第44話 帰国

「はぁ……色々と終わったなぁ」


「そうだねぇ……」


 膝の上に乗せた雛香の頭を撫でながら僕はつぶやく。

 ゴーストタウンでやったイベントから既に2週間ほどの時間が経っている。


 その間にも2回ほど同じ形式のイベントを開催して、そちらも無事に終わった。

 初回にあったあんなトラブルはなく何事もなく終わった感じだ。


 ちなみに、ボーナスイベントは別のやつを実装したので、初回のあの空中戦は幻のイベントとなっている。

 流石に毎回僕や雛香が出ていくわけにはいかないからね。


 これからも定期的にこのイベントは開催していくつもり。


「さぁて次はどんなダンジョンを実装しようかなぁ」


 なんて考えちゃったりして……


「……飛鳥さん、眼の前の問題から目をそらすのはあまり良くないですよ」


 里楽さんがジト目で僕のことを見てくる。

 わかってる……わかってるさ……

 そう、色々と終わった。でも、全てが無事というわけではなかったのだ。



「今もまだ掲示板で話題になってますよ」


 里楽さんがスマホの掲示板を見せてくれる。

 そこにはこんなことが書かれていた。


“あのNPCはNPCじゃなくて、ダンジョン関係者じゃないか?”

“何かしら本当のトラブルがあって対処してたんじゃ?”

“あの悪魔ひょっとして本物だったんじゃ?”

“知り合いのアメリカ人に聞いたら現地では本当に呪いの噂があったらしい”

“そういえば最初の襲撃の時もなんかおかしかったもんなぁ”


 なんて話題になっている。


「まぁ、流石に唐突だったから違和感あるもんなぁ」


 いきなりボーナスイベントなんて開いたから違和感を覚えた人がいて、それから色々と調査されて話題になっているのだ。


「話題になっている点に関しては問題ありません」


 まぁ、結局推測の域を出ないもんね。


「問題は……」


「……参加者さんが見てた僕が映像と全然違ったってなってることだよね」


 そう、僕は姿を隠してたはずなんだけど、現地にいた人の中に僕の本当の姿が見えていた人がいたらしいのだ。

 その人達がアーカイブの動画を見て自分が見ていたNPCと違うと言い始めた。


「いや、でも大丈夫じゃない? 黒髪の若い男って情報だけじゃ流石に僕まではたどり着けないでしょ」


 参加してた人も僕らの写真を撮ったわけじゃないしまた会うってこともないだろう。


「それはそうですが……そもそもどうしてそんな映像との差が出たんですか?」


「あー、それはだねぇ、多分あの悪魔のせいかな」


 あの悪魔と僕とで魔素を取り合っていた。

 それによって姿を隠す能力にも影響が出たんだと思う。

 あの姿を隠す能力も結局魔力を使ってるからね。

 雛香の姿は特に変わってなかったらしいから、僕が気絶したのとかも理由にあるのかもしれない。


「まぁ、流石にああいうのが他の箇所にもあるなんて思わないけどね」


 流石に土地に呪いがかかってましたなんてのはそうそうないでしょ。


「……飛鳥さん、フラグって知ってますか?」


 またしても里楽さんがジト目をしてくる。

 いやいや、でも流石に……ってこれもまたフラグかなぁ。


「……一応父に話を聞いておきますか」


 あー、確かに真田さんだったらそういうの詳しそうだね。


「うん? ひょっとして今回の件、真田さん知ってたりとか……」


「……その件も合わせて聞きましょう」


 うん、凄い否定できないというか、真田さんだったら知っててもおかしくないというか……

 そもそも、父さんの会社に売却するってのも真田さんの差し金だった気がするし。

 これはちゃんと聞いてみる必要がありそうだね……なんか誤魔化されそうな気がするけど。


 ひとまずイベントに関してはこんなところ。

 色々とトラブルはあったけど、乗り切ったって感じではあると思う。


「さて、準備はできたかな?」


 里楽さんと話していたら、フィンさんが部屋に入ってきた。


「はい、あそこに準備してあります」


 僕は端っこにあるスーツケースを指差す。

 そう、これから僕らは日本へ帰宅する予定なのだ。


「まだもう少し時間はあるけど、そろそろ荷物だけでも積み込んじゃおうか」


「そうですね。雛香、里楽さんも行くよ」


「あーい」


「はい」


 雛香を立たせて、スーツケースをコロコロしながら部屋を出た。



「おや、もう帰るのかい?」


「ねぇ、もっといましょうよー」


「流石に学校をさぼらせるのは駄目では」


 リビングまで行くと、父さん、母さん、レインさんがくつろいでいた。

 父さん、母さんは仕事を再開しているんだけど、今日は見送りってことでわざわざ来てくれた。


「まぁまぁ、また来るからさ」


 とは言っても、次は年末くらいかなぁ。

 少し先になっちゃうね。


「……あの、飛鳥さんだったらすぐに来ることができるんじゃないですか?」


「えっ?」


「ほら、この家をダンジョン化しておけば……」


「あ、あー!」


 確かに! その手があったか!


「そういえば、ゴーストタウンも一瞬で行き来してたもんね! お兄ちゃんの能力凄い!」


 なんでこんな簡単なこと思いつかなかったんだろう。

 そもそも、日本からの参加者だってあのゴーストタウンイベントに参加してたのに。


「なるほど……飛鳥の能力を使えばまたすぐにここに来れるってことだね」


「いいわねそれ! すぐに飛鳥ちゃんたちに会えるじゃない!」


 うちの両親も理解して嬉しそうだ。


「ふむ、そうなると、お前たちが使っていた部屋をダンジョン化するといい。あそこだったら使っていないから出入り口としてはピッタリだろう」


「うん、いいんじゃないかな。あの部屋を専用にしようか」


 無事に家主たちの許可も取れた。

 よし、それじゃあ早速……


「あ、ついでだからスーツケースとかも置いていこうか」


 無理に持ち帰る必要ないんだもんね。


「ですね。日本に帰った後に取りに来ればいいだけですから。楽ができます」


 里楽さんは楽ができて嬉しそうだ。


「ちなみに、飛鳥さん。飛鳥さんの家にはダンジョン化している場所はないんですか?」


「……あったら良かったなぁって今思ったよ」


 そうすれば、わざわざ時間かけて帰らなくても良かったのに。

 帰ったらすぐにでもどこかダンジョン化しておこう。


 そうして、僕らのアメリカ遠征は終わり、日本へ帰国した。

 まあ、家に帰ってまたすぐに荷物を取りに行ったんだけどね。

 やっぱりダンジョン創造スキルってめちゃくちゃ便利だなぁ。


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これにて2章完結となります。お読みいただきありがとうございました。

1章同様に閑話を挟んで3章となります。

閑話は6月3日より月・水・金の週3程度を目安に投稿いたします。

ペースは落ちますが定期投稿は維持できるように頑張ります。

引き続きよろしくお願いいたします。


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