閑話 とある社長その3

「おっし、それじゃあ、私も参加してくるか」


「流れ通りよろしくね」


 私、レイン・スミスは従兄妹である飛鳥の頼みに応じて、とあるイベントに参加することになった。


「さてさて、どの程度の連中がいるかな」


 スマートホンから入場を選ぶと、そこは先日来たゴーストタウンの中だった。

 こうして、一瞬で移動してきたのも2回目のことだが、これがダンジョン、飛鳥が自由自在に操れる空間なんだと考えるととんでもない能力だなぁ。


 おっと、もう既に他の参加者も集まってきているな。

 よし、それじゃあ、予定通り適当に話しかけるか。


「ハロー、こっちの声は聞こえてる?」


「えっ? が……外国人さん!? ないすとぅーみーちゅー?」


 適当に選んだやつだったが、どうやら日本人みたいだ。

 こうしてイベントの参加者と交流しやすい空気を作るっていうのも飛鳥に頼まれたこと。

 そう、初めての大人数でのイベントでしかも配信までするって企画だ。私の役割はサクラってことになる。できるだけ愛想よく会話をしていたら、気がつけば色々な男が私の周りに集まってきていた。


「へぇ、姐さんは、このあたりの方なんですね」


「ああ、言ってもここからは少し離れているけどな」


 しかも、いつのまにか姐さん呼びになってる。なぜだ?


「それではイベントを開始いたします」


 飛鳥のサポーターであるミミが開始を宣言してイベントは始まった。


「よし、それじゃあ、まずは探索から始めようぜ! 5人組くらいで行動して最初の襲撃が始まる予告があったら再集合という形でどうだ」


 開始早々、そうやって提案するやつが現れた。飛鳥にはもしも誰も動かなかったら私が探索を提案するように言われていたが、それをせずにすんだ。


「姐さん! 一緒に行きましょう!」


 私はそばにいた男どもと一緒に探索することになった。

 一緒に行動するんであれば、いっちょ鍛えてやろじゃないか。こいつらひょろひょろでどいつもこいつも強そうに見えないしな。



「姐さん! こっちにもゾンビが!」


「大した敵じゃない! ツーマンセルで対処しろ! お互いの背中を守るように動くんだ!」


「ガッテン! よっしゃあ! やってやるぜ!」


 ついつい部下みたい接してしまったが……ふむ、こいつら見た目はひょろっとした感じだったが、動きはまぁまぁだな。

 うちの部下として……いや、それはまた別の話か。


 ひとまずそんな感じで探索を進めて、最初の襲撃の時間になった。

 しかし、集まって対処をしていると違和感に気がついた。


「おい! 邪魔だ!」


「あぁ!? そっちこそ邪魔だ!」


 先ほどまで協力していたうちの部下……仲間たちが争っている。


「おい! 仲間割れしている場合か! 敵を倒せ!」


「姐さんにも怒られちまったじゃねぇか! てめぇのせいだぞ!」


「あぁ!? 責任なすりつけるんじゃねぇよ!」


 私が注意しても争いはやまない。

 これはおかしい……先程探索している時は普通に協力できていたはずなのに、襲撃の対処を始めるとどんどんおかしくなってきた。


「くそっ! 敵に洗脳してくるやつでもいるってのか?」


 戦いながら1人ごちる。

 そんなこと飛鳥は言っていなかったぞ。私に隠してたのか!?

 こうやって混乱する私をニヤニヤして見ているってのか!? あいつ帰ったら覚えてろよ!?


 ……いや、待て待て、そんなことはないはず。冷静になれ私。飛鳥はそんな無駄なことはしない。

 わざわざ事前に段取りの確認までしているんだ、パニクるところを見るんだったら最初からそんなのはやらないはず。


 ということは飛鳥も予想していないトラブルか!? 飛鳥のやつ大丈夫なのか!?

 ひょっとして家で何か起こっていたり……ってそんなこともありないだろう。


 フィンや雛香だっているんだ、それに本当に飛鳥自身に起こっているとしたらそもそも中断されているはずだ。

 ……なんか私自身もさっきから感情がおかしい気がする。


「ふぅ……」


 こういう時は深呼吸だ……


「よし……」


 落ち着いて考えよう。

 今の私には何もできない。トラブルが起こっているとしても、それを解決するためには情報が足りなさ過ぎる。


 それに時間が経てば飛鳥が解決するはず。

 ひとまずは、それを待ちつつ周りの敵を倒していかねば。


 さしあたっては……


「貴様はそっちを対処! お前はあっちだ! 同じ方向の敵を狙うな!」


 部下もとい仲間たちを離れさせることから始めようか。

 しばらくそうやって戦っていると……


「……ぁ」


 すーっと何かが抜けていくような感覚がして思わず一瞬身体が止まってしまった。

 気の所為? いや、そんなことはない、現に周りにも私と同じような感覚を味わったのか、止まったままのやつもいる……って危ない!


「おい! ぼーっとするな!」


 そいつに襲いかかったゾンビに槍で一撃を喰らわせる。


「えっ……あっ……すみません。姐さん」


 そいつは助けられたことを悟ると謝ってきた。

 先程までの怒りに満ちた表情からは一変して気が抜けたような表情だ。


「……大丈夫か?」


「はい……なんか……なんかが抜けたような気がして」


 やっぱりか。周りを見てみても、首をかしげながら再びゾンビと戦いを始めている。

 どうやら、皆元に戻ったようだな。

 きっと飛鳥がなんとかしたんだろう。後で詳しい事情を聞かなければな。まったく苦労させやがって。


「もう一息だ! ここは死守するぞ!」


 だが、今はミッションの続きをしなくてはな。


 しかし、事態は私が思っているよりもよほど深刻だった。

 それがわかったのは、最初の襲撃を退けて2度目の探索を行っている最中。


『レインさんですか!? 飛鳥さんが大変なんです!』


 里楽の嬢ちゃんが泣きそうな声で私に連絡をしてきたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る