閑話 とある兄妹の観光デートその2

 ケーブルカーに乗って30分。終点までやってきた。

 ケーブルカーにはいくつかの路線があるけれど、今回僕らが乗ったのは1番人気の路線。港行きの路線だ。

 この港がまた観光地になっていて、かなり人気がある場所なのだ。


「うわぁ、ここも久しぶりに来たね! あ! あの看板!」


 雛香が指差す先には大きな蟹の看板がある。うん、独特の看板だよね。

 この港では渡り蟹が有名で地元で捕獲した蟹を食べることができる。

 今は、まだシーズン中だから美味しい蟹が食べられるはず。


「まぁまぁ、蟹は昼に取っておこうよ。ちゃんと予約してあるからね」


「そうなんだ! 流石お兄ちゃん!」


 昔家族とよく来た時に使っていたお店にはちゃんと予約をしておいた。

 だけど、お昼までにはまだまだ時間がある。


「さて、とりあえず、一周りしようか」


「うん!」


 雛香と手を繋いで港を散策することにした。



 観光地というだけあって、中には色々な施設がある。

 お土産屋さんから、ちょっとした遊び場、普通に洋服店や電気屋さんなんかもある。ないものを探すのが大変なくらいなんじゃないかな?


 適当にウィンドウショッピングを楽しみながら観光していく。

 久しぶりに来たのもあるけど、結構楽しめた。いや、ちゃんとデートだって認識しているからかな?


「あ! お兄ちゃん! あれ見て!」


 お店を出て歩いていると、雛香が立ち止まって指を差した。

 雛香が指差す方向には海があり、そこには浮き桟橋にねずみ色の何かが折り重なって寝転んでいた。


「おお! アシカじゃん!」


 こいつもここの名物、アシカの群れだ。

 理由は忘れたけれど、この港にはアシカの群れが生息していて、ここで日向ぼっこをしたりする姿を楽しむことができる。


「お兄ちゃん! 写真撮ろうよ!」


「ああ、そうだな」


 雛香がスマホを構えて、ちょうど僕と雛香の後ろにアシカが入るようにして自撮りをする。


「ははっ! あくびしてるところ撮っちゃった」


 写真を確認すると、ちょうど後ろのアシカが口を空に向けて大きく開いているところだった。

 今また見ると、そのアシカは突っ伏して眠りに入っているようだった。


「凄いリラックスしてるなぁ」


「ね! あっ!」


 見ていると、一匹の別のアシカが寝ているアシカに寄っていき、添い寝をし始めた。


「親子かな?」


「うーん、どうなんだろ? 夫婦だったりするのかもね」


 元から寝ていたアシカのほうが少し大きめだからオス、後から来たほうが小さいからメスだったりするのかな?

 いや、アシカの生態なんてわからないから、なんとなくのイメージだけど。


「ふふっ、兄妹で恋人同士だったりするのかもね」


「はは、だったら後から来たアシカは僕の寝ているところに忍び込んでくる雛香みたいなものか」


 オスのほうだって完全に寝ているわけじゃないだろうけど、添い寝をしてきたアシカを当たり前のように受け入れているし。

 そう考えるとあのアシカ達が幸せそうに見えてきた。

 それはきっと、それを見ている僕らが幸せだからなんだろうね。



 アシカをしばらく見た後、僕らはまた港を散策することにした。

 まだお昼までの時間はもう少しある。

 ウィンドウショッピングも楽しいけれど、ちょっと違うことをしたくなった僕らは水族館の中へ入った。

 今回デートするってことで、色々と調べたんだけど密かに気になっていたんだよね。


「凄い! 上を魚が泳いでる!」


「思ってたより凄いな!」


 この水族館の売りとして、周りが水槽のトンネル型の通路がある。

 右も左も上も水槽。優雅に泳ぐ魚たちを見ることができる。


「あれ! サメかな!」


「あっちはエイじゃないか? でかいな!」


 魚にはあんまり詳しくないけれど、大きな生き物見てるとなんとなく気分が興奮してくる。

 僕らははしゃぎながら通路を進んでいった。


「あっ、もう終わりなの……?」


 雛香が残念そうにつぶやく。

 流石にずっとトンネルってわけじゃないからね。でも、まだまだ楽しみは残っている。

 トンネルをくぐり抜けるとそこは少し薄暗い空間になっていた。


 その部屋の中心には1つの大きな水槽がある。


「うわぁ……綺麗……」


 トンネルが終わって残念そうにしていた雛香だったけれど、すぐにそれに目を奪われていた。


「ああ……凄いふわふわしてるな……」


 かくいう僕も同じだった。事前に調べて知ってはいたんだけど、やっぱり実際に見ると印象が違う。

 その水槽には、透明でふよふよとした生物、クラゲが自在に動き回っている。

 それが様々な色でライトアップされていて、凄く幻想的な光景に見える。


「……なんでクラゲってこんなに幻想的なんだろうなぁ」


「すごい癒やされる感じがするよね」


 やっぱり優雅に動く感じがいいのかな?

 実際のクラゲは毒があったりして危険なのは知っているけど、こうして安全圏から見るクラゲはいつまで経っても飽きる気がしない。

 雛香もすっかりハマってしまったようで 「後でクラゲグッズでも買おうかな!」 なんて言っていた。



 その後、僕らはゆっくりと散策をして水族館を後にした。


「ふー! 外は明るいなぁ」


 水族館の中は基本的に少し暗くなっているから、外に出ると少し太陽が眩しい。今日がいい天気で良かった。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「うん?」


 太陽の日差しを浴びていると、雛香が自分のお腹に当てつつ声をかけてきた。


「お魚食べたくなってきちゃった!」


 さっきまで綺麗な魚たちに感動していたのに、なんてことは言わない。気持ちは凄いわかるよ。


「そろそろ良い時間だしレストラン行こうか!」


「うん! いっぱい食べるよ!」


 そうして、僕らはお昼を食べにレストランへ向かった。

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