閑話 とある社長その2

 私の名前はレイン・スミス。民間軍事企業の社長をしている。

 そんな私は今、弟のフィン、叔父のエリオスさん、叔母の深月さんと4人で飲んでいた。


「まさか、飛鳥があの話題のダンジョンマスターだったとは……それに前世の記憶なんて……」


 話題は先日入っていたダンジョンのこと、そしてその制作者である飛鳥についてだった。


「うん、流石に驚いたよね」


 フィンが全く驚いていない風に言う。まさか知っていたとは思わないが、まぁ、こいつはこういうやつだ。


「お二人も前々から知っていたんですか?」


「うーん、僕らが知ったのは飛鳥がダンジョンを公開してからだったね」


「懐かしいわ、飛鳥ちゃんが誘拐されたと思ったらいきなり打ち明けられたんだもの」


「誘拐!?」


 いや、確かにあんな能力があったら狙われてもおかしくはないか?


「あ、いや、結局誘拐は勘違いだったから気にしないでいいよ。ともかく僕らも知ったのは割と最近だね」


「そうですか……聞いた時、どう思いました?」


 実の息子に前世の記憶があった……しかも魔族……悪魔みたいなものか? いったいどういう気持ちだったんだろう。


「私とエルの子供だもの! それくらいできても不思議じゃないわよ」


 叔母さんが即座に答えた。あー、のろけているわけじゃないんだよね?


「うーん、流石に驚いたけど……でも、飛鳥ならって感じではあったかな?」


 対して、叔父さんは少し考えて答えてくれた。


「飛鳥なら……ですか?」


「うん、思い出してみると色々と思うところはあってね。君たちも昔の飛鳥を思い出してごらん」


 言われて思い返してみる……昔の飛鳥は……


「……雛香の面倒をみてましたね」


「……それかひたすらパソコン触ってたね」


 こちらに遊びに来た時も泣いている雛香を慰めているかパソコンを触っているかのイメージしかない。

 ああ、でも叔父さんの言いたいこともわかった。


「……子どもの頃の飛鳥は賢すぎますね」


「うん、わがままとか言ってた記憶もほとんどないや」


 どこか、一歩引いて見ている子供っぽくない子供。それが飛鳥の印象だ。


「だろ? 明らかに思考が子どものそれとは違っていたよ。まぁ、その分雛香が結構大変だったから隠れていたけど」


 考えてみたら飛鳥に前世の記憶なんてものがあっても違和感は全然ないな。


「まぁ、その分、運動能力の方は雛香に取られてしまったみたいだけどね」


 確かに飛鳥の運動能力は……うん……戦場では生き残れないタイプだな。


「それにしても、対象的な2人だな……」


 方や頭脳タイプで運動は全く駄目。方や運動タイプで頭を働かすのは全く駄目。

 本当に兄妹なのか? と思ってしまうくらいの差だ。


「あの2人に関しては、雛香が凄すぎるってのもあると思うけどね、飛鳥の運動が駄目ってのは否定しないけど」


「ああ、確かにそれはあるな。雛香はヤバい」


「おや、師匠の君から見ても雛香は凄いのかい?」


 師匠、確かに子供の頃、そこらの大人よりも強い雛香に力の制御や戦い方を教えたのは私だ。


「……私から見てもあの子は化け物ですね」


 子どもの頃からとんでもなかったが、一緒にダンジョンに潜った雛香を思い返して改めてそう思う。


「体術……接近戦だともう勝てないかも知れません」


「まさか……とは言えないね、僕もあの子と一緒にダンジョンに入ったからわかるよ」


 フィンも同じように見積もったようだ。


「レインちゃんにそこまで言わせるなんて! 流石雛香ちゃんね!」


 叔母さんは喜んでいる。けど……


「強すぎる力、もしも扱い方を間違えてしまったら大変なことになる」


 さらに言えば、あの子はまだまだ成長途中なのだ。しかも最近は飛鳥のダンジョンによってその成長が加速している感じもある。


「このままだと誰にも手を付けられない化け物が誕生する可能性があります」


「……姉さん」


 フィンが私のことを非難する目で見てくる。確かに親に向かって言うことではなかったかもしれない。しかし、今言っておかなければならないことだと思う。

 いや、もちろん、雛香のことは信じているし、そんなことはしない子になったとは思っている。しかし、人間何かがあって変わる可能性だってあるのだ。

 私は戦場でそういう場面を良く見てきた。


「まったく……僕らの子どもたちはとんでもないなぁ」


「ええ、流石、エルと私の子ね」


 しかし、その親である2人はのほほんと笑うだけだ。事態を理解していない? 2人だってあの子がダンジョンで活動する姿を見ているはずなのに。


「レインくん、大丈夫だよ。あの子はそんなことにならない」


 叔父さんがまっすぐに私の方を見る。


「その根拠はなんですか?」


 叔父さんには確信があるようだった。


「だって、雛香は飛鳥にしか興味ないから」


「……それは確かにそうかも」


 確かに、あの子は飛鳥に対しては異常なまでに執着している。ブラコンなんて言葉では言い表せないくらい飛鳥のことが好きだ。


「もしも、雛香に何かがあったとしても、飛鳥が絶対に止めるからね」


 そして、雛香は飛鳥には逆らわない。


「雛香は飛鳥にしか興味がない……そうなるとむしろ危険なのは飛鳥の方ですかね?」


「いや、それも多分ないんじゃないかな?」


「なぜですか?」


「あの子の真実を知って思ったけど、あの子はあの子でダンジョンにしか興味ないみたいだしね」


 確かに……転生した地球でわざわざダンジョンを作り出そうというほどだ……


「正確に言えば、ダンジョンを人に広めることにしか興味がないってやつかな? 確かに飛鳥の力はとんでもないけど、飛鳥がその気だったら最初からそこら中をダンジョンだらけにしてるからね」


 確かに、わざわざ混乱を防ぐためにスマホアプリからダンジョンに入らせるなんてことをさせている。

 その気になればいかようにもできる能力を飛鳥は世界に馴染ませようとしている。


「うん、やっぱりあの子達は大丈夫だよ」


「ええ、私たちの子供だもの」


 自信満々の2人を見ていると私もなんだか大丈夫な気がしてきた。



「それはそうと、飛鳥は雛香の気持ちに気がついているんですかね? わざわざ別の女の子まで一緒に連れてきたりして」


「あー、それねぇ。うん、里楽くんとは随分と仲良くしているようだったね」


「あらあら、里楽ちゃんもいい子じゃない、私としては両方とも飛鳥のお嫁さんでもいいと思うわ」


「日本でもアメリカでも重婚は駄目ですよ」


 こうして酒が入った私たちは夜遅くまで2人の話題で盛り上がったのだった。


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