閑話 とあるゲーマーとの日常その1

 はじまりは里楽さんの言葉だった。


「飛鳥さんもゲームをやるべきでは?」


「えっ?」


「飛鳥さんの作るダンジョンはイベントなど普通のダンジョン攻略ではないこともしていますよね」


「うん、確かに協力型イベントとかやってるね」


 普通のダンジョン運営とは違うかもね……普通のダンジョン運営ってなんだろ?


「飛鳥さんも考えているのではないですか? やっていることがゲームの運営に近いんじゃないかって」


「うぐっ、確かにダンジョン運営っぽくはないなぁとは思ってたけどもっ!」


 いや、でもしょうがないじゃない? この世界の人になるべく危険がないようにって考えた結果なんだもん。

 僕の作ったダンジョンで人が死んだりとかしてほしくないし、いろんな人に入って欲しいで考えたやっぱりスマホから入場が1番効率良かったんだよ。


「いえ、色々と考えた結果なのは承知していますよ。むしろ危険がないようにうまくやっていると思いますよ。飛鳥さん自身の安全を考えると最善だと思います」


 まぁ、僕はあくまでもダンジョンスキルが使えるだけの一般人だからね。自分の身は自分で守らないといけないんだよ。

 ラノベみたいに無双とかはできないんだよ。


「まぁ、それはそれとしてゲームの運営に近いということは受け入れたほうが良いのではないでしょうか? ちなみに悪い意味ではありません、飛鳥さんのダンジョンスキルはそれに留まらない汎用性があるという意味です」


「……褒めてるの?」


「はい、最初から褒めてますが。だって、ゲームですよ?」


 あー、そういえば里楽さんはゲーム廃人だったなぁ。その里楽さんにしてみればゲームに近いってだけで褒め言葉なのか。


「確かにダンジョンでイベントなんて前世ではやってなかったからなぁ。そういう知識はあんまりないんだよね」


 前世におけるダンジョンっていうのはあくまでも物資を取ってくるための場所だった。

 そもそもあの世界自体がこの世界におけるゲーム世界みたいなものだからね。

 普通にレベルとかスキルみたいな概念だってあったし。


「あれ? そもそもなんでイベントとかやりだしたんだっけ?」


 当たり前のようにイベントとかやってるけど、そもそもなんでやりだしたんだっけ?

