閑話 とある姉妹との通話その1

 とある日のこと。僕は大愛さんと通話をしていた。


「それで、大愛さん、いつくらいにできそうですか?」


 ある事情で大愛さんにお仕事をお願いしていたのだ。


『そうですね……1週間くらいあればできるかと思います』


 そっか、まぁあんまり急いではいないからそれくらいでも十分かな。


「それじゃあそれでよろしくお願いします。あ、支払いなんですけど……」


『はい、以前送ったやつで大丈夫ですよ』


「いえ、相場を調べたら提示された額がかなり安めだったみたいで……ひょっとして間違えていないかなって思いまして」


 具体的に言うと、相場の半額くらいになっていた。


『間違っていませんよ。飛鳥さんには結衣の件で随分とお世話になりましたから』


 いや、そうは言うけどさ……流石に申し訳ないっていうか……


『本当は無料で受けたいくらいの気持ちなんですが、デザイナーとしてそれはいけないと思いますので』


 まぁ、タダって言われたら流石に頼まなかったと思うけど。


「いえ、しかしですね……もう少しくらい高くても……」


『いえ、あれで大丈夫ですから』


 結局、大愛さんは値上げに応じてくれることはなかった。次回があれば通常通りにってことになったけど……なんで払う側が値上げ交渉してるんだろ?


「それじゃあ、今日はこのあたりで……」


 そうやって会話を切り上げようとしていた時だった。


『お姉ちゃん、何してるの?』


『きゃっ!』


 大愛さんの背後に女の子が現れた。


『ゆ、結衣! いつの間に帰ってたの!?』


 あっ! 結衣ちゃんか! 随分見た目変わってたからわからなかったよ。

 結衣ちゃんは大愛さんの妹で少し前々とんでもない奇病に悩まされていたんだけど、最近になって解決。

 病院も無事に退院したって聞いてたけど、随分と元気になったみたいだね。


『ごめんね結衣、今、少しお仕事の話をしていて』


『あ、そうなんだ。ごめんなさい。ってあれ? 見たことある人なような』


 おっ? もしかしてあっちも僕のこと覚えてたのかな?

 軽く手を振ってみると、結衣ちゃんも振り返してくれた。


『あっ! もしかしてお姉ちゃんの彼氏さんね!?』


「って違うわ!」


 思わず突っ込んじゃったよ。というか、その台詞前にも聞いたぞ!


『ははっ! 冗談冗談。前に病院で会った人だよね』


 あ、やっぱり覚えてたか。


『お姉ちゃんの友達で、例のダンジョンを作ってる人だよね?』


 そっか、そこまで話してたんだっけ?

 結構前のことになるから、どういう話をしたのかあんまり覚えてないんだよね。


「てっきり忘れられたかと思ってたよ」


 かれこれ3ヶ月くらいは会ってなかったわけだしね。一応大愛さんからはちらっと話は聞いてたりしたけど。


『恩人の事を忘れるわけ無いじゃないですか!』


 結衣ちゃんは少しムッとした様子だった。

 結衣ちゃんの中で僕ってそういう扱いなんだね。いや、間違ってはいないとは思うけど。


『これでも凄い感謝しているんですよ? どのくらい感謝しているかって言うとこの身を捧げてもいいくらいに』


「えっ? いや、流石にそれは……」


 そんなこと言われても困るんだけど……


『あっ! 私だけじゃ足りませんか? だったらお姉ちゃんもセットで!』


『ちょっ! 結衣!?』


『美人姉とちょっぴり小悪魔な妹のセットです! 今ならお買い得ですよ!』


 なんかのセールスみたいだなぁ。

 自分で小悪魔とか言うんだ。そういえば、結衣ちゃんってこういう子だったっけ。

 さらっと巻き込まれた大愛さんも顔を赤くしてないでもうちょっと何か言って。


『こら、結衣。飛鳥さんも困っているでしょう』


 僕の祈りが通じたのか、大愛さんが結衣ちゃんに注意をする。


『あ、飛鳥さんっていうんですね』


『あっ!』


 そういえば名前は言ってなかったかぁ。まぁ別に今更だけどね。


『すみません! 飛鳥さん! 後で結衣にはちゃんと言い聞かせておきますので』


「いえ、大丈夫ですよ」


 結衣ちゃんが漏らすとは思えないし。


『ほら、結衣。そろそろいいでしょ。ちょっとあっち行ってて』


『はーい……あっ! そうだ! 飛鳥さん! ちょっとお願いがあるんですけど!』


 注意されて一旦離れようとした結衣ちゃんだったけど、すぐに戻ってきた。


「お願い?」


『はい! 実は私もダンジョンに入りたくて!』


 あっ、えっと、ガチ目のお願いなのね。


『今って年齢制限がかかってて私の年齢だとダンジョンに入れないじゃないですか!』


 そうだね。今は16歳以上ってかかってるから結衣ちゃんだとまだ駄目だね。


『でも、お姉ちゃんが大変そうにしてるから私も入りたいんですよ!』


 お姉ちゃんが大変そうにしている?


「どういうこと?」


 僕は何も聞いてないけど?


『あれ? 聞いてないんですか? 実はお姉ちゃん……』


『こ、こらっ! 結衣!』


 大愛さんが結衣ちゃんの口を塞ごうとするけど、遅かった。


『仕事クビになっちゃって! 今はダンジョンでアイテムを取ってきて売ってお金を稼いでいるんです!』


「えっ?」


 あれ? 大愛さんってゲーム会社のデザイナーだったよね? クビになったの!?

 大愛さんは気まずそうにしているから、本当のことっぽい。


『ええ……実は先月いっぱいで……』


『あ、そうなんですか……』


 普通に連絡取り合ってる時だったかぁ。


『お姉ちゃんってば、毎日毎日朝から夜までダンジョンに入ってるんですよ! ずーっとです!』


 そんなにかぁ……あっ……ひょっとして結衣ちゃんの治療費とかの問題もあったりするのかな?

 退院はしたって言っても、まだ通っているみたいだし。


「確かにそれは心配になるねぇ」


 それの助けをしたくて自分もダンジョンに入りたいってことかぁ……


「うーん……」


 どうしたものかなぁ……気持ちはわかるんだよなぁ……


『飛鳥さん、私は大丈夫ですので気にしないでくださいね』


 大愛さんはそう言うけど。というか、大愛さん、そういう状態なのに半額とかしてたわけ?

 それは流石にお人好し過ぎるのでは?


「よしっ! わかった。流石に1人でダンジョンに潜らせるっていうのは無理だけど、大愛さんと一緒ならっていう条件で特別に許可しようかな」


『本当ですか!?』


 贔屓? いいじゃない、贔屓上等だよね。


「それに、大愛さんがそういう状態だったらこっちも色々とお願いできることがあるかもしれないしね」


 流石にゲーム会社で働いている状態の大愛さんに頼むのは少し気が引けていたところがあったんだよね。

 今回の依頼もダメ元でお願いしてたんだけど、そういうことであれば遠慮なくお願いできる。

 それなら、早く頼むことを検討をしないと。


「こっちの方で少し考えてみますから。その時はお願いしますね。あ、結衣ちゃん用のアプリもすぐに送るから! それでは!」


『あ、飛鳥さん!? ちょっと……』


 僕は通話を切って、大愛さんに依頼する仕事の順番を考え始めた。

 いっそのこと大愛さんも仲間に引き込んじゃってもいいかもね。

 うん、夢は広がるばっかりだよ。

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