閑話 とある配信者とお嬢様?その3

 交流も終わったところで、ルール説明を受けて早速第1層の攻略を開始。

 開始して早々に小さなカニモンスターが2方向から押し寄せてきたのでそれを倒しにかかった。


 1方向を私と渚、もう1方向はヒヨコさんが1人で担当することになった。

 1人で大丈夫? と心配だったけど、ヒヨコさんが自身満々に1人で大丈夫と言い張るので、ファインさんを宝箱の前に残して戦いに入った。


「あっ! あれが特殊モンスターじゃない!」


 そうして、押し寄せてくるカニを倒している最中にいきなり渚が叫んだ。

 渚が指差したのは、ちょうどヒヨコさんがいる方だ。そこはカニじゃない別のモンスターが見える。


『あれなんだ? 触手?』

『イカ……タコか?』

『美少女とタコ……』

『センシティブですよ!?』


 いや、流石にそういうことには……


「あっ! ヒヨコさんに触手が!」


 タコ型のモンスターがヒヨコさんに触手を伸ばして絡みつこうとしている。

 ちょうどヒヨコさんから見ると見えない角度だったから、このままだと絡みつかれてしまう……配信の危機!?

 しかし、そんなことにはならなかった。


「えっ!?」


 伸びてきた触手をヒヨコさんは一切振り返ることなく、触手を避け、伸びてきた触手を持っていた剣でぶった切った。

 そのまま振り返り、タコモンスター本体に凄い勢いで近づき、頭に剣を突き刺す。


「えっ? やばっ?」


「なに今の動き」


 思わず、私たちも止まって見入ってしまった。

 まるで達人の剣舞を見ているみたいな感覚だった。それほどまでに、ヒヨコさんの動きは美しく、スムーズだった。


『見えないとこからの攻撃……音とかで判断したのか? それとも気配?』

『気配で反応とか達人かよwww って笑えないくらいの動きだった……』

『えっ? ヒヨコさん何者?』

『たった一撃でわかる実力者よ』


 視聴者さん達のコメントも一気に増した。

 ってあれ? ヒヨコさんがこっちの方を向いて……なんか指差して……


「あっ! まずい! 渚」


「えっ?」


 思わず見入ってしまったけど、戦闘の最中だった。

 私と同じように見入ってしまった渚にカニが襲いかかろうとしていた。とてもじゃないけどタイミング的に避けるのは間に合わない。


「きゃっ……えっ?」


 思わず悲鳴をあげた渚だったけどカニが渚に攻撃をすることはなかった。

 その前に光となって消えてしまったのだ。

 それをやったのは……


「ふぅ、油断は駄目ですよ」


「ファインさん?」


 いつの間にか、ファインさんが近くまで来ていた。


「とりあえず、減らしましょうか……よっと」


 ファインさんは拳を振りかぶり、カニを殴っていく。

 ファインさんの武器はグローブだけ。つまり無手でカニたちを倒しているわけ。


『武器なし……いや、あのグローブが武器判定ではあるけど……』

『ボクシングとかでもやってるのか?』

『いや、ボクシングってよりは、軍人格闘っぽい感じかな?』

『ともかく戦い慣れているのはわかる』


 あっという間に、私たちを囲んでいたカニは全滅してしまった。


「おやっ? どうやら、見えないモンスターもいたようですね。宝石が落ちていますよ」


「えっ? あ、ほんとだ」


 知らない間に特殊モンスターを倒していたようだ。


「それでは、私はこれを宝箱にいれてきますね。油断なきようお願いします」


「あ、はい。ありがとうございます」


 何事もなかったように去っていくファインさん。

 それはまるで散歩でもしにきたかのようだ。


『ファインさんかっこいいなぁ……男の俺でも惚れそうになるわ』

『ほんそれ、あんなスムーズに助けられたらな』

『戦う執事さんって感じ』

『2人とも歴戦の戦士だったかぁ……アオイちゃん仲間に恵まれたね』


 いや、ほんと、まさかあんな強い2人組とマッチングするんなんて……

 これは多分、余裕でクリアできそうだなぁ。



 2人のおかげもあって余裕でクリアとなった。


「これって私たちいらなかったんじゃない?」


「……そうかも?」


 正直、2人を見ているだけでもクリアできた気がする……


「いえいえ、そんなことはありませんよ」


 私たちの会話が聞こえていたのかファインさんが話しかけてくる。


「確かに、特殊モンスターを倒した数は我々のほうが多いかも知れません。しかしその分どこかで劣っている部分もあるのです」


「劣っている部分ですか?」


「はい、例えばですが……ひ……ヒヨコが宝箱に収めた宝石の数は何個でしょう?」


「えっと……」


 あれ? 言われて考えてみたら、ヒヨコさんってずっと先の方で1人モンスターを倒してたよね。

 宝箱に近寄ってたことなんてあったっけ?


「1個は入れたよ!」


 ヒヨコさんが堂々と言う。


「あ、0個じゃなかったんだ」


 渚……いや、私も思ったけど。


「と、まぁ、特殊モンスターを倒すことも重要ですが、それだけがルールではありませんので」


 確かに……クリアのルールは宝石を指定の数だけ宝箱に収めることだ。


『はー、そうなると、確かに貢献度的には収めた人のが高い?』

『うーん、どうなんだろ? そのルールだとどこも重要なポジションな気がする』

『特殊モンスターを倒して宝石をドロップ、それを運ぶ、運ぶ中邪魔になる雑魚モンスターを倒す……やることが多いなぁ』


「つまり、臨機応変というのが重要なのですよ。その点お2人は平均的に作業されておられたのでとても素晴らしいと思いますよ」


 ファインさんが嘘を言っている様子はない。本当に私たちのことを褒めてくれているみたいだ。


「あ、ありがとうございます」


 こう、かっこいい人に真顔で褒められると照れちゃうね。


 ともかく、私たちも役立っていたようでよかった。

 こうして私たちの初めての協力イベントは終わりとなった。


 個人的にはもうちょっと一緒にダンジョンに入ってたかったけど、こういうのは一期一会が楽しいもんね。

 まぁヒヨコさんとはまた潜ろうと約束をした後、連絡先を交換してあるけど。

 私としても、あそこまで強い人とまた一緒に潜れると嬉しい。


 その後、放送内外含めてそれなりに潜ったけど、ヒヨコさんたちとはマッチングすることはなかった。残念……



 後日、


「ねぇねぇ、葵、これ見て」


「うん? なに?」


 いつの間にか私のベッドに横になっていた渚がスマホを見せてくる。

 その画面にはダンジョンに関する掲示板が書かれており……


「めちゃくちゃ強い金髪のお嬢様と執事さんっぽい人たちとマッチングした」


 ……どっかで聞き覚えあるなぁ。


「あの2人あの後も潜り続けたんだね」


「うん、一応連絡しておこうかな」


 2人と入るのは楽しかった、また一緒に潜れるといいなぁ。

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