第34話 探索開始

『それではイベントを開始いたします』


 ミミの合図でイベントが開始された。

 しばらくの間は皆どうしたらいいかわからない感じだったけど。


『よし、それじゃあ、まずは探索から始めようぜ! 5人組くらいで行動して最初の襲撃が始まる予告があったら再集合ってことでどうだ』


 1人の参加者が仕切り始めた。


「よかった、いい感じにリーダーっぽい人が出てきた」


「これも、ダンジョンとかゲーム慣れしている人を優先したからでしょうね」


 参加者がうまいこと協力できるかがちょっと不安だったんだけど、なんとかなりそうだ。

 もしも、誰もリーダーにならなかったらレインさんが提案する流れになってたんだけど、そうならなくてよかった。


“まずは探索。基本だね”

“フィールドの広さどのくらいなんだろ?”

“さっき映ったのを見た感じ結構な広さはありあそう”

“ここって本当にアメリカのどっかの街なんだよね?”

“公式の説明によると西海岸近くのどこかって話だが……”

“背景からするにおそらくモノリスマウンテンじゃないか?”

“背景に映ってる山から推測できるのか”


 おうおう、なんか早速特定されてる。

 まぁ、今回のイベントが終わったら情報を公開するつもりだったけど。

 ちなみに、たとえ突撃して来られてもダンジョン空間には入れないようになっているから心配ない。

 外から眺めることくらいはできるけどね。


『おう! マジモンのゾンビじゃねぇか!』


 おっと、早速接敵した。


『わお! まさかこの目でリビング・デッドを見ることになるとは!』

『しかし、変な匂いはしねぇな』

『匂いで戦えないとかなくて良かったじゃん、サンキューダンマス!』


 あー、そこはちょっと迷ったんだけど、ゾンビの腐敗臭消しておいて良かった。


『強さ的にはそこまでじゃねぇな』

『この間のカニくらいか?』

『おっ? そっちも前のイベント参加した感じ? どうだったよ?』

『野良で潜って難易度13までいった、流石にそれ以上は野良だと厳しかったな』

『あー、やっぱり野良は厳しいよね』


 早速交流も生まれている。

 うん、いい感じの傾向だね。


『姐さん! こっちにもゾンビが!』

『大した敵じゃない! ツーマンセルで対処しろ! お互いの背中を守るように動くんだ!』

『ガッテン! よっしゃあ! やってやるぜ!』


 早速レインさんが姐さん呼ばわりされてるんだけど?

 この短い間に一体何が……


『おっ! なにか見つけました! これがアナウンスにあった水晶でしょうか!』

『まじで! 俺にも見せて!』

『白い水晶! すげぇ! なんか渦巻いてる!』


 パーティの一つが重要アイテムを発見していた。

 この水晶は敵に対して広範囲攻撃をすることができる。

 これをどれだけ集めるかによって難易度が変わると言ってもいいと思う。

 この早さで見つけられたのはなかなか優秀と言えるかな?


 うん、生存者側は順調だね。

 さて、そんなわけで今回のゾンビ役になった男性のビリーさんはと……


『このあたりを探索しようぜ10分後にここで再集合だ、各自なにかあったら大声を出すこと』

『おう、わかった』

『……』


 うまく仲間と分かれることに成功していた。

 なるほど、パーティを仕切ることでうまくコントロールした感じか。


『……まずは情報だな』


 1人になったビリーさんは自分のスマホを取り出して調べ始めた。

 まぁ、いきなりゾンビ役になったからわからないよね。


『ご視聴の皆様にゾンビ役について再び説明いたします』


 おっ、ちょうどミミの方もゾンビ役に触れるみたいだ。


『今回は今現在映っている黒服の男性がゾンビ役、つまり敵側の役目になっております』


 冒頭の説明では一度ゾンビ役とはなにかって説明しているんだけど、誰か決まったから改めてって感じだね。


『ゾンビ役の目的は最後の襲撃で生存者を全滅させることです』


 ちなみに、それまでは仮にゾンビにやられてしまっても復活することができる。

 ただし、能力はそのたびに減らされる、いわゆるデスペナルティ状態での復活だ。


『ゾンビ役は生存者をゾンビにすることができます。しかし、生存者は自分がゾンビ側かどうかは最後の襲撃が始まるまでわかりません』


 いつの間にかゾンビにされてるから、自分がどっち陣営なのかは最後にならないとわからないわけ。

 だから、それまでは全く手を抜けないんだよね。


『ゾンビ役が生存者をゾンビにする能力は一度使うと一定時間を空けなければ再び使うことができません』


 なので、生存者全員をゾンビにすることは不可能。

 いかに自分たちに有利な人材をゾンビにするかっていうのが重要だね。

 ちなみに、時間的に言うと、最大でも5人くらいまでしかゾンビにできない感じだ。


『生存者の人数的にはゾンビ側が不利になりますが、水晶を見つけそちらに仕掛けをすることによって最後に登場するボスを強化することが可能です』


 水晶は生存者がそのまま使うと、ゾンビに大ダメージを与えるけど、ゾンビ役がそれに手を加えると逆にボスを強化する効果になる。

 つまり、ゾンビ役は水晶を集めて触っていくことも重要なわけ。


『以上になります。引き続き放送の方をお楽しみください』


 ざっくりと説明してミミは黙った。

 このあたり初見だと厳しいかもしれないけど、見ているうちにわかってくれると思う。


「おっ? ビリーさんがなにか見つけた」


 スマホでゾンビ役について確認したビリーさんが探索に戻り、何かを発見した。


『これが説明にあった水晶か?』


 ビリーさんが拾い上げたそれは、紫がかった水晶だった。


「あれ? なんか色が変な気がする」


「そうですね……毒々しい色をしています」


 確かにそれは、件の水晶だけど、もっと白い色のはず。


「あ、普通になった。光の加減で見間違えたかな?」


 うん、まぁ、多分気の所為だろ。

 ビリーさんは、拾った水晶を懐に忍ばせ、仲間の元へと戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る