第35話 現地参入
順調に進み最初の襲撃の時間になった。
『うぉらあああ!』
『ひゃっはー!!!』
『クソ雑魚どもがあぁあああ!!』
皆ノリノリで襲撃に対応している。
いや……ノリノリすぎるんじゃないか?
「……これ放送できる?」
いや、一応ゾンビはマイルド気味だし、本来だったら赤い血が飛び散るところが緑色の液体だったりするわけだけど。
「流石にちょっと絵面的に……まずくない?」
武器を持った人が人型のモンスターを笑いながら討伐しているのは子供には見せづらいかも。
「ゲームでもよくありますし大丈夫だとは思いますが、最悪アーカイブに年齢制限をかけられるかもしれません」
年齢制限かぁ……できればやめてほしいなぁ。
「それにしても、皆張り切り過ぎでは?」
最初に集まった時はもうちょっと皆冷静じゃなかったっけ?
集まって襲撃が始まった途端、口汚い言葉も増えたし、何よりも。
『あっ! てめっ! そいつは俺の獲物だぞ!』
『はっはー、だったら名前でも書いておくんだったなぁ!』
『くそ! 邪魔だ! どけ!』
『はぁ!? んだと? てめぇこそ邪魔だ!』
連携している味方同士でも言い争いが増えているように見える。
流石にお互いを攻撃したりとかはしてないけど、敵を取り合ったりでお互いの邪魔をしているようにも見える。
「確かに……少し異様ですね」
“味方同士争ってやがる”
“くっそ荒れてるな”
“おいおい大丈夫か?”
“なんか混乱させる敵でもいるのか?”
視聴者の方も参加者の様子に違和感を覚えているみたいだ。
今なこのくらいで済んでいるけど、流石にこのままじゃまずいと思う。
「ちなみに、混乱させる敵などいませんよね?」
「もちろん。ゾンビにそんな能力はないよ」
ゾンビは単に体力と耐久が少し強いだけのモンスターだ。
混乱はもちろん、魔法だって何一つ使えない。
「どうします? 一旦止めますか?」
うーん、確かに今のまま続けたらちょっと後々トラブルになりそうなのは確かだけど……
「流石にここで止めたくはないよなぁ」
記念すべき最初の放送だし、いきなり止めたらそれこそ不満になるに違いない。
「そもそも、どうしてこんなに荒れだしたんだろ?」
さっきパーティに分かれて探索していた時はこんなことにはなっていなかった。
「戦闘時の高揚にしてはちょっと行き過ぎてる気がするんだよね」
戦う時に興奮するってのはわかるけど、1人や2人ならまだしも、半分以上がナニカにかかったかのようにゾンビに襲いかかっている。
本当に狂乱状態のデバフかなにかをかけられてしまったみたいだ。
『飛鳥様、少し良いでしょうか?』
「ミミ? どうかしたの?」
悩んでいるとミミが話しかけてきた。
『お話しされていた件ですが、ダンジョンに感じる魔力に少しだけ違和感があります』
「えっ?」
違和感?
『極微小なものですが、飛鳥様とは違う魔力を感じます』
そんな馬鹿な。僕以外の魔力?
『それが原因かはわかりませんが、それが参加者へ悪影響を与えている可能性があります?』
「……ミミが言うなら本当に僕意外の魔力があるんだろうね」
こんなことでミミが嘘をつく理由なんてないし、ミミにはそれができない。
「ミミがそれを取り除くことは可能か?」
『巧妙に混ざり合ってしまっているようなので不可能です。直接原因を排除するしかないかと』
まじかぁ……
「飛鳥さんでもできないんですか?」
「うーん、僕の方ではそもそも違和感を感じ取ることまでできてないからなぁ……」
自分で0から作ったダンジョンならわかるんだけど、今回の場合は現地を変えたものだから手を出していない部分も多いんだよね。
「……直接見に行くしかないかなぁ」
遠隔では感じられないけれど、直接見れば違和感に気がつくはず。
「イベントを止めずに解決するとなるとそれしかないでしょうが、大丈夫ですか?」
里楽さんが不安そうに聞いてきた。
「聞いた限りでは、なにかおかしなトラブルが起こっている様子ですし、飛鳥さんのダンジョンでの強さは知っていますがそれも当てにならないのでは?」
確かに、正直、想定外の事態になっている感じはしてるんだよね。
「とはいえ……僕が行かなかったら解決できなさそうだしね」
魔力がどうこうなんて普通の人が見てもわからないはず。
それがわかるのは僕だけだ。
「……雛香さんを連れて行ってはいかがですか?」
「えっ? 雛香?」
「ええ、雛香さんならばもしものことがあっても飛鳥さんを守れるでしょうし。ですよね?」
「うん! もちろん! こんな時こそ雛香の出番! 雛香がお兄ちゃんのことを守るよ!」
黙って聞いていた雛香が立ち上がった。
「もし駄目だって言われても付いていくから!」
雛香は僕にひっついてきた。
これは置いていくとかできないなぁ……
「わかったよ、なにかあった時はよろしく頼むよ」
「うん! 任せて!」
「それで、お兄ちゃんどうするの?」
ゴーストタウンの誰もいない場所へと移動してきた。
「ひとまず、見つからないように認識阻害をかけておこうか」
僕はともかく雛香の見た目は目立つからね。
できる限り見つからないようにしたい。
「あとは自由に動き回れるように飛べるようにして……よし、これで大丈夫と」
ついでに色々と飛び回れるようにもしておいて。
「お兄ちゃん!? なんか背中に翼が生えてるよ!?」
雛香が驚いて指を差している。
その先、僕の背中には白い翼が生えていた。
「そういう雛香にも生えてるからな? これで空を飛べるようになったぞ」
やっぱりこういうのは上から見ていった方が早いからね。
ちなみに、実際はこんなものなくても飛べるんだけど、やっぱりイメージとしてはあったほうが楽だからね。
「その翼は自分の意志で動かせるぞ。こんなふうに動かすと飛べるから、雛香もやってみな」
僕は翼を動かして浮き上がる。
そういえば、こっちの世界で飛ぶとか初めてか。
「ほんとに飛んでる! 雛香も!」
雛香が自分の翼を動かす。
「うわっわっ!」
しかし、勢いが強すぎたのか、すぐに何メートルも上空に浮き上がってしまう。
「落ち着け、少し抑えるんだ」
「う、うん! えっと……このくらい……弱すぎた……じゃあ! このくらいで!」
浮き上がったり沈んだりで苦戦していたようだったけど、なんとかものにできたみたいだ。
こういう時、運動能力が高い妹で助かる。
「ははは! 楽しい!」
なんかもう既に飛び回ってるんだけど……
「いや、遊びに来たわけじゃなくてだな……まぁいいかあんまり離れるなよ」
「はは! うん! 任せて!」
凄い楽しそうだなぁ。今度また機会があったら飛ばせてあげるか。
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