第2.5章

閑話 とある配信者とお嬢様?その1

「さてそろそろ始めようかな……」


 自室で時計を見ながら1人つぶやく。

 私の名前は土岐葵ときあおい。年齢は19歳。

 大学2年生で、美大に通いながらとある活動をしている。

 その活動とは……


「こんにちはー! 皆さん聞こえますか?」


 スマホに向かって話しかける。おかしな人? 違うこれがその活動なのだ。


『はじまた!』

『待ってた!』

『配信助かる!』


 スマホの画面にはコメントが流れていく。


「今日もダンジョンに入っていきますよ!」


 そう、私は大学に通いつつ、ダンジョン配信者として活動をしているのだ。

 しかもダンジョンがβ公開された当初から配信しているということで、結構な視聴者が私の配信を見てくれている。

 今のチャンネル登録者数は10万を超えたところ。

 どこにも所属していない個人勢としては、かなり凄いんじゃないかな?


 元々は大学の学費を稼ぐために始めた配信だったけど、無事にスーパーチャット、投げ銭も解禁されてそれなりにお金を稼げるようになっている。

 というか、前のバイト先で稼いでいたときよりも稼げている。

 お金をもらうってなると緊張するけど、見てくれている人のために楽しい配信をしなくちゃね。


「というわけで、今日から始まる、マルチ協力型ダンジョンに入っていきます!」


 今までのダンジョン配信は1人だったけれど、今日追加されたダンジョンはマルチ、複数人で挑むことができるというものだ。

 私個人としても、ダンジョンに入っている人間としても、これを待っていた! という機能だ。

 今回はその記念として追加されたイベントに参加していく。


「えっと、事前の情報ですと、知り合いと合流できる機能があるらしんですが……あ、これかな?」


 スマホをポチポチして、目的の機能を探す。


『あら? 知り合いと潜るの?』

『アオイちゃんの友達?』

『野良の合流はありですか?』


 視聴者さんと合流もできるみたいだけど……


「ごめんね、私の友人がどうしても一緒に入りたいって言ってて」


 その友人とは、ルームシェアをしている渚だ。

 元々配信を勧めてくれたり、お金がない私を家に住まわせてくれたり恩人と言ってもいい。


「あ、でも、他2人は野良で募集するつもりなので、タイミングがあったら入れるかもしれないですね」


 積極的に募集はしないけれど、いわゆるスナイプを否定するつもりはない。

 そういうのは運次第だからね。


「知らない人と潜るっていうのも今回の醍醐味だと思いますので」


 もしかしたら配信を嫌がる人がいるかもしれないけど、その時はその時。


「それじゃあ、早速入っていきます!」


 私はスマホのボタンをポチッとして、ダンジョンに入場を……


『ちゃんと目をつぶってね!』

『毎回目をつぶってコメントあるの笑う』

『そりゃ、最初のマーライオンは衝撃だったからな』


「わかってますよ!」


 毎回、ダンジョンに入るたびに思い出させるのは勘弁してください。


『切り抜きはこちら』


「切り抜きに誘導するのもやめて!」


 おかげで一部でマーライオンって呼ばれてるの私知ってるんだからね!



「と、そろそろ……うん、大丈夫」


 酔い防止のためにつぶっていた目を開く。

 そこはさっきまでいた部屋とは違う、洞窟の中だった。

 まぁ、だいたいダンジョンに入る時はいつもこの部屋から始まるからいつもの部屋って感じ。


「おやっ?」


 なんとなく部屋を見回していると、突如部屋の中に魔法陣が現れた。

 そして、そこから浮き上がってくるように1人の女の子が現れた。

 女の子はさっきの私みたいに目をつぶっていたけれど、


「渚?」


 私の呼びかけに目を開く。


「あっ! 葵!」


 私のことを見つけると、私のところに飛び込んできた。


「ちょっ!」


 ルームシェアしてわかったことは、この子が実は結構な寂しがり屋だってこと。

 そして、結構スキンシップが過剰ということだ。こうして、飛びついてくるのも結構ある。

 それ自体はいいんだけど……


「渚! 配信中! 今生放送してるから!」


 流石にその様子を全国の皆さんにお届けするのはちょっと恥ずかしい。


『てぇてぇ助かる』

『唐突なてぇてぇに脳が焼かれた』

『その子が友人ちゃんかな?』

『助かる(*˘︶˘人)』


 なんか変に配信が盛り上がっちゃってるし。

 なんとか、渚を引き離してカメラに向き直る。


「えっと、この子は渚、私のリアルな友達です」


「やっほー、私は渚、葵と同棲中だよー」


 ひらひらとカメラに手を向かって振る渚。


『かわいい!』

『なるほどロリか!』

『うん? 同棲?』

『彼女ですか!?』


「いや、ちょっと待って! ただの同居人だから! 友人だから!」


「ははっ! 私的にはどっちでもいいんだけどねー」


「もう、冗談もほどほどにしてよね!」


 視聴者さんに変な誤解されちゃうじゃない。

 もう遅い気がするけど……



「と、ともかく今日はこの渚と一緒に入っていきます」


「うん、頑張るよー」


「ちなみに、渚は一般公開からダンジョンに入り始めた子ですが、私よりも入りまくってますね。種どのくらい手に入れたんだっけ?」


「うーんと、50個くらいは食べたかな? おかげで最近足が速くなってきた気がするよ」


『50個!?』

『1人でそんな入ってんの!?』

『速度推しか!』


 時間があれば潜ってるからなぁ渚は、ちなみに私は25個くらい。

 いろんな種類を取って食べてる感じだね。能力が上がった効果は……うん、まだあんまり実感ないけど。


「渚はゲーム廃人だからなぁ……っと、そろそろ残り2人も来そうな感じ?」


 スマホを見ると残りの2人も選ばれたみたいだ。

 どんな人か気になるね。楽しく攻略できるといいんだけど。


「あっ! 来た!」


 さっき渚が入ってきた時と同じように魔法陣が現れる。同時に二つだ。

 そして現れたのは……


「Alright, let's do this!(よーし、頑張るぞ!)」


「Phew, here we go……(やれやれ)」


 金髪の女の子と男性だった。

 えっ? 英語? 外国人?

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