閑話 とある社長その4

 急いで言われた場所へ駆けつけると飛鳥が倒れていた。全身が傷だらけでとてもじゃないが無事には見えない。

 急いで呼吸と脈を確認すると、どうやら死んではいないようだ。

 しかしこのままにしてはおけない。


「おい! 飛鳥! しっかりしろ!」


 呼びかけていると、飛鳥の目が開いた。


「……レインさん……ポーションを……」


 ポーション? そうか! あれだったら回復することができるのか!


 急いで手持ちのポーションを飛鳥にかける。

 それでもまだ足りないみたいだったから、急いで溜まっているDPでポーションを入手。くそ! 交換する時間がもったいない!


「……ぅ……ありがとうレインさん」


 飛鳥にポーションを使うたびに傷がなくなっていく。

 正直、こんなもので治るのかと疑問ではあったんだが、実際に回復するところを見るととんでもない効果だ。

 無事に飛鳥が起き上がれるまでそれほど時間はかからなかった。


 これは確かに戦争でも……いや、それは後だ。


「レインさん! 雛香は!?」


 雛香を心配した飛鳥に状況の説明をする。

 ここに向かってくる間に、里楽の嬢ちゃんから大まかな事情は聞いていた。


 まさか、本物の悪魔が現れるなんて……想像していた中でもトップのトラブルだ。

 飛鳥の能力でも対処できないトラブルっていうだけでもとんでもない事態なのに加えて、あの雛香ですら苦戦する相手だ。

 上空で今もまだ戦っている雛香を見る限り、そう長くは持つまい。


 この状況、私に何ができるか……


「早く戻らないと……」


 飛鳥が雛香のことを心配しているのを見て私は覚悟を決めた。

 2人のために私が時間を稼ごう。

 この事態に対処できるとしたら、それは飛鳥だけだ。それに私が出れば、雛香を休ませることもできる。こういうのを日本語だと一石二鳥って言うんだったか?


 1人で大丈夫かと心配していた飛鳥だったけれど、これでも戦場の経験なら私のほうが上だ。時間稼ぎくらいはできる。

 それに聞いている限りでは、たとえあの悪魔に負けても死ぬことはなさそうだしな。


 負けても命の危険はない? ほう? 簡単な任務じゃないか。

 相手に不明点が多いことは不安要素ではあるが、こっちはそういう状態でも生き残ってきた経験がある。

 なによりも、大事な従兄妹たちを苦しめてくれた相手だ。

 何、私が倒してしまってもかまわんのだろう? というやつだ。



 飛鳥の能力で飛べるようにしてもらった。

 とんでもない能力だな……人類の夢だった飛行能力までも与えることができるなんて……

 これを応用すれば……ってそんなこと考えている場合じゃないな! 急いで雛香の元へと駆けつけなければ。


「雛香! ここは任せて飛鳥のところへ行け!」


 魔導銃で悪魔を威嚇しつつ、雛香に向かって声をかける。


「レイン姉! でも!」


「いいから! お前の役割を思い出せ」


 子どもの頃から雛香はずっと言い続けてきた。


「飛鳥を守るのがお前の役目だろうが。今の状況をよく考えるんだ」


 このままでは雛香はやられてしまうだろう。死んだらペナルティで能力が下がってしまう。

 それでは飛鳥が何か思いついた時に対処が難しくなってしまう。

 雛香は頭は悪いが馬鹿ではない。特にこういう戦局を読むのは得意だ。


「……すぐに戻ってくるからね!」


 そうして、雛香は飛鳥の元へと飛んでいった。

 さて……それじゃあ私も仕事に移りますかね。


「待たせて悪かったな。ここからは私が相手だ」


 私は悪魔へと向き合い、魔導銃の引き金を引いた。



 そこからの話は私が語るべき内容ではないだろう。本編を御覧くださいってやつだ。

 まぁ、簡単に言えば、私が時間を稼いでいる間に飛鳥が妙案を思いついてそれを実行して無事にあの悪魔を倒すことに成功したってわけだ。


 悪魔を倒し終えると飛鳥と雛香は無事に帰っていった。今頃配信画面からまた私たちのことを見ているんだろう。

 さて、そんな私だが……


「さぁ、あとは貴様で終わりだな」


「そ、そんな姐さん……」


 私は魔導銃を仲間……元仲間へ向けていた。

 既に相手陣営は残りこいつだけしかいない。残りの連中はとっくに地獄へ行った。


「それなりに楽しかったぞ。お前との仲間ごっこ」


 そして私は引き金を引いた。


 一瞬の静寂……


『勝負が決まりました。ゾンビ陣営の勝利です!』


 アナウンスがそう流れた。

 そうして、周りには死んでいった、もとい敗れた生存者陣営の連中がリスポーンしてきた。


「あぁあああ! くっそ! 負けたぁあああ!」


「まさか、姐さんまでゾンビ側になっていると思わなかったわ!」


「あんなん勝てんって!」


 思い思いのお気持ちを叫ぶ。批判的な内容が多いようだが、誰も顔が笑っている。

 しかし、気持ちはわかる。


「ははっ! すまんな! 私自身も始まるまで知らんかったからな!」


 最終防衛が始まった時に、私自身もゾンビ陣営だと知らされていた。

 まさか、気が付かないうちにゾンビサイドにされていたなんてな。

 あの、ゾンビ陣営だった黒服の男、身のこなしからして一般人ではないと思っていたが、私に気が付かれずに引き込むなんてなかなかやるじゃないか。


「はぁ! くっそ! リベンジしてぇな!」


「しかし、このイベントはまた抽選だろ? 流石にもう1回ってのはきついんじゃないか?」


「それはそうだけど……せめてフレンド交換くらいはしておこうぜ! いつかまた一緒に潜れるようにな!」


「お! そりゃいいな! ぜひしておこうぜ!」


 勝負が終わってしまえば、負けた側も勝った側も恨みっこなしだ。

 あくまでもゲームだしな。

 私も何人かのやつらとフレンド交換をして……


「そういえば姐さん! その銃なんすか!? 見たことない武器ですよね!」


「あっ! それ思った! 銃タイプの武器なんて実装されてたんすね!」


 ……これは飛鳥に特別に作ってもらったやつなんだが、そんなことは言えんよな。


「そ、そうだな。どうやらかなりのレアアイテムらしくて運がよく手に入れたようだ」


 すまん、飛鳥。この魔導銃は早いところ一般人にも回るようにしてくれ。

 何、今回の私の任務報酬って考えたら安いもんだろう?

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