 確か最初にイベントをやったのって……


「多くの人に魔法を触ってもらうためでしたのよね?」


 あー、そういえばそうか。こういうのが追加されましたって告知のためにやったのか。


「そっか、告知の意味合いが強いんだなぁ」


 合点がいった。前世だとそもそもダンジョンに新たに要素を追加してもそれを知らせるなんてことはしなかった。

 たまたま見つけた人が入ってくるみたいな感じだったもんね。


「しかし、こういうやりかたをしている以上はイベントは必須だと思いますよ。評判もいいですし続けるのに越したことはないと思います」


 僕の目的はあくまでも多くの人にダンジョンを好きになってもらうことだからね。

 好感度が上がるならやらない理由はない。


「というわけで話は戻りますが、ゲーム型運営をするのであれば飛鳥さんももう少しゲームに触ってみるべきだと思うのです」


 里楽さんの言いたいこともわかった。


「確かに試しにやってみるのもいいかもね」


 ずっと里楽さんを頼りにしていた部分ではあったわけだし、僕もやってみれば何か発見とかあるかも。


「はい、というわけでこちらを準備しました。こちらが飛鳥さん用のアカウント、そしてゲームをインストールしたパソコンです」


「随分と準備がいいね」


「必要なことでしたので」


 ひょっとしてだけどさぁ……


「……理由をつけて一緒にゲームしたいわけじゃないよね?」


「違います……私がやっているオンラインゲームでソロでさみしくなってきたとかではありません。この際だから自分の好きなゲームを普及しようとも思ってません」


「思ってませんって言うならそうなんだろうねー」


 うん、まぁ、せっかく誘ってくれたんだから付き合うけどさ。



 というわけで、里楽さんの用意してくれたパソコンでゲームを起動する。

 キャラメイクとオープニングを見終わって、無事に里楽さんと合流した。


「そういえば、なんか聞いたことあるゲームだね」


「私の好きなVtuberがやっているゲームです」


「あー、それか」


「ちなみに、私のキャラクターの能力とかもできるだけ近づけてあります」


 里楽さんが自分のキャラクターを見せてくれた。


「へー……」


 って凄い能力してるなぁ。生産職なのに弓武器って……


「あ、そういえば、里楽さんもダンジョン潜ってた時は弓使ってたっけ」


 しかもそれなりに使えてたよね。


「弓を使いたくてそれなりに練習しましたので。でもアリスちゃんほどは当たりません」


 アリスちゃんっていうのは里楽さんの推しのVtuberさんだっけ? そのVtuberさんみたいになりたくて練習したってことかな?


「本当は銃のが得意ではあるんですがね。家庭の事情で……」


 親が真田さんだもんなぁ……


「レインさんにお願いされて、魔導銃を追加するつもりなんだけど、里楽さんもそっちのがいい?」


「……メイン武器は弓のつもりです」


 少し迷ったね。でも、憧れが勝った感じかな。


「というか……今どこに向かっているの?」


 合流してから里楽さんに付いて歩いているんだけど、どこに向かっているのかわからない。

 チュートリアルには冒険者ギルドに行けって言われてるんだけど、マップを見ると逆方向なんだよね。


「もちろん、あ、ここです」


 里楽さんが示した場所は1軒のお店だった。


「アイテムとか買うの?」


「いえ、買いませんよ? ここはアリスちゃんのお店です」


 ……なるほど。推しのVtuberがやってるお店と。

 いきなり案内するのがそこなの?


「あ、でも会いに行ったりはしませんよ? ちゃんと距離を守るのがファンのルールですから」


 うん、ならなんでここに連れてきたのか……悪気はないんだろうなぁ。


「そんなにそのVtuberさんのこと好きなんだね……」


 正直、僕自身はあんまりVtuberとか見ないのでわからない感覚なんだよね。


「……そうですね……飛鳥さんはピグマリオンって知ってますか?」


「……うーん、多分聞いたこと無いかな?」


「そうですか……まぁ、簡単に言えば好きになる対象はどんなものでもありえるってことですよ。それこそ、Vtuberっていう別の次元にいる人間でも関係ないわけです」


 調べておくといいですよとそう言って、里楽さんは窓へ向かった。


「里楽さん……」


 なんか真面目な雰囲気で語ってるところ悪いんだけど、なんで窓から店の中覗いてるのかな?

 流石に、他の人に見られてるから一緒にいるの恥ずかしいんだけど?

 推しのVtuberさんがいないかそわそわして会話がおろそかになってるでしょ。



 というわけで、改めて冒険者ギルドへ行ってクエストを受けてクリアした。

 早すぎる? いや、だって、里楽さん明らかにこの街にいていいレベルじゃないんだもん。

 あれよあれよという間に討伐対象のボスをクリアしてしまった。僕はただそれを眺めていただけだったね

 聞けば、最前線で戦っているとのこと。そりゃ強いわけだよ。


「こんな感じですがいかがでしょうか?」


 報告を終えた里楽さんが聞いてくる。


「うーん、街並みとかは参考になったかなぁ」


 確かに視点を変えてみるとゲームでもダンジョンに応用できそうな部分はそれなりにあった。

 ただ……


「イベント要素の参考にってなら、イベントが開催されている時にやらなきゃ駄目じゃない?」


 生憎今はイベントが開催されてなかったから普通の探索になってしまった。


「……盲点でした。いえ、しかしそれならばイベントが開催されている時にまたやればいいでしょう。飛鳥さんも当然やりますよね? ダンジョン運営のためですもの」


 あ、やっぱり続けさせるつもりなんだ。

 いや、いいけどね。僕も里楽さんとゲームするのはなんだかんだ楽しかったから。

 そうして、僕は定期的に里楽さんに付き合ってゲームをすることになったのだった。


「ところで、飛鳥さん。アリスちゃんの放送は見ましたか?」


「……」


 はい、後で見ます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る