魔王軍のダンジョンマスターに入る前の時とか割と黒歴史ではあるんだけど?


『記憶の一部を読み上げましょうか?』


「いやっ! ちょっ! まっ!」


「お願い! 雛香の知らないお兄ちゃんの事教えて!」


『了解いたしました。では……当時の飛鳥様の台詞です。`あれ? この能力凄すぎじゃね? これだったら世界が取れる! いや取って見せるぞ! ダンジョンマスターに俺はなる!`』


「そんな事言ってねぇ!」


 いや!? 言ったか!? 世界を取るとか言ったのか!?


『その他にも、`よっしゃ! 念願の魔王軍のダンマスになったぞ! これで全世界ダンジョン化計画に一歩近づいたぞ!`』


「それは……覚えてる! 覚えてるけどもだ!」


 ダンマスになった時に気分が高揚でもしてたんだろ!? そうだろ過去の僕よ!


「へぇ! 過去のお兄ちゃんって随分と野心に溢れてたんだね!」


「うぐっ!」


 だってしょうがないじゃないか! 魔族ってのは人間よりも遥かに長生きするんだよ! 当時まだ若かった僕はダンジョンスキルに万能感を覚えてたんだよ!

 ちなみに、当時から小市民だった僕は全世界ダンジョン化計画なんて言葉だけのものだった。


『他には……』


「ストップ! そのくらいで勘弁して! いや、してください!」


 もう、ミミが前世の僕の事知ってるのは良くわかったから。


「えー! もっと聞きたいのに!」


『了解いたしました。マスター権限を優先いたします』


 良かった。雛香のお願いよりも、僕のお願いのが優先度高かった。いや、当たり前の話ではあるけど。


「ミミ、基本的に今みたいな過去の話を僕以外にするのは禁止な」


『了解いたしました』


 うん、最重要事項で頼むよ。ほんとに……


「もっとお兄ちゃんのこと知りたいのに!」


 雛香はそう言ってるけど、こっちも過去の痛い記憶は思い出したくないのよ。

 ほんと……前世の黒歴史が襲ってくる感覚は辛いぞ?


「……むぅ…………あれ? ひょっとして、雛香よりもミミちゃんの方がお兄ちゃんとの付き合い長かったり……?」


 雛香の目からハイライトさんがいなくなってる!?


「い、いや? 記憶、記録があるのと付き合いが長いのはまた別の話だから!」


「でも……雛香の知らない過去のお兄ちゃんのこととか知ってるし……」


「それは……そうだけど……」


 しばらく雛香の目のハイライトさんはどこかに言ったままだった。

 なお、そのせいもあって雛香の夏休みの宿題は結局終わらなかったのだ。

 ……僕のせいじゃないよね?


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これにて閑話は完了です。

水曜日より本編3章を投稿予定です。引き続き週3、月、水、金の投稿になります。

よろしくお願いいたします。

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