閑話 とある兄妹の観光デートその1
「もうそろそろ夏休みも終わりだね」
無事にゴーストタウンの初めてのイベントが終わってしばらくは休みという中、雛香がそんなことを言ってきた。
「あー、うん、もう残りはちょうど1週間だな」
今年の夏休みはずっとこっちで過ごした。
僕としては、今年の夏休みはマルチ対応をやったりゴーストタウンをダンジョン化してイベントをしたり充実した夏休みになった。
でもそれ以上に……
「雛香との関係が変わったのが1番の変化かなぁ」
「うん!」
今年の夏と言ったらやっぱりそれだ。
「あー、でも日本だと流石に気をつけないとまずいかもなぁ」
例えば学校とかで知られたら変な目で見られることは間違いない。いや、それは覚悟の上だけど、変に広めたりするものじゃない。
ふむ……それなら……
「雛香、明日暇か?」
「うーん? ダンジョンに入ろうかと思ってたくらいだけど」
雛香のそれは暇つぶしみたいなものだから、実質予定がないってことだね。
「だったら、雛香。明日デートしないか?」
「えっ!?」
せっかくのアメリカだ。人目を気にせずにデートを楽しむのもいいよね。
「というわけで、市街地までやってきたわけだけど」
次の日、2人で地下鉄に乗って中心街までやってきた。
「それでどこに行くの?」
「ああ、まずはケーブルカーにでも乗ろうかと思ってな」
「おー! 久しぶりだね!」
この市街地には珍しくケーブルカーが走っているのだ。
街中は坂がいっぱいあって、その中を走るケーブルカーはそれだけでも1つの観光スポット扱いになっている。
もちろん、僕らも何度か乗ったことがある。
「父さん、母さんと一緒に乗ったことはあるけど、2人だけってのは初めてだろ?」
「そう言われてみればそうかも?」
うん、正直、このケーブルカーってこの辺りに暮らしてる人がわざわざ乗るようなものじゃないんだよね。
それこそ観光やデートでも無い限りわざわざ乗るものじゃないと思う。
「今日のコンセプトは定番の観光地を2人だけで……だ」
そこ! 考えなしとか言わない。
僕らくらいになると、どこへだって行き尽くしているから2人だけでも新鮮なんだよ!
「うん! お兄ちゃんと2人だけ! 楽しみになってきた!」
雛香も同じ気持ちのようだ。単純なやつで助かった。いや、新鮮っていうのは嘘じゃないけどね。
「それじゃあ、ケーブルカーの乗り場に……おっと」
忘れるところだった。
「雛香……手を出して」
「あ……うん」
僕は雛香の手を握りしめる。
「……へへっ」
「うん」
少し汗ばむくらいの気温だけど、しっかりと恋人繋ぎで僕らは歩き出した。
「うわぁ、相変わらずここは人が多いねぇ」
「あー、時間が時間だからなぁ」
ケーブルカー乗り場まで行くとそこにはケーブルカーに乗るために並んでいる人が沢山いた。
僕らもチケットを買ってそれに並ぶ。
これだけ並んでいたら次の回には乗れなさそうかなぁ。
「おっ! ちょうど来たところだな」
ふと遠くを眺めると、ちょうど奥の道からケーブルカーがこちらにやってくるところだった。
ケーブルカーが直前で止まりお客さんを降ろす。
その瞬間、周りに並んでいる人たちがスマホを構えた。
こちらへやってきたケーブルカーは当然進行方向が逆になっている。そのため、再出発するためには方向転換をしないといけない。
何をあたりまえのことを? って思うかも知れないけど、これがまたこのケーブルカーの見世物になっているのだ。
ケーブルカーは丸い台座の上に乗り、それを運転手さんが人力で押していく。
言葉にすればただそれだけのことなんだけど、なんというか、人が押して回していく姿は凄く面白いのだ。
「そういえば、雛香も好きだったなぁ」
昔のことを思い出す。
雛香も子どものころはケーブルカーが回る様子を見て目を輝かせていたっけ。
「ははっ! 雛香だったらもっと早く方向転換できる! って言い張ったっけな」
子供ながらにやってみたいならわかるけど、自分のがうまくできる、というのは非常に雛香らしいと思う。
「そんな昔のこと思い出さないでよ!」
僕の言葉を聞いて雛香がちょっとむくれている。
「……でもやってみたいだろ?」
「うん! 雛香だったら回る台なんてなくても回せると思う!」
「ははっ! 確かに雛香だったらできそうだな」
ケーブルカーは普通の車なんかよりよほど大きい。流石に雛香と言えどまだ無理じゃないかな。
でも、雛香だったらいつかできるようになる日が来る。そんな気がした。
「さて、乗ろうか」
「うん!」
2つ目のケーブルカーに乗り込むことができた。
「座るか?」
「ううん! せっかくだから立とうよ!」
「了解」
このケーブルカー、もちろん普通に座席はあるけど、立っていることもできる。
しかも車体の外側部分についているステップ部分に立つこともできるのだ。
しっかりとポールに捕まって立ち乗りをする。
「うわぁ、気持ちいいね!」
「ああ、風が気持ちいい」
ケーブルカーは車ほどは早くないけれど、それでも街中の雰囲気を味わうのには最高の速度だ。
ステップに乗っていることもあって、その景色を満喫することができる。
坂道を登ったり降りたりするたびに身体が傾くけれど、それもまた楽しい。
目的地に到着するまでの30分程度、僕らは飽きることなく過ごすことができたのだった。
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なんか観光レポみたいになってて、ダンジョン関係なくなってる……閑話なので勘弁してください。
ちなみに今回の閑話は実際にある場所を参考にしてますが、そのままではありません。
